概要
近年急速に発展している光化学.光励起によって引き起こされる電子移動やエネルギー移動,蛍光・りん光などといった発光現象,光と物質との相互作用や励起分子の挙動といった基礎のみならず,有機合成や高分子合成への応用を意識した光反応の実例と反応機構,金属錯体や超分子の光化学,さらには多重励起や多光子励起についても解説する.また,光機能性材料や太陽電池,人工光合成をはじめ,最近の実用的な光化学も紹介.(引用;化学同人書籍紹介より)
対象者
- 光化学に興味がある化学者全般
- 光化学にまつわる最先端技術を抑えておきたい大学院生
- N. J. Turroの「分子光化学の原理」を読みたいがとっつきづらいと感じている学生
- 光がまつわる有機化学者と物理化学者の橋渡しをできるようになりたい人
内容
本書は、化学同人社より出版されている「同人アカデミックシリーズ」のシリーズ9番目の書籍であり、近年急速に発展している光化学に関しての本である。
書籍の構成は以下の通り。
【第Ⅰ部 基礎編】では、光吸収と発光(第1章)、電子励起状態分子の挙動(第1章)、分子間の光化学反応過程(第3章)について抑えておくべき一般的な考え方が網羅されている。
【第II部 物質・反応編】では、典型的な光化学反応、金属錯体、超分子など様々な系に対してかなり丁寧に光化学の具体例が紹介されており、第Ⅰ部で学んだ考え方がどのような形で当てはまっていくのかイメージを深めることができる。励起子的な経緯等も良いバランス感で紹介されており、教養としても非常に勉強になる。
【第III部 実用編】では、発光デバイス、レーザー治療や生体イメージングなどの実際に応用までされている例が幅広く解説されている。読みやすいように工夫された文章が多い印象を受け、光化学を用いた技術が実際どのような形で私たちの生活に関わってきているかを実感することができる。
おすすめの読み方
まえがきに『座右の書ともなる入門的教科書となることを目指した』と書かれているが、その目標を大いに達成した本のように思う。とにかく具体例が良いバランスで豊富に紹介されており、幅広いバックグラウンドの読者に読めるよう工夫が凝らされていた。この本を一回通して読了しておけば、光化学の分野で使われる用語などは最先端の用語も含めて一通り網羅できるだろう。光化学関係の論文や、関連する講演の内容などがぐっと頭に入りやすくなるに違いない。光化学の研究に興味がある初学者にはもちろん、既に光化学の最前線を走っているような研究者でも改めて発見があり楽しんで読めると思う。多かれ少なかれ光化学に触れる方は、手元に置いておいて絶対損のない一冊だろう。万人に薦められる良書に感じた。
光化学の入門書といえば、N. J. Turroの「分子光化学の原理」が有名だと思うが、必ずしもとっつきやすい書き方がされていない部分もあり、読み切るに至らなかった学生も多いのではないだろうか。そのような方には特にお薦めしたい。
おすすめの読み方
I, II, III部が上手く切り分けられていて、興味がある部分から個別に読み進められる読み方もやりやすい構成になっているのも本書の特徴だと思う。
・しっかり光化学を収めたい人は、第I部からじっくり読み進めるのが良いと思う。物理化学系の方であれば、量子化学の教科書や原著論文などを合わせて随所にでてくる式を背景にある仮定を抑えながら読み進めるとよいかもしれない。
・光化学でどんなことができるのか雰囲気を掴みたい人は、第II部のいろんな反応を眺めてみるところから始めるのもよいだろう。興味が出てきてから改めて第I部に返って読み進める読み方もできると思う。
・もっと雑駁に、光化学を絡めた身近な話題を抑えておきたい人は、もちろん第III部に目を通してみるのが良いだろう。内容的には光化学というよりも物理的な内容が多いところもあるが、光物理化学、分光分析の無限の可能性を感じることができると思う。
繰り返しになるが、こんなに広い読者層に読めそうに書かれた光化学の本は本当に貴重だと思う。個人的には、有機化学・無機化学・物理化学等の異分野の橋渡しに最適な本のように感じたので、機会さえ作れれば研究室合同の自主ゼミなどで扱ってみても面白いのではないかと感じさせられた。
新元号とともに新しいことを学ぼうと意気込んでいる方、令和の一冊目に、光化学のフロンティアを感じてみるのはいかがでしょうか。