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【チャンスは春だけ】フランスの博士課程に応募しよう!【給与付き】

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皆さまこんにちは。以前ケムステにてフランスでの研究生活を紹介させて頂いた者です。

さてそのフランスはナント大学、ジャンロッシェ材料研究所にて私たちが行っているプロジェクトが博士課程学生を大募集しちゃいます!5月中旬頃まで!詳細は後述するので興味ある方は是非!

ところでそのフランスの博士課程ですが、いつどこで募集しており、どのように応募すれば良いかご存知でしょうか?おそらくほとんどの方が聞いたこともないと思います。

一方で募集する側は海外からも質の高い学生を集めたいのに、その独特なシステムの所為なのか国外まで求人が行きわたらない現状があります。これはもったいない!

そこで私どもの広報のついでと言っては何ですが、情報収集と応募の方法について簡単に紹介させて頂きます。

念のため、これらは私が調べた・見聞きした限りの情報であり自然科学分野に偏ったものであること、フランスでの博士契約は千差万別であり例外はいくらでもあることを付記しておきます。

フランスの博士課程求人の流れ

図1.博士学生雇用の資金源。国(CNRS)、地域(Région)、大学(Université)からそれぞれの研究機関に一定数のポストが与えられる場合や、ANR(日本でいうJSTに相当)やEU、企業からのグラントを利用する場合がある

こちらのGakushiさんのケムステ記事にある通り、ヨーロッパの博士課程学生は給付型奨学金を持ってきて研究室で働く、もしくは研究室から給料を得て働いています。タダでいいから働かせてほしい!は通りません(※1)。またフランスに限って言えば、給付型奨学金を持っている博士学生はごくわずか。ほとんどの学生は研究室が個別に出している求人へ応募することで雇用されています。なので博士課程進学を希望する場合はまず求人情報をあさり、興味ある研究プロジェクトがないか調べる必要があります。もちろん、より狭き門ですが(1)自分で奨学金を取ってくるなり(※2)、(2)PIとプロジェクトを立案しグラントに応募するなり(※3)して道をこじあける方法もあります。しかし、一番簡単でメジャーな方法は(3)PIがすでに持っているグラントで募集している博士課程のポジションに応募するという方法です。今回は3つ目の方法に関する紹介です。

フランスでは毎年3月頃にどのプロジェクトで博士課程学生を雇用するかが研究所単位で決まり、4月上旬頃いっせいに求人情報が各研究所のホームページや後述するポータルサイト等にて公開されます。だいたい6月頃には候補者が揃うので募集を締め切ります。その後選考を経て採用者は9月または10月より研究開始といった流れです。

このたった1~2か月の間に雑多に散らばる求人情報にくまなく目を通し、興味ある研究プロジェクトを見つけ、その担当者に履歴書(CV)その他の書類を送らなければなりません。ということでこういう事情に詳しくない外国人はあまり応募してきません。よって募集側は知り合いの研究者のツテをたどる等してフランス国内で優秀な学生を探すのが一般的なようです。

しかし仕組みを分かってしまえばこっちのもんです。要はいい感じのプロジェクトを見つければ良い話なんですから。そして今は4月。今探せば、今年の秋入学に間に合う!

ということで、なるべく多くの求人が載ってるポータルサイトを紹介します。あなたに合った最高のプロジェクトを是非探してみてください!

おすすめ求人情報サイト

CNRS Career Portal

図2.英語版にしても多くは仏語のままです。グーグル翻訳を駆使しましょう。英国旗アイコンが付いてるプロジェクトは英語版の説明があります。Typeの欄にFTC PhD Studentと書いているものが博士課程学生の求人です。

フランス国立科学研究センター(CNRS)の求人情報サイト。CNRSが出資する有期雇用ポストがまとめられており、博士学生だけでなくポスドク、エンジニアの採用情報も記載されています。

特徴1:化学・材料分野の求人が多い

先ほど調べたところ50ほどの博士課程ポストのうち30個ほどが化学分野のプロジェクトでした。私どもの求人もここに公開する予定です。

特徴2:情報の信頼性が高い

一番古い情報で今年の3月5日公開で、締め切り次第削除されるのでスカ情報をつかむ可能性が低い。またいずれのプロジェクトも額面の月給として具体的な額(2135ユーロ)を提示しています。2018年の博士課程における最低賃金(額面月給1758ユーロ)と比較すると割と良い方ですし、給料に関する情報があまりない他サイトより信頼感があります。これだけあれば地方都市なら余裕を持った暮らしが送れます。ちなみに学費は年5万円ほどです。

Campus France

図3.左側のウィンドウのcategoryでDoctorateを選択すると博士課程の求人だけを表示できます。英語版にしてもほとんどの求人情報は仏語のままです。グーグル翻訳を駆使しましょう。

教育系の情報を提供する政府系機関Campus Franceが運営するポータルサイト。博士課程だけでなく修士のインターンシップやポスドクの求人情報も記載されています。

特徴1:使いやすい

左側のウィンドウから選択して分野や地域等を絞り込み検索できます。

特徴2:圧倒的求人数

例えば化学系の博士課程プロジェクトで検索すると95件も出てきます。一方でこの中には公表日が数年前だったり、あまりきちんとした情報が記載されてないものもあるので、要注意です。そのほかに求人数の多いサイトとしてはこちらのAssociation Bernard Geregoryなど、がよく知られてます。

原子力・代替エネルギー庁 (CEA)

その名の通り、放射性元素の化学や太陽電池材料、光触媒を用いた有機合成等、エネルギーに関するプロジェクトが主です。こちらも絞り込み検索が可能で、化学分野で検索したところ22件がヒットしました。このサイトの素晴らしいところは、英語版にするとプロジェクト名等もすべて英語になってくれるところです!

この他にもヨーロッパに研究留学する方には有名なマリーキュリー財団も博士課程の求人情報をまとめていますが、フランスの化学分野における募集は片手で数えられるほどしかないようです。

今回紹介したポータルサイトではオンライン上で応募することが可能です。一方で色々面倒臭ければとりあえずCVを添付して担当の研究者に直接メールでコンタクトをとってみるのも良いと思います。先方が興味を持ってくれれば、応募方法等について具体的な指示をもらえるはずです。

私たちのプロジェクトに応募してみませんか?

図4.私たちが開発した新しい層状遷移金属カルコゲナイド (Q = S, Se, Te) の合成法。遷移金属から分子アニオンのσ* 軌道への電子移動反応を利用して層状化合物内で二次元物質をその場合成できる。銅だけでなく、鉄やニッケルなど様々な遷移金属を挿入できます。

さて、そんな中私たちのチームでも最高にアツい博士課程プロジェクトを用意いたしました。この秋、私たちとフランスでまだ見ぬ新物質の探索を始めてみませんか?募集要項はコチラ!

どんなプロジェクト?

私たちが最近開発した新しいトポケミカル反応 (文献[1]、[2]) を駆使しながら、おもしろい光・電子・磁気物性を持つ新奇遷移金属カルコゲナイドの探索を行っていただきます。

カルコゲナイドとは主に硫黄、セレン、テルルからなる無機材料のことですが、これらの一部はその構造中に二量体~ポリマーまで、様々な分子状のアニオンを持つことがあります(図4左)。ところで、そこに分子があればたとえ無機物質だろうと反応させてみたくなるのが人情ってもんですよね?ということで遷移金属元素をぶつけてみたところ、この分子アニオンはレドックス反応を起こし遷移金属カルコゲナイドの層を新たに組み上げることが分かりました(図4右)。この未だかつて無い反応様式は通常の無機合成よりずっと低い温度で、層状構造を保ったまま起きるので、他の方法では作り得ないあらたな二次元化合物の設計が可能となります。狙うは超伝導や金属-絶縁体転移等を示す電子材料から、今をときめくトポロジカルおよびスピントロニクス材料、はたまた光触媒まで多岐にわたります!

どこでやるの?

フランスの西の端、ナントにあるJean Rouxel材料研究所 (IMN) で行います(以前研究所の雰囲気を紹介させていただきました)。本プロジェクトはIMNの肝いりで、研究室の枠を超えて精鋭を集めた横断型チーム « Axe Chalcogénure » (日本語だと「カルコゲナイドの枢軸」?)にて行います。ヨーロッパにまだ1つしかない最新の透過型電子顕微鏡など、最先端の設備が整った新物質探索には理想的な研究所です。

どうやって応募するの?

最終的には上述のCNRS Career Portalにて正式な手続きは行う予定ですが、募集側としても少々骨が折れるなぁということで、とりあえずプロジェクト指導教員であるLaurent Cario先生または Stéphane Jobic先生に直接コンタクトしてくださると助かります。募集要項記載のアドレスにCVを添付したメールをご送付ください。CVを基とした一次選考の上、見込みアリとなればその後の応募方法について連絡があるかと思います。

応募資格は?

今回は博士後期課程への募集になりますので、修士号が必要です。しかしそれ以外についての条件はありません。

締め切りは今のところ5月中旬です。少々の延長もありえますが、よい候補者が見つかり次第締め切りますので、興味があれば直ぐにでもコンタクトをとってみてください。

応募するかは決めてないけど、話だけでも聞いてみたいという方、質問があるという方は私でよければ相談に乗りますので遠慮なくshunsuke.sasaki[at]cnrs-imn.frまでご連絡ください。([at]を@に変更してください)

関連リンク

関連論文

  1. Sasaki, D. Driss, E. Grange, J.-Y. Mevellec, M. T. Caldes, C. G.-Deudon, S. Cadars, B. Corraze, E. Janod, S. Jobic, L. Cario, A Topochemical Approach to Synthesize Layered Materials Based on the Redox Reactivity of Anionic Chalcogen Dimers. Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 13618.
  2. Sasaki, M. Lesault, E. Grange, E. Janod, B. Corraze, S. Cadars, M. T. Caldes, C. G.-Deudon, S. Jobic, L. Cario, Unexplored Reactivity of (Sn)2- Oligomers with Transition Metals in Low-temperature Solid-State Reactions. 2019, arXiv:1901.01907.

この記事を書いた人

名前 佐々木 俊輔

所属: Institut des Matériaux Jean Rouxel, L’équipe PMN (新奇トポケミカル挿入反応を利用した層状遷移金属カルコゲナイドの開発)

Google Scholar Citation: Sasaki Shunsuke

 

追記および脚注

※1 フランスの場合、2006年ごろから博士課程の学生に給与を支給することが義務付けられました。給与もしくは奨学金を得ないで研究室で学生を働かせる場合、法に抵触する可能性があるので(違法労働)、現在では給与を与えることが一般的です。

※2 本文に述べたとおり、フランスにおいてはかなりレアなケースだそうです。

※3 具体的には一緒に研究をしたい教授にコンタクトを取り、どのようなコンセプトの仕事をするか検討したのちに、教授と一緒にプロジェクトベースのファンディングに応募します。ファンディングは博士課程が終了するまでの3年。博士論文は3年の年限が来るまでに書き上げてしまいます。プロジェクトベースのアプライシステムとしては二つの方法が考えられますが、実際に応募する場合は教授の指示に従ってください。

二つある方法の前者のケースは、毎年、各大学の研究科に複数の博士課程ポジションが設けられ、教授と学生候補のチームがそのポジションに応募する場合です。多くの場合、研究科にはポジションの数以上に研究室があるので、チーム同士の戦いになります。レフェリーは一般的に研究科長、副研究科長や外部の審査員が担当し、評価項目としては、プロポーザルの質、学生の成績などが重要視されます。また、教授の研究科での影響力もそれなりにモノをいうと言う噂。給与は額面約2100 EURで、税引後の受領額は約1700 EUR程度となります。戦いに勝てば、ポジションが得られますが、負ければポジションは得られないので他の大学の研究科にアプライするか、ファンディングを持っている教授の下で研究する、もしくは研究を諦め一般就職するなどが一般的なようです。教授によっては毎年のように研究科から同ファンディングを勝ち取っている人もいますし、そうでない人もいます。また、前年度同ファンディングを勝ち取っている場合、同ファンディングに翌年応募できないと規定している研究科もあるようです。

後者のケースは、州が設けているファンディングに応募する場合です。その場合、額面は1700EUR、税引後の受取額は1300EUR程度です。この場合、州からのファンディングで働くことになるので就労率が100%となり、TAが免除されます。その分、給与は300 EURほど下がりますが、研究に集中することができます。結局のところ、これらファンディングに応募する場合は教授とのDiscussionがかなり重要になりますし、なかなかハードルが高いのが現状です。でも、応募する価値はあります。(両者においてフランス人が優遇されるということは無いようですが、各国によって教育水準が異なるので、学部の学業成績だけで比べた場合は、たとえフランス以外の国の大学で一番だっとしても、応募する大学での上位に相当すると見込まれなければ、他の学生よりも低い評価になってしまいます。そのため、プロポーザルや教授の力との兼ね合いにもなりますが、ファンディングがゲットできない場合も考えられますので悪しからず。)

関連書籍

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PhD候補生として固体材料を研究しています。学部レベルの基礎知識の解説から、最先端の論文の解説まで幅広く頑張ります。高専出身。

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東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

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