有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2019年1月号がオンライン公開されました。
今月号のキーワードは、
「大環状芳香族分子・多環性芳香族ポリケチド天然物・りん光性デンドリマー・キャビタンド・金属カルベノイド・水素化ジイソブチルアルミニウム」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
2019年が始まりました。新年心新たに、有機合成化学協会誌で有機合成の最新情報をcheckしてはいかがでしょうか。
今月号も盛りだくさんの内容となっています。
大環状芳香族分子を活用した多能材料開発
東京大学大学院理学系研究科,JST ERATO磯部縮退π集積プロジェクト 佐藤宗太、磯部寛之*
平成29年度有機合成化学協会企業冠賞 富士フイルム・機能性材料化学賞受賞
査読者によるコメント:
環状π共役分子は数多くありますが、本論文で紹介されている分子は、「既存の材料を凌駕する優れた性能」を示します。美しい環状構造が拓く魅惑の分子材料の世界をご覧ください。
脱芳香化された多環性芳香族ポリケチド天然物の合成戦略
査読者によるコメント:
多環性芳香族ポリケチドの合成から、全合成科学を学ぶチャンス!問題設定、反応開発、合成戦略立案、全合成、のフローがこれほどまでに詳しく、丁寧に解説されている論文には、そう簡単には巡り会えない!!
溶液塗布型有機EL素子に向けた有機金属錯体の機能化:りん光性デンドリマーの分子設計戦略
大阪府立大学大学院工学研究科 八木繁幸*、岡村奈生己、前田壮志
査読者によるコメント:
八木らは、脂溶性置換基を有する電荷キャリア輸送性デンドロンを導入したりん光性イリジウムおよび白金錯体が立体反発による被覆効果により単分子性を発現した。また、優れた発光性が維持できることを明らかとし、湿式法による積層型素子の作製に成功した。
キャビタンドが駆動する選択的な金属触媒反応
査読者によるコメント:
キャビタンド空孔での分子認識(形状識別)を金触媒と組み合わせることで、興味深い選択性を有するアルキンへの付加反応が実現されています。アルキル基の大きさを認識した選択性は他の手法では難しく、酵素が有する基質特異性に迫る結果ともいえ、モデル基質を用いた系統的な結果とあいまって、今後の触媒設計にとっても指針になるであろう魅力的な論文です。
金属カルベノイドの新規反応性の開拓と有機合成への応用
査読者によるコメント:
本総合論文は,金属カルベノイドの反応性を巧みに制御した二つの触媒反応,ロジウム触媒による分子内アミド挿入反応による含窒素架橋型骨格の形成と形式合成への応用,銀触媒によるフェノール類の脱芳香族化を伴う分子内不斉環化反応が記されており,反応機構についても併せて議論されています.
水素化ジイソブチルアルミニウムによる分子内炭素-炭素および炭素-ケイ素結合形成反応の開発
査読者によるコメント:
皆さん良くご存知の水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL-H)、これって真っ先に思い浮かべるのは還元反応ですよね?しかし、本論文ではDIBAL-Hを分子内結合生成反応に利用します!広く使われている試薬ですが、新しい利用法がまだ沢山隠されていました。
Rebut de Debut
今月号のRebut de Debutは2件あります。全てオープンアクセスですので、ぜひご覧ください。
・“Transient directing group”が可能にする究極の直截的C(sp3)-Hアリール化反応(東北大学大学院薬学研究科)熊田佳菜子
・多環状グアニジン系天然物:Batzelladine類の全合成(東北大学大学院薬学研究科)植田浩史
巻頭言:さきがけとなる研究を
今月号は理化学研究所 袖岡幹子教授による巻頭言です。
ご自身がさきがけ研究者であった経験から、若手へのエールを綴られています。オープンアクセスです。
祝辞:新海征治先生に文化功労者の顕彰
九州大学大学院工学研究院 久枝良雄教授による祝辞記事です。分子認識化学の父として、新海先生を知らない有機合成化学者はいないと思います。
このような祝辞記事で改めて、そのすごさを思い知らされます。この度はおめでとうございます!
祝辞:山本尚先生に文化功労者の顕彰
名古屋大学大学院工学研究科 石原一彰教授による祝辞記事です。「元をたどれば山本ケミストリー」と言われる研究は非常に多く、山本先生の御功績の大きさが伺えます。若手研究者の育成に尽力してくださっていることでも著名な山本先生。おめでとうございます!
感動の瞬間(Eureka Moment in My research):不斉自己触媒反応発見への軌跡とホモキラリティーの起源
感動の瞬間(Eureka Moment in My research)の第七弾は、東京理科大学理学部 硤合憲三教授による寄稿記事です。
不斉自己触媒反応、ホモキラリティーの起源に関する研究として硤合ケミストリーはあまりにも有名ですが、本記事にはその歴史と硤合先生の考える「感動」について綴られています。
Message from Young Principal Researcher (MyPR):院生時代の漠然とした不安を克服するには
Message from Young Principal Researcher (MyPR)の第三弾は、北海道大学大学院薬学研究院 松永茂樹教授による寄稿記事です。
これまでのMyPRコーナーでは、博士学生やPD、助教などの駆け出し研究者に対するメッセージが多かったですが、松永先生のメッセージはぜひ学部4年生や修士学生など、研究を始めたばかりの学生にも読んでいただきたいです!オープンアクセスなのでぜひ。