[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

小型質量分析装置expression® CMSを試してみた

[スポンサーリンク]

学生が増えすぎて(うれしい悲鳴ですが)、機器を購入する余裕などこれっぽっちもない代表です。

さて、久々の分析機器のデモをしてみました。今回デモしたのはexpression® CMSという小型質量分析装置。実はLC-MS(液体クロマトグラフィー/質量分析装置)でみているからいらない、気軽に図れるMSがたくさんあって何の利点がるのか?と断り続けていました。

「とにかく体験してみてください!お願いします!」

と、営業マンの押しに負けたのと、丁度スペースがあいたので渋々承諾。

とかなり後ろ向きのスタートでしたが、いきなり結論の感想をいってしまうと、

「これはめっちゃ便利。欲しい!」

と思わせるものでした。今回は、この小型質量分析装置について紹介したいと思います。

expression® CMSとは

米国の分析機器メーカーAdvion社が発売している質量分析計です(トップ画像)。

もともと別会社が日本では総代理店となっていたようですが、最近Advion社が日本法人(アドビオン・インターチム・サイエンティフィック株式会社)を立上げてメーカー直販になったそうです。

質量分析の開発技術と合成化学の専門知識の蓄積を元に開発しているため、研究室で手軽に使ってもらって、壊れない、サイズが小さいといった特徴があります。

サンプルの質量を”みる”方法としては

  1. ガラス棒にサンプルをつけてプローブに挿入
  2. TLCプレートから直接分析
  3. Open Port サンプリングシステム(OPSI)

の2つがあります。それではそれぞれについてみていきましょう。

プローブを使う方法

専用の棒の先にガラス管がついていて、そこに液体でも固体でもちょこっとサンプルをつけます。その後プローブに棒を挿入。これだけです。5秒で結果が反映されます。

驚くべきところはLC/MSのように溶媒を用いないので、MSスペクトルがめちゃくちゃキレイ。親マス(分子イオン)とフラグメンテーションしかみえません。これは溶媒由来やカラム由来の不純物と混同せずにサンプルのMSがでていることが一目瞭然です。分子量100以下の化合物も溶媒ノイズなし。

この手法はASAP(Atmospheric Solids Analysis Probe)と呼ばれ、直接サンプルを確認できるものです。かといって濃度も気にする必要なくプローブは汚れに強く、高濃度サンプルもOKです。イオン化法はAPCIみたいなものなので、極性があまりない化合物に大変有効です。我々の研究室でも、分子量が小さくて、溶媒ピークと重なってみえなかった分子や、極性があまりなくESIで検出できなかった化合物の1発質量測定に成功しました。もちろんプローブを替えるだけで、イオン化法をESIに替えることもできるので、極性化合物も問題なく測定できます。

固体・液体サンプルのダイレクト測定

 

TLCプレートから分析

TLCプレートからも分析できます。ただしこの場合はオプションのplate expressが必要となります。展開した(しなくてもいいですが)TLCプレートを機械のなかに置き、赤いレーザーがでているところに見たいスポットをあわせて、スイッチ・オン。中央のノズルが下がって、シリカごとかきとり、直接CMSにインジェクションしてくれます。もちろんESI, APCI 両イオン源に対応しています。

反応でTLCを確認した後、できた新スポットをこの機械を使ってMSを確認することもできますね。これも学生に大変好評でした。

TLCスポットの質量を簡単にみることができる。

 

オープンポートサンプリングシステム (OPSI)を使った分析

Open Port Sampling Interface (OPSI)という変わったサンプリング方法があり、前述のASAP (APCIイオン化法)で検出できなかったサンプルをESIで分析したいといった場合に有効活用できる手法。MeOHを主にシステム溶媒として流れているポートにサンプルを一滴落とすだけでESIによるソフトなイオン化を施して検出する方法で、フロー合成のリアルタイムモニターなどにも適しているとの事(メーカー談)。

サンプルをOPSIポートの液だまりにチョンっと浸すだけで即座に質量が測定できるというASAPとはまた違ったダイレクトMS分析法ですね。従来だと、ガラスシリンジにフィルターを通して濃度調整したサンプルを打ち込む必要があるけれども、これなら前処理なしで濃いサンプルもいきなり分析ができる優れもの。

 

まとめ

2週間程度デモを行いましたが、こんなにデモ中に使われた機器はいままでありませんでした。それぐらい実用的な質量分析計であるといえます。誇張無くお金があったらすぐにでも購入したいと思わせるものでした。いや、本気で。エバポ1台分ぐらいのスペースで十分ですし、特別な電源もいらないそうです。デメリットがあるといえば、Advionがこの分析機器を撤退したら部品や修理などはどうするのかな?というところ。日本であまり馴染みがない機器を導入する際はいつも考えてしまいます。あとは分子量の上限が1200ぐらいであること(CMS-L 上限2000を使えば分子量の上限は2000まで対応できるらしいです)。有機合成の研究室でしたらそんなに大きな分子を扱うことはないと思うので特に問題はないと思いますが。

 

というわけで、今回expression® CMSをデモしてみました。正直実際に使ってみるのが、一番だと思います。

デモなどご希望の方は問い合わせフォームから。

Advion社の日本法人設立に伴い、メーカー直販となったため記事を加筆・修正しました(2022年4月21日)

 

関連動画

 

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. エクソソーム学術セミナー 主催:同仁化学研究所
  2. アメリカで医者にかかる
  3. 金属材料・セラミックス材料領域におけるマテリアルズ・インフォマテ…
  4. デカすぎる置換基が不安定なリンホウ素二重結合を優しく包み込む
  5. 金属から出る光の色を利用し、食中毒の原因菌を迅速かつ同時に識別す…
  6. 標的指向、多様性指向合成を目指した反応
  7. 第27回 国際複素環化学会議 (27th ISHC)
  8. オーストラリア国境警備で大活躍の”あの”機器

注目情報

ピックアップ記事

  1. ノルゾアンタミン /Norzoanthamine
  2. DABを用いた一級アミノ基の選択的保護および脱保護反応
  3. 有機硫黄ラジカル触媒で不斉反応に挑戦
  4. カプサイシンβ-D-グルコピラノシド : Capsaicin beta-D-Glucopyranoside
  5. 徒然なるままにセンター試験を解いてみた
  6. 高校生・学部生必見?!大学学術ランキング!!
  7. 動的コンビナトリアル化学 Dynamic Combinatorial Chemistry
  8. 天才プログラマー タンメイが教えるJulia超入門
  9. 自動車の電動化による素材・化学業界へのインパクト
  10. 塩野義製薬/米クレストール訴訟、控訴審でも勝訴

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

自己実現を模索した50代のキャリア選択。「やりたいこと」が年収を上回った瞬間

50歳前後は、会社員にとってキャリアの大きな節目となります。定年までの道筋を見据えて、現職に留まるべ…

イグノーベル賞2024振り返り

ノーベル賞も発表されており、イグノーベル賞の紹介は今更かもしれませんが紹介記事を作成しました。 …

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP