関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。
投稿が遅れましたが、昨年最後の本誌のテーマです。テーマは、感染制御。2年前に薬剤耐性(AMR)に関する特集がありましたが、好評で第二弾の要望が強かったことから、再度類似のテーマになったそうです。AMRに足して有効な対策がたてられなければ、2050年には全世界で年間1,000万人が薬剤耐性菌により死亡することが推定されています。本記事は化学や創薬などの立場からの薬剤耐性菌に効果のある薬の話ではないので、難しい話題ですが、一読をおすすめいたします。
なお記事はそれぞれのタイトルをクリックしていただければ全文無料で閲覧可能です。PDFファイル)。1冊すべてご覧になる場合はこちら。
ワンヘルスアプローチに基づく感染制御の重要性
東邦大学医学部の石井良和教授による寄稿。厚生労働省が建てたAMRアクションプランを踏まえた感染制御について述べています。
動物由来感染症対策には、医療、獣医療などの関係者が分野横断的に連携する「ワンヘルス・アプローチ」の取組が重要視されているそうです。
AMR対策に役立つ微生物検査法 ~AMRのスクリーニングおよび同定~
京都橘大学の中村竜也准教授による記事。AMRのスクリーニングおよび同定について解説しています。AMAのスクリーニングや耐性因子の迅速な決定は、抗菌薬を選択する上で重要であり、それらを担っているのは微生物検査室。実際に行われている病院内感染に関連する薬剤耐性のスクリーニング法や、薬剤耐性院試の同定について述べています。例として、フェノタイプ(表現法)による薬剤耐性菌の研究出法としてカルバペネマーゼ鑑別ディスクPlus(関東化学)の判定例などについても記載されています。
院内感染対策に有用なPCR-based ORF Typing法(POT法)の原理
藤田医科大学の鈴木匡弘准教授による記事。本記事では、PCR-based ORF Typing法(POT法)の原理とそれによって、得られる遺伝子型の特徴について解説しています。POT法は院内完成疑いがあるときに迅速に菌の遺伝子型を決め、院内感染対策に利用することを想定して開発されたタイピング法。POTキットとして発売されているシカジーニアス分子疫学解析POTキットシリーズのワークフロー(関東化学)をもとにワークフローを説明しています。
このキットは、
- 約4時間で分子疫学解析が可能
- パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)と異なり、汎用的な機器で測定可能
- 解析結果を数値化(POT値)にすることで、菌体間の相同性を比較可能
などの特徴をもっています。
当院における医療関連感染対策・抗菌薬適正使用対策について ~POT法を活用した対策を含めて~
大坂私立大学の掛屋弘教授らによる寄稿。上述したPOT法を活用した感染対策を含めて、大阪市立大学医学部附属病院で実際に行われている感染対策および抗菌薬適正使用活動について述べています。
ファージセラピーの臨床応用と世界の動向 –パターソン症例から
最後の記事は、酪農学園大学の樋口豪紀・岩野英知教授らによる寄稿。近年注目されているバクテリオファージ(ファージ)を利用したファージセラピーの海外の動向について紹介しています。ファージは、宿主細菌上のレセプター分子を認識し、自分の頭部に格納しているウィルスゲノムを細菌内に送り込みます。さらに、細菌のもつシステムを利用して娘ファージを大量に作り出し、蝶を破壊する溶菌酵素(エンドライシン)によりペプチドグリカンを破壊することで細菌は死滅します。
タイトルにあるパターソン症例というのは、ファージの全身投与によって、米国ではじめてのファージセラピー成功例となった患者の名前。記事ではファージセラピーを行った経緯とその結果について述べています。また、筆者らが単離・精製したエンドライシンのin vivoにおける黄色ブドウ球菌に対する用金活性についても説明しています。
過去のケミカルタイムズ解説記事
- 天然物の全合成研究 (No.3)
- 有機分子触媒(No. 2)
- 分析技術(2008, No.1)
- イオン液体(2017年 No.4)
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2)
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)