[スポンサーリンク]

一般的な話題

「オプジーボ」の特許とおカネ

[スポンサーリンク]

ノーベル賞受賞者の本庶佑特別教授(京都大)が、小野薬品工業に対して、オプジーボ関連の特許使用料の引き上げを要求しているというニュース(例えばこちら)が賑やかです

小野薬品は引き上げに応じる気配はなく、一方で本庶先生は批判を続けており、事態が円満に収束する気配は今のところありません。

また、アメリカでは、オプジーボ特許の「発明者は誰なのか」が争いとなっており、新たな火種となっています。

事態の行方が気になるところですが、本記事では、そもそも、本庶先生や小野薬品が、オプジーボについてどんな特許を出しているのかを見てみたいと思います。 

特許の中身

小野薬品の2016年のニュースリリースによると、小野薬品が、メルク(MSD社)を、①特許第4409430号、②特許第5159730号の2件の特許で訴えたということです。ちなみに、この訴え自体は、その後、和解が成立しています 

これら特許の権利は、小野薬品と本庶先生の共有となっています。
2件の特許の権利範囲(特許請求の範囲)は以下のとおりです。 

①特許第4409430

PD1抗体を有効成分として含み、インビボにおいてメラノーマの増殖または転移を抑制する作用を有するメラノーマ治療剤。 

②特許第5159730

PD−1抗体を有効成分として含み、インビボにおいて癌細胞の増殖を抑制する作用を有する癌治療剤(但し、メラノーマ治療剤を除く。)。   

①と②で、語尾が「メラノーマ治療薬」「癌治療剤(但し、メラノーマ治療剤を除く。)」となっている以外はほとんど同じ内容の権利となっています(メラノーマとは、悪性腫瘍(癌)の一種です)。 

これは、②は、①の「分割出願」といって、①の内容をほぼそのまま特許庁に出願しなおしたものであるためです。 

分割出願は、重要な技術について、権利の「取りこぼし」を少しでも避けたい場合にしばしば行われます。 

 

これら特許の中には、 

「本発明者らは、癌治療または感染症治療における新たな標的として、PD1、PDL1、またはPDL2に注目し、PD1、PDL1、またはPDL2による抑制シグナルを阻害する物質が、免疫機能の回復、さらには賦活機構を介して癌の増殖を阻害することを見出した。」 

と記載されています。 

まさしく、がん患者の体内でPD-1が働かないようにすることで癌に効く、というノーベル賞受賞内容が書かれた特許と言えます。 

特許使用料

ニュースリリースによると、小野薬品側には、メルクから、6 2500 万ドルの頭金+売上に比例した特許使用料(~2023年:全世界売上の6.5%、~2026年:全世界売上の2.5%)が支払われるということです。

この金額だけを見るとかなり高額にも思えますが、大きなリスクを背負って開発し、しかも薬価の改定などもあって今後の利益が見通しにくい中、もしかすると小野薬品としてはこれでも’安い’のかもしれません(あくまで個人的推測です)。

関連書籍

[amazonjs asin=”4331520773″ locale=”JP” title=”今こそ知りたい! がん治療薬オプジーボ (廣済堂健康人新書)”] [amazonjs asin=”B07JC3ZC5X” locale=”JP” title=”製薬大再編―週刊東洋経済eビジネス新書No.270″]
Avatar photo

P.A.

投稿者の記事一覧

弁理士。都内特許事務所で化学・材料系メーカの特許出願等を担当。
特許という側面から日本の化学を盛り上げたいと考えています。

関連記事

  1. 乾燥剤の脱水能は?
  2. 海洋エアロゾル成分の真の光吸収効率の決定
  3. タンパクの骨格を改変する、新たなスプライシング機構の発見
  4. 研究室でDIY! ~明るい棚を作ろう~
  5. 米国版・歯痛の応急薬
  6. 超原子価臭素試薬を用いた脂肪族C-Hアミノ化反応
  7. (+)-sieboldineの全合成
  8. 有機反応を俯瞰する ーエノラートの発生と反応

注目情報

ピックアップ記事

  1. レドックス反応場の論理的設計に向けて:酸化電位ギャップ(ΔEox)で基質の反応性を見積もる
  2. 教養としての化学入門: 未来の課題を解決するために
  3. 「大津会議」参加体験レポート
  4. 有機合成のための触媒反応103
  5. 英会話とプログラミングの話
  6. テッド・ベグリーTadhg P. Begley
  7. sinceの使い方
  8. 書物から学ぶ有機化学4
  9. CAS番号の登録が1億個突破!
  10. 逐次的ラジカル重合によるモノマー配列制御法

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

植物由来アルカロイドライブラリーから新たな不斉有機触媒の発見

第632回のスポットライトリサーチは、千葉大学大学院医学薬学府(中分子化学研究室)博士課程後期3年の…

MEDCHEM NEWS 33-4 号「創薬人育成事業の活動報告」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化する化学」を開催します!

第49回ケムステVシンポの会告を致します。2年前(32回)・昨年(41回)に引き続き、今年も…

【日産化学】新卒採用情報(2026卒)

―研究で未来を創る。こんな世界にしたいと理想の姿を描き、実現のために必要なものをうみだす。…

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP