イミニウムイオンの対アニオンで不斉を制御するアミノメチル化反応が報告された。求核剤側で不斉を制御する従来法とは異なり、新しい求核剤を用いることができる。
アミノメチル化とその不斉制御法
天然物や医薬品に頻出する「アミノメチル部位」を、分子に効率よく導入する手法は合成化学的に有用である。これまで金属触媒反応やラジカル反応によるアミノメチル化が多数報告されている[1]。しかし、触媒的不斉アミノメチル化の例は限定的である。代表例としてプロリン触媒を用いたケトンとイミニウムイオンのMannich型不斉アミノメチル化がある(図1A)[2a]。ケトンとプロリンから生成したキラルなエナミン(求核剤)が、系中で調製したイミニウムイオン(求電子剤)に求核攻撃を行うことで不斉を発現している。また、他のキラルアミン触媒存在下、求核剤にアルデヒド[2b]や1,3–ジケトン[2c]、を用いる同様な不斉アミノメチル化反応も報告されている(図1B)。これらの例は、全てキラルな求核剤が不斉を誘導するものであり、その結果、エナミンを生成し得るカルボニル化合物に限られるといった課題がある。
一方で、中山大学のHu教授らはキラルリン酸を触媒とした、ジアゾ化合物とイミン、アルコールもしくはカーバマートとの不斉3成分連結反応を開発した(図1B)[3]。従来法とは異なる求電子剤側による不斉制御であり、新しい求核剤を用いることができたが、求電子剤は水素結合を作れる安定なイミンに限られた。また、不斉制御には対アニオンと求核剤の水素結合を必要としないAsymmetric Counter–Anion–Directed Catalysis (ACDC)があるが、アミノメチル化へと展開した例はなかった[4]。
“Asymmetric Counter–Anion–Directed Aminomethylation: Synthesis of Chiral β–Amino Acids via Trapping of an Enol Intermediate”
Kang, Z.; Wang, Y.; Zhang, D.; Wu, R.; Xu, X.; Hu, W. J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 1473. DOI: 10.1021/jacs.8b12832
論文著者の紹介
研究者:Wenhao Hu
研究者の経歴:
1983-1987 B.S. Sichuan University
1987-1990 M.S. Chengdu Institute of Organic Chemistry (CIOC)
1995-1998 Ph.D. Hong Kong Polytechnic University (Prof. Albert S. C. Chan)
1998-2001 Posdoc, University of Arizona (Prof. Michael P. Doyle)
2002-2006 Medicinal Chemist (Genesoft), Process Chemist (Bristol–Myers)
2006-2016 Professor, Department of Chemistry, East China Normal University
2016- Professor, School of Pharmaceutical Sciences, Sun Yat-Sen University
研究内容:活性中間体を捕捉する多成分連結反応
論文の概要
著者らは、ACDCによるイミニウムイオンを用いた不斉アミノメチル化を達成した(図2A)。初めにキラルブレンステッド酸触媒の検討を行った。前反応同様に、キラルリン酸を用いたが、エナンチオ選択性は向上しなかった。そこで、Lambertらが報告したシクロペンタジエニル骨格をもつブレンステッド酸(5d, 5e)(5)を用いたところ、高いエナンチオ選択性を示すことを見出した。本反応は基質適用範囲が広くα–ジアゾエステルには様々な置換基をもつ芳香環(4b~4f)やスチリル基(4g)を用いることができる。アルコールもベンジルアルコール類以外も脂肪族アルコール(4h~4l)や、ヘテロ環のついたアルコール(4m)も適用できる。アミンは芳香環上の置換基が変化しても(4n~4p)問題なく反応が進行する(図2B)。また、4はα–ヒドロキシ–β–アミノ酸やα–ヒドロキシ–β–ラクタムへと誘導可能である。著者らは、実験結果およびDFT計算結果から推定される触媒サイクルを提示している(図2C)。まず、1とPdによりカルベノイドⅠが発生する。Ⅰにアルコールが求核攻撃、続くPdの脱離およびプロトン授受によりエノールⅡが生成する。一方で、3と5dは容易にメタノールの脱離を伴ってイオン対Ⅲを形成する。このⅢのイミニウムイオンとエノールⅡのMannich型反応により目的の4が生成する。著者らは、DFT計算によりこのエナンチオ選択性の発現機構を証明しているが詳しくは本論文を参照されたい。
以上、キラルブレンステッド酸5dを用いた、高エナンチオ選択的アミノメチル化が報告された。本不斉アミノメチル化の創薬や天然物合成研究への利用が期待される。
参考文献
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- Selected examples see (a) Hu, W. H.; Xu, X. F.; Zhou, J.; Liu, W. J.; Huang, H. X.; Hu, J.; Yang, L. P.; Gong, L. Z. J. Am. Chem. Soc.2008, 130, 7782. DOI: 10.1021/ja801755z (b) Jiang, J.; Xu, H.-D.; Xi, J.-B.; Ren, B.-Y.; Lv, F.-P.; Guo, X.; Jiang, L.-Q.; Zhang, Z.-Y.: Hu, W. H. J. Am. Chem. Soc. 2011, 133, 8428. DOI: 10.1021/ja201589k
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