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スポットライトリサーチ

可視光エネルギーを使って単純アルケンを有用分子に変換するハイブリッド触媒系の開発

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第193回目のスポットライトリサーチは、東京大学大学院薬学系研究科(金井研究室)・三ツ沼治信 助教にお願いしました。

三ツ沼助教は筆者の同僚として最近ラボに加入したばかりの、新進気鋭の化学者です。論文を読むのが好きすぎる、朝から晩までラボに籠もって平気な顔をしている、などなど大物になりそうな片鱗を見せつけて止みません。わずか着任1年にも関わらず素晴らしい成果を発表し、若い世代を引っ張ってくれるだろう人材になる期待が持たれます。本成果はChemical Science誌原著論文およびプレスリリースとして公表されたのち、ジャーナルによってPick of the week 動画としてもハイライトされています。

“Catalytic Asymmetric Allylation of Aldehydes with Alkenes Mediated by Organophotoredox and Chiral Chromium Hybrid Catalysis”
Mitsunuma, H.; Tanabe, S.; Fuse, H.; Ohkubo, K.; Kanai, M. Chem. Sci. 2019, 10, 3459. doi: 10.1039/C8SC05677C

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の報告では可視光のエネルギーを用いて、安価で入手容易な単純アルケンとアルデヒドを反応させ、ファインケミカルの合成に有用なキラルアルコールへと一工程で変換するハイブリッド触媒系を開発しました。
医薬品をはじめとする精密有機分子の合成の歴史において、カルボニルを足掛かりとした立体選択的な反応は非常に重要な位置を占めてきました。特に原料のプロトン移動のみで進行する触媒的不斉反応は、炭素―炭素結合を最も効率的に作れる反応です。しかしながら従来の酸―塩基化学に基づく変換では、用いる出発物にある程度酸性度の高い原料が必須でした。そこで我々は、より酸性度の低い通常不活性とされる原料から、ラジカルを用いた温和な条件で炭素―水素結合を活性化し、カルボニル化合物と反応させる一般的な方法論を開発することを目指しました。これが達成されれば、入手容易な炭素資源から直接的に有用有機分子が手に入ることになります。今回の報告はその第一段階として、アルケンに含まれるアリル位の炭素―水素結合を狙ったものになります。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究で一番工夫したところは、金属触媒の設計です。本触媒系は複数の触媒と反応剤が複雑な電子のやり取りを行いながら反応が進行します。お互いの要素を阻害することなく望んだ反応を進行させるには、緻密な触媒設計が要求されます。新規性の出し方、触媒系の今後の発展のさせ方を含めて、一か月近く実験には全く手を付けず構想を練ったのが良かったと思います。おかげでクロム触媒を使い始めてからFirst Hitまで数実験でたどり着くことができました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究で一番最も困った点は、論文投稿に向けて準備段階に入っていた時に競合論文が出てしまったことです。最後の最後までこれが足を引っ張る形となり、改めて本分野の競争の厳しさを思い知らされました。
そこでより新規性の高い論文にまとめるべく、自分たちの反応系のアピールポイントである①高い立体制御能と②Mg塩の添加効果を強調した論文構成にすることにしました。共同研究者の布施君(修士二年)、田辺君(学部四年)が緻密な条件検討を短期間に手早く行ってくれ、さらに光触媒の専門家である大久保先生(阪大)のご協力もあり、興味深いMgの添加効果も示すことができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

自分はずっとライフサイエンスの分野に携わってきたこともあり、今後も化学ベースのアプローチで創薬に貢献していきたいと思っています。有機合成化学者はあらゆる分子構造を自在に設計・合成できるはずですので、それを活かして新たな創薬の手法を生み出していきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

実験化学の面白いところは当初予期しなかったことが起こることです。研究の方向性に関してはじっくりと考えることが大事だと思いますが、何か面白いアイデアが思い立ったら文献調査をするのと同じくらい、とりあえず手を動かして検討してみることも重要だと思います。特に有機化学はどんな些細なことでも思い立ったことをすぐ実験で確かめることができるのが良いところです。今回の論文でのキモとなっているMg添加剤も、最終的には当初の想定とは全く異なる作用をしていることが分かりました。何かプロジェクトで行き詰まった時は、少し奇妙に見えるアイデアでも色々検討してみると突破口につながるかもしれません。

研究者の略歴

(左から布施拡 大学院生、三ツ沼治信 助教、田辺駿 学部生)

名前:三ツ沼 治信
所属:東京大学薬学系研究科 金井研究室
研究テーマ:ハイブリッド触媒系を用いたsp3C-H結合の変換反応の開発

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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