有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2019年5月号がオンライン公開されました。
令和になりました。10連休も終わり新メンバーも慣れてきて、研究室の本格始動の時期でしょうか。
研究室での勉強会に、有機合成化学協会誌、ぜひご活用ください。
今月号は特別号『ラジカル種の利用最前線』です!今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
巻頭言:ラジカルルネッサンス
今月号は東京工業大学 化学生命科学研究科 穐田 宗隆 教授による巻頭言です。
光触媒によるハロゲン化アルキルのアルケニル化およびアリル化反応
本総合論文は,遷移金属触媒/光照射によりハロゲン化アルキルからアルキルラジカルを発生させ,アルケンへの付加を利用して多彩なアルケン類を合成する反応が紹介されています.三成分反応への展開,ハロゲン化アルキルに応じた遷移金属触媒の選択など,本手法の特徴が述べられています.
可視光レドックス触媒作用:ラジカル反応の新戦略東京工業大学科学技術創成研究院 小池 隆司*
著者らの可視光フォトレドックス触媒の有機合成反応への展開に関して、応用例を幅広く示し、その反応機構について詳述している。光触媒の選択における光触媒と基質の酸化還元電位が図としてまとめられており、非常に参考となる。著者らが開発した、色素やジフルオロメチル化試薬の開発と、その反応結果も含まれている。実際に反応へ使ってみようと興味を持っている有機合成化学者にとって、分かり易く、実用的にかかれている。
有機ニトロキシルラジカルを用いた酸化的分子変換の最近の進歩
空気中の酸素を使った酸化反応は、合成化学者が最も欲する究極の反応の1つではないでしょうか?本稿では、AZADOの開発者である岩渕先生により、有機ニトロキシルラジカル及びその類縁体を触媒として用いる酸化的分子変換について解説されています。幅広い読者層に有用な情報を提供する優れた記事です。ぜひご一読ください。
電子触媒クロスカップリング反応
2010年のノーベル化学賞の対象となったパラジウム触媒によるクロスカップリング反応に対し、白川研究室では遷移金属を用いないクロスカップリング反応(電子触媒クロスカップリング反応)の開発に成功している。本総合論文では本反応の基質の適応範囲および反応機構の詳細が記載されている。
レドックスタグで制御するラジカルカチオン付加環化反応
電気化学的手法を用いたラジカルカチオンの発生を巧みに使うことにより、アルケンが[2+2]型で付加したシクロブタン類を効率的に与える新手法の開発に関する総合論文です。電解酸化と分子内SET過程を組み合わせることにより、効果的に反応を進行させる「レドックスタグ」というユニークな方法論が紹介されています。
生物活性カルデノリド類の収束的全合成
東大井上研究室よりカルデノリド類の統一的全合成に関する総合論文です。一筋縄ではいかないステロイド骨格の立体化学を制御すべく、随所に骨格の性質を知り尽くした巧みの技が数多く登場し、読み応え十分な内容となっています!
タンパク質ケミカルラベリングにおける一電子移動反応の活用
東京工業大学科学技術創成研究院 佐藤 伸一* ・對馬 理彦 ・中村 浩之*
従来の有機合成化学では精製された基質が用いられますが、本論文では天文学的な数のタンパク質が存在する夾雑系において、ラジカル反応を駆使することで、狙ったタンパク質の選択的修飾反応が巧みに実現されています。新発想・新反応が凝縮されていますので、ぜひご一読ください。
天然物合成における窒素フリーラジカル種の戦略的活用:アゲラスタチンAの全合成
窒素ラジカルの反応を巧みに活用したアゲラスタチンAの全合成の論文です。第一世代から第四世代合成まで、課題を克服しながら合成の完成度を高めていく研究展開は、天然物合成化学者が模範とすべきところです。
イミダゾリルラジカルを基盤とする高機能フォトクロミック分子の高次複合光応答
日本発のヘキサアリールビイミダゾールを連結した架橋型イミダゾール二量体を基軸とした高速フォトクロミック分子の開発に関する総説である。非線形光応答性を示すバイフォトクロミック分子系の開発にも成功し、1 光子1 分子応答を凌駕する光機能材料の創生が期待される。
安定なπ共役系炭素中心ラジカルの合成、物性、反応性
本総合論文では、安定な炭素中心ラジカルの設計指針と、その精密集積化の戦略について述べられています。基礎的な研究背景とともに、機能物質開発を志向した最新の研究成果が紹介されており、関連分野を学びたい読者には必読の論文です。
局在化一重項ジラジカルの長寿命化:結合ホモリシス過程の新展開と新奇結合様式(C–π–C)の創製
想像してみよう。炭素−炭素σ結合が2つのラジカルに開裂する、あるいは逆に2つのラジカルが接近して炭素−炭素σ結合を形成する。その過程に存在する短寿命のジラジカル化学種とはどのようなものか?本論文では、分子設計、量子化学計算、有機合成、測定法を駆使して、それを解明しています。
Rebut de Debut:ヒドロシラン/アルコキシド混合系による分子変換
今月号のRebut de Debutは名古屋大学大学院工学研究科 忍久保研究室の福井 識人 助教です。
近年報告の多いヒドロシラン/アルコキシド混合系による分子変換についてまとめられています。オープンアクセスですので、ぜひご覧ください。
これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。