有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2019年6月号がオンライン公開されました。
梅雨入りしましたね。研究者にとって雨も晴れもあまり関係ないかもしれませんが、晴耕雨読という言葉もありますし、雨の日には有機合成化学協会誌を読んで勉強しませんか?
今月号も非常に興味深い内容が多数掲載されています。キーワードは、「不斉ヘテロDiels-Alder反応・合金ナノ粒子触媒・グラフェンナノリボン・触媒的光延反応・フェイズ・バニシング」です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:研究人生のはじまりとライフワーク
今月号は名古屋大学大学院工学研究科 八島 栄次 教授による巻頭言です。
ロジウム(II)錯体をルイス酸触媒として用いる不斉ヘテロDiels–Alder反応
立命館大学総合科学技術研究機構・北海道大学大学院薬学研究院 橋本俊一
穏和な反応条件にて高い反応性を有する独自のロジウム2核錯体触媒による、ヘテロDiels-Alder反応を詳細に紹介している。この方法により医薬品のリードとして期待される光学活性ヘテロ環のピラン環やピペリジン環が簡便かつ多彩に合成されている。
担持PdあるいはAu–Pd合金ナノ粒子触媒による脱水素芳香環形成反応
東京大学大学院工学系研究科化学生命工学専攻 金雄傑*、野崎京子
東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 水野哲孝*、山口和也*
本総合論文は,担持金属ナノ粒子触媒を用いる,フェノールやジアリールアミンなどを合成するいろいろな脱水素芳香環形成反応が紹介されています.分子状酸素を用いる,または受容体なしで脱水素反応が進行する,加えて触媒の回収も容易であるため,グリーンケミストリーに優れています.
生物模倣型触媒作用を用いるグラフェンナノリボンの表面合成
京都大学エネルギー理工学研究所 小島崇寛、Xu Zhen、坂口浩司*
本総合論文では、「生物模倣型触媒作用」を利用したグラフェンナノリボン(GNR)の新たな設計・合成戦略について述べられています。金属表面をGNR前駆体のコンホメーション制御・精密集積化・構造選択的重合の場として積極的に利用する坂口先生のアプローチは、有機合成化学者にも大きなインスピレーションを与えるものと思います。ぜひご一読下さい!
空気酸化によって再生可能な光延試薬の開発と触媒的光延反応への応用
「光延反応」は有名な人名反応の一つです。エステル化法としてのみならず立体反転ツールとしても重要な反応ですが、触媒的手法の達成例はほとんどありませんでした。本論文は触媒的反応への挑戦物語やその“ウラ話”が記載され、化学のみならず読み物としても楽しめる内容になっています。
第二世代フェイズ・バニシング法
有機物と水が混合しないことは周知の事実ですが、実はこの二つのどちらとも混じらない第三の相があります。それが“フルオラス相”です。フッ素原子含有量が多い有機化合物に見られる現象です。本論文はこの三種の相の互いに混じりあわない性質を巧みに利用し、“相の消失”という不思議なプロセスを使った変換法が示されています。新しい有機合成の世界を味わってみましょう!!
Rebut de Debut
今月号のRebut de Debutは5件あります。すべてオープンアクセスです。
有機分子触媒を用いた軸不斉ビアリールのエナンチオ選択的合成法 -芳香化前駆体の立体選択的構築に基づくアプローチ- (東京薬科大学薬学部)山口悟
ボロン酸を利用したCatellani型反応 (大阪大学大学院薬学研究科)八幡健三
テトラゾールを利用するカルボキシ基の光駆動型化学修飾 (金沢大学新学術創成研究機構)三代憲司
特定アミノ酸残基を標的とした高選択的分子変換反応の開発 (東京大学大学院理学系研究科)中室貴幸
アルキルアミン由来のKatritzkyピリジニウム塩を用いるC(sp3)–N結合変換反応 (明治薬科大学)伊藤元気
ラウンジ:Lectureship Award MBLA 2017受賞講演ツアーを終えて
今月号のラウンジは、微生物化学研究所の熊谷直哉博士の執筆記事です。
MBLA受賞講演ツアーの報告記事は、いつも感動させられます。熊谷博士の報告は、とてもユーモアに溢れており、いつか自分も…!!と夢を見てしまう、そんな報告でした。ぜひごらんください。
感動の瞬間:合成が苦手な化学者による超単純な天然物の全合成
今月号の感動の瞬間は、東京工業大学理学院特任教授の楠見武徳先生による寄稿記事です。
有機合成化学協会誌なのに、「合成が苦手な」!?と、とても興味がそそられました。内容もテンポ良く面白く、その光景が浮かんでくるようです。オープンアクセスです。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。