高校高学年向け化学の教科書が2019年度から新しくなりました。その作成の一部に関わる貴重な体験ができたので紹介したいと思います。
卒業してしまうと教育関係者以外にほとんど縁がなくなってしまうのが学校教科書というものです。最新版は(おぼろげな記憶の)15年前と比べてどうなのか?まず、だいぶカラーが増えたように思えます。当時は別に図解が多い資料集を使っていましたが、現在の教科書は写真やイラストが充実しています。教科書は100年前の内容などと言われがちですが、スマホ部品に関する話題など最近の問題も取り入れようとしているようです。ノーベル賞受賞研究などにも触れてあり、化学の進歩を感じました。
さて、教科書作成で私が関わったのはコラム記事です。出版社と関わりがあったわけではなく、突然取材依頼がきてインタビューに応じました。私が体験した大まかなスケジュールは以下の通りでした。
- 2016年2月 コラム取材の依頼・取材
- 2016年11月 教科書検定意見通知
- 2017年5月 献本
- 2017年11月 映像教材撮影・指導書執筆
- 2018年3月 教科書検定結果公表
- 2019年4月 使用開始
このコラムは、化学に広く興味をもってもらう目的で作られたものです。今回紹介された研究内容は2015年に発表した超低密度・透明エアロゲルの論文で、文章にまとめたのは有機化学美術館や化学書籍などでお馴染みの佐藤健太郎さんです。最初なんとなく引き受けた企画でしたが、2種類の教科書に1ページずつしっかり載って驚きました。映像教材やアプリ版もあるようです。なお、教科書書籍は生徒や教育関係者でなくとも一部書店で入手可能です。今どんなことが教えられているのか、いざ見てみると新鮮かもしれません。
学校教科書は4年間使われた後、新しいものに切り替わります。次の教科書では、ケムステ読者自身が今行っている研究が掲載されるかもしれません。私の場合は学位取得前後から1年間でまとめた内容だったので、学生のみなさんにもチャンスがあります。載ったところで科学的に意味があるわけではありませんが、行ってきた仕事に誇りをもてることでしょう。
個人的に「教科書に載るような発見」というのはひとつの目標でしたが(このような形でよければ)手の届くものでした。そんな夢のあとに残ったのは、使われている間に任期切れ無職になりそうな現実、というオチをつけておきます。