反応性代謝物の存在を調べたい。代謝化学の実験をしていれば、ほとんどの人がそう思うのではないでしょうか?その反応性代謝物の存在はDansyl-GSHを使うことで、簡単に調べることが可能です。
分子イメージング
創薬研究の世界では、今から世に送り出そうとする薬が生体に悪影響を与えないよう細心の注意を払う必要があります。薬そのものが毒として働くだけでなく、薬によって代謝された生成物が毒として働くこともあるため、代謝生成物についても毒性を調べる必要があります。
例えば、代謝反応の過程で毒性作用を持つ反応性代謝生成物の量を調べたり、あるいは、体内に多く存在するグルタチオン(GSH)が代謝によって生じる生成物に結合して代謝を止めたり、別の反応をしないかどうか確認することが重要です。
この代謝生成物の量や構造を調べる一つの手段として、生成物に目印をつけて識別する方法があります(図1)。
例えば代謝生成物にグルタチオンが結合するか否かを調べる方法として、
(a)代謝生成物にRI標識が移るような試薬を使い、グルタチオンが結合した代謝生成物のRI標識によって反応の進行を確認、LC/MSで代謝成物の構造を予測する方法
(b)代謝生成物に蛍光標識がついたグルタチオンを反応させて、蛍光検出器を持つHPLCなどを用いて反応の進行と生成物を確認する方法
等があります。
グルタチオン自身も吸収を持つため、標識が無くても検出することは可能です。しかし、検出感度は決して高くありません。そのため、上述のようにRIや蛍光標識を使う方法が多く取られています。このような方法は、創薬だけでなく化学、生化学分野では多く使われています。
RI標識と蛍光標識
RIは何といってもamol/Lでも検出で可能など、検出感度が高いこと(低濃度でも検出できる(検出限界))ことが最大のメリットですが、放射性崩壊により時間とともにシグナルが弱くなり続ける点、取り扱うために特別な施設が必要なことや放射性廃棄物の処理がやや面倒なこともデメリットに挙げられます。また、RIを標識にして代謝生成物を検出することができますが、生成物の同定にはLC/MSを用いた分析が必要です。たとえ生成物を同定しても、定量ができないことはデメリットとして挙げられるでしょう。
一方で、蛍光標識を使うメリットはRI試薬に比べて蛍光試薬が安価なことがあげられます(図2)。また、蛍光検出器をもつHPLCを用いれば検出と同時に反応生成物の定量も行うことができます。しかし、RIに比べて検出感度が高くないことがデメリットとして挙げられます(表1)。
Dansyl-GSH
ここでご紹介するDansyl-GSHという製品は、Dansyl基という蛍光標識を持つグルタチオンで、先に述べたように代謝生成物と反応させてその量を調べたり、同定を行ったりすることが可能です(図3)。
さらに、Dansyl-GSHの特徴として光の吸収波長と蛍光波長の差、つまりストークスシフトが大きいことがあげられます(表2)。
例えば、蛍光標識として使われるAMCA(クマリン)のストークスシフトは87nm, TAMRA(ローダミン)では27nmととても小さく、照射波長を蛍光波長として検出してしまうリスクがありますが、Dansyl-GSHは185nmとシフトが大きく、そのリスクを回避できます。そのため、比較的高い検出感度を持つといえます。
また、蛍光基の大きさについてもDansylはフルオロセインやTAMRAに比べて小さく立体障害になりにくいため、反応が阻害される可能性を抑制することができます。照射波長が340 nm程度と、短波長なのでin vivoの実験にはやや向かない可能性がありますが、in vitroの実験では比較的簡便に取り扱いができ定量可能である非常に実用的な試薬です。
In vitroでグルタチオンが関与するような代謝生成物についての実験を考えておられる方におすすめです。
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*本記事は渡辺化学工業様からの寄稿記事です。
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