アカデミックポジションの選考において、一般的なのか良く分かりませんが、欧米(スイス)でどういった選考が行われているのかについて興味がある人って、ケムステの読者の方々の中にどれくらいおられますでしょうか?どちらかと言うとあまり学生さんの興味をそそりそうに無い話題かとは思いますが、この手の話は今まで出ていなかったので、あくまで一例ですが、私が所属していた研究科で、どんな選考が行われたについてレポートしたいと思います。尚ポジションはAssistant Professorです。
筆者は、どうせこの手の選考ってコネがある人か、Publicationのいい人がポジション取るんだろうと思っていたんですが、どうやらそうではない部分もあるようで。筆者も所詮は学生ですので、政治やら教授同士の関係性やらそんなことについては良く分からない部分もあります。そのため今回は学生目線でそれなりに調べて書いてみたということで生暖かく見てもらえるとありがたいです。
選考フロー
応募要項に記された条件に従って応募者が集まり、最終的に候補者を一人に絞ります。選考は書類選考から始まり、インタビュー、公開プレゼン、クローズドなインタビューとなります。
- 書類選考
- インタビュー
- 公開プレゼンテーション
- 選考員会のインタビュー
最初の書類選考は数百のアプリケーション(今回は300-400程度だった模様)から80程度の候補者にCVとPublication Profileなどから絞り込みます。
次に絞り込んだ候補者にスカイプインタビュー?などによりさらに候補者を8人に絞ります。最後に8人の中から、最終的にどの候補者が一番良いかを決めます。
今回の公開プレゼンテーションおよび選考委員会によるインタビューは2日間にわたって行われ、8人の候補者が発表しました。分野の幅は比較的広くbiosynthesis、total synthesis of natural products、organocatalysisなどにわたりました。公開プレゼンの持ち時間は約30分。その後公開の質問時間が5分程度設けられます。発表はもちろん英語です。
発表を行った候補者について
候補者の分野もそうですが、その経験に関してもかなり幅が広かったのが印象的でした。まだ、ポスドクを始めてそれほど時間がたっていないおらず博士課程の仕事のみを話した候補者や、いい仕事をしているけれど、Publicationとしてはイマイチという候補者(確かまともなPublicationはJOC一報だったかと。論文のIFだけで比べるのは私もいかがなものかとは思いますが、特に初期選考においては論文の数とネームバリューが物を言います。正直私なんかだと敗戦確実の、Nature Scienceを持っている候補者もザラにいます。個人的な話ですが、私にとってはJOCの彼のプレゼンの方が、Nature二報持ってる候補者の仕事より面白かったです。)、CNS二報などというポスドクでもすでに素晴らしい業績を上げている候補者、すでに他国で小さいスタートアップのラボを運営している候補者など多岐にわたりました。それゆえ、主に自分の仕事のみを話した候補者(主にボスとの2人で論文を出しているケース)がいる一方で、ポスドクとして複数の学生やテクニシャンを率いてサブのチームリーダーとして仕事をしている場合(この場合、学生をまとめ、教育した経験があるという点でプラス、もちろんpublicationの数は増えるがAuthorの数も多くなる)、もちろん、ラボを運営している場合はさらにpublicationの数は多くなります。近年はコラボレーションの仕事が増えてきているので、チームを作って仕事をするという場合が増えてきています。候補者によってはPDの間に出した論文で、Corresponding Authorとなっている場合もありました。
公開プレゼンの内容
候補者はポスドクが大半で、PhDの仕事とポスドクの仕事を話す例が大半でした。ほかにも、すでにポジションをどこかでとっており、publicationの数が30を超え、その中からいくつかの内容を発表する候補者もいました。私個人としては候補者の経験が大きく異なることから、分野や研究経験に照らしたうえで、仕事の量と質がここでは焦点になっていたように感じました。時にはかなり厳しい、半分潰しにかかっているというような質問も出ていたので、大変そうだなーと思って見ていましたが、多くの発表者はかなり経験も豊富で、プレゼンはもちろんですが微妙な質問に対する答え方もうまい人が多かったように感じました。ちなみに、発表前や発表を終えた候補者はこのプレゼンを見ることはできません。もちろん、候補者への旅費は全額専攻科から支給されていました。
クローズドなプレゼン
公開プレゼンの後は、内部、外部約半数ずつからなる15人程度の選考委員の教授、准教授および、大学院の事務1人を含めた選考委員会により、より詳細なインタビューと候補者が立案したプロジェクトの発表とディスカッションが行われます。ここでは、主に発表者が立案したプロポーザルの質などが問われていたのかと思います。が、私も興味がとてもあったのですが、追い出されてしまったので内部で何が行われていたのかは分かりません。ですが、プレゼンと同様、プロジェクトのプロポーザルもかなり重要視されているように話を聞きました。
選考について
選考に関してはDepartmentのメンバーのコネクションが反映される場合や、様々な分野の候補者を呼んではいるけれども、実際に最も欲しい分野(不足しているので強化したい分野)の研究をしている人を採用するという場合もあるかと思われます。しかし我々学生にはそのような要素は良く分からないので、ここでは述べません。話に聞く限り、確かに欧米でも出来レースというのは存在するようです。ただ、かなり多くの教授の時間を割いて行う選考はやはりどの場合もかなりシビアで、公平に誰が一番良いのかを真剣に議論しているのではないかと、博士課程の学生としては感じました。
雑感
ヨーロッパでは日本の講座制とは異なり、Assistant Professor、Associate Professor、Full Professor.全員が独立ポジションとなります。(もちろんこちらにもHabilitant、Ambizioneなど日本における講座制の助教に相当するポジションもあります。が、それについては別の機会に。)なので、今まで培ってきた研究能力などをフル活用し、独自のアイデアをもってポジション獲得に臨んでいるものと思われました。正直、各候補者がどんなことをしたいと考えているのか、プロポーザルを聞いてみたいと思っていましたが、敢え無く我々学生は外に押しやられ聞く機会には恵まれませんでした。
このような厳しい選考を勝ち抜き、助教授候補として選ばれた場合、次は研究科とのネゴシエーションに移ります。ここでは、今度は大学に設備やスタートアップの資金と、毎年何人の学生を採用できるように給料を大学から引っ張ってくるか、引っ越し費用などをどれだけ出すかなどの交渉が可能です。また、教授の採用となると、ネゴシエーションにおいてCo-PIとしてパートナーがポジションをとれるように交渉するなどという話もよく聞きます(ただ、これで事故ってポジションを不意にしたという話も最近聞いたので、こういうネゴシエーションは結構慎重にすべきなのだと実感しました。)。
数年前に日本のどこかの大学で論文の数が足りなくて解雇されたPIが裁判を起こしたという話がありましたね。優秀でしっかりと仕事をしてくれる人はやっぱり大事だし、その選考において、公開プレゼンはなかなかいい方法だな。と思ったGakushiでした。
関連リンク
そうそう、北米にはThe 20xx Chemistry Faculty Jobs Listなるものがあるらしく、便利ですね。リンクはこちら(2018)やこちら(2019)