先日、ある再生医療関係の企業で候補者が内定を承諾した。数カ月悩んだ末の返事であった。時間を要したのは、彼は現職でも高い評価を受け、順調であったため、元々すぐに仕事をかえる気持ちはなかったからだ。更に、異業種からの転職であり、マーケット成長への期待感はあるものの、ビジネス化するには技術的な課題が多いため、不安もある。新卒から入社の慣れ親しんだ会社や、人間関係を振り切って仕事を変えることは、リスクを伴う大きな方向転換だったのだ。
その返事を企業に伝えに行った際、社長は「彼は決めてくれると信じていました」と入社を喜ぶと同時に、意思決定についてこんな話をされた。「大きな決断というのは、誰でも出来るものではない。勇気のいる選択だったと思いますよ。小さい決断ですら、本当に自分の心の声に従ってしている人は少ない。『友人に誘われたから』と行きたくない会食に行き、『妻が世間体を気にするから』とモチベーションのあがらない仕事を続け、それを美徳や優しさだと思い込む。僕はそれが意思決定からの逃避だと思います。それは他人の人生であり、自分の人生を生きていない。だからね、僕が『無理に入社を促すことはしなくていい』と言ったのは、最後は自分が決めることだから。小さな決断をしていない人間に対して、急に大きな決断をしろというのは不可能です」。
この社長の話にもあるように、意思決定をしなければならないときに、決められる人と決められない人がいる。上記のケースのように転職を考えていないときにオファーがあったり、会社の事情で急な転職をしなくてはいけなくなったり、決断のタイミングは突然やってくる。そのときに自分自身で意思決定ができるように、普段から何ができるか考えてみたい。
「自分はどうしたい?」と問いかける習慣をつける
つい先日もアカデミアのポストから中規模メーカーの研究職で内定がでた方がいたが、随分と悩まれた末、最終的には辞退したいという申し出があった。「妻がそんなに焦らず、もう少し勤務地とか条件のいいところを探せばいいと言っていますし、口コミサイトを見たら『部署によっては残業が多い』と書いてあるのが気になってしまい、今回はやはり見送ります。あと現職も繁忙期で自分が今抜けると迷惑がかかりますし」と。
私が「ご自身はどう思いますか?」と問いかけると、不安げな様子で歯切れの悪い答えが返ってきた。自分で「辞退」を選択したのであれば良いが、決断するプレッシャーから逃げているのであれば、残念な機会損失であると思う。「家族が心配する」「誰かからよくない噂を聞いた」「現職に迷惑がかかる」という一見正論らしきものは、決断しなくても良い理由探しになっていないだろうか。人の意見で決めると、それがうまくいかなかったときに人のせいにしてしまう。まずは自分自身に問いかけてみて、本心が「やりたい」なら、その気持ちをまずは受け入れてみてほしい。
普段の仕事の中でも、「部下の提案書に納得できないけど、細かい人だと思われたくないからまあいいか」と思ったときに「自分はどうしたいの?」と一度考える。そして自分はもっとこうしたいという気持ちがあるなら、それをまず認める。その上で伝えるか否かは状況判断であるが、物事を右から左に受け流す癖がつくと、大事なときにも決められなくなる。まずは日常の中で、自分で決めることを習慣にしたい。
マイルールをつくる
経営者や優秀と呼ばれるマネージャーにお会いすると、必ずと言ってよいほど決断が早い。ある会社の社長に「候補者との食事会の場所はどうしましょうか」と問えば、「東京駅付近の〇〇ホテルのレストランにしましょう。新幹線乗り場まで5分なのでご本人も好都合です」というようにすぐにレスがある。聞いてみると、商談や接待に適切な喫茶店やレストランをあらかじめ幾つかピックアップしてあり、シチュエーションごとにすぐに選べるようにしてあるという。店員の接客や雰囲気など、大事な打ち合わせの環境をあらかじめ自分で選択しているのだ。
また、決断ができない人へのアドバイスを聞いてみると、まずは「マイルールをつくる」ことを提案された。例えば、「食事を伴う打ち合わせは、基本的に朝食か昼食を優先する」、「メールのレスは当日中にする」、「ゴルフ接待は拘束時間が長いので受けない」「家族の誕生日の日は定時で帰宅して一緒に食事をする」「土日のうち1日は予定を入れないようにする」など、自分の価値観やスタイルを体現するようなルールを決めておくのだ。確かに、決断が早い人は自分のスタイルが確立している。「意思決定というのは訓練で徐々に取得できるので、まずは気負わずに自分が心地よいと思うルールを決めておく。自分で決めたことで生活や仕事が良くなったという成功体験が、自分で決断することの楽しさに繋がるのではないか」。まずは試しに生活面と仕事面で一つずつくらいから始めると良いかもしれない。
自分にとっての「チャンスの条件」を考える
能力や経験があっても、転職が上手くいく人とそうでない人がいる。それは不意にやってきた内定というカードが、自分にとってチャンスか判断できるかできないかで決まるのだ。例えば、はじめて転職の相談を受ける際にも、判断できる人かできない人かは明確に分かる。
―「希望条件について教えてください」
Aさん:
自分の経験が生かせる研究職であれば、基本的にはどこでも受けたいと思います。出来れば大手の方がいいです。年収はとりあえず600万円以上でお願いします。ただ自分の興味のある求人だったら多少は下がっても良いです。勤務地は都内近郊ですが、大阪とか名古屋の都市部だったらたぶん妻も良いっていうと思いますが・・。
Bさん:
材料メーカーの中でも、新規事業部門で成長が見込める会社で開発職の仕事がしたいです。現職はスマートフォンの売り上げに受注が左右されることが多いですが、それ以外の新しいコア事業をつくる投資をしていません。なので、成長産業に中長期的に取り組んでおり、買収等ではなく自社で研究開発を行う企業を希望します。
条件は、家賃や子供の学費を考えて、リビングコストとして東京勤務であれば年収650万円の維持は絶対条件とさせてください。ただ、地元である東海地方へのUターンであれば、実家に住み、生活費も下がるので、多少の年収ダウンは問題ありません。この件については家族とも相談済みです。
この場合、明らかにチャンスを掴める可能性があるのはBさんである。Aさんの場合、「どこに住みたいか」「どういう働き方がしたいか」「次の会社で何をしたいか」などの基本事項についての意思決定がまだ出来ていない状況である。しかし、本当に「どこでもいい」ことはない。どんな求人にも「何か違う」と感じてしまい、進まないケースが多い。それに対してBさんの場合、現職の何が不満で、どういう環境なら自分のしたいことが出来るのかを自分自身でよく理解している。また、将来的な家賃や生活費など試算してリビングコストを算出しており、希望年収も明確である。Aさんは根本的に「自分がどうしたいか」がまだ不明確なため、自分にとって良いオファーなのかどうか見極められない。一方Bさんにはどんなオファーがでても、どれが自分にとってチャンスで、どれがそうでないかすぐに選ぶことができる。
以上、転職でチャンスを掴むことができるように、どんなことでも自分で意思決定をする習慣をつけてみてはいかがでしょうか。
まとめ:転職でチャンスを掴める人、掴めない人の違い
- 「自分はどうしたい?」と問いかける習慣をつける
- マイルールをつくる
- 自分にとっての「チャンスの条件」を考える
[文]太田裕子 [編集]LHH転職エージェント(アデコ株会社)
*本記事はLHH転職エージェントによる寄稿記事です
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化学系技術職においては、研究・開発、評価、分析、プロセスエンジニア、プロダクトマネジメント、製造・生産技術、生産管理、品質管理、工場管理職、設備保全・メンテナンス、セールスエンジニア、技術営業、特許技術者などの求人があります。
転職コンサルタントは、企業側と求職者側の両方を担当する360度式。
「技術のことをよくわかってもらえない」「提案が少ない」「企業側の様子がわからない」といった不安の解消に努めています。