有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年12月号がオンライン公開されました。
今月号のキーワードは、
「シアリダーゼ・Brook転位・末端選択的酸化・キサンテン・ヨウ素反応剤・ニッケル触媒・Edoxaban中間体・逆電子要請型[4+2]環化付加」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
2018年ももう終わりですね。年末年始、研究室に篭る方も、しばしゆっくりされる方も、今月号の有機合成化学協会誌を読んで一息ついてはいかがでしょうか。
それでは2018年最後の協会誌もぜひお楽しみください!
固体発光性色素を用いたシアリダーゼライブイメージングプローブの開発
査読者によるコメント:
有機合成化学者の視点から、古典的な蛍光色素2-benzothiazol-2-yl-phenol(BTP)を活用して、インフルエンザウイルスやがん細胞に対する新規ライブイメージングプローブ試薬BTP3-Neu5Ac(市販中!)を開発。遺産発掘ストーリーが楽しめます。
Brook型転位を鍵段階とした連続的分子変換システムの開発
査読者によるコメント:
本総合論文は、β位にシリル基を有するイノンおよびエノン類、またはシリルケトン類を用いた、「Brook転位」と「森田–Baylis–Hillman反応」、または「Wittig反応」を融合させた,アルデヒドなどの求電子剤との数々の有機合成反応をについて述べています。
パラジウム触媒による酸素を用いた炭化水素類の末端選択的な酸化反応の開発を目指して
査読者によるコメント:
酸化反応は分子に官能基を導入する反応であることから、魅力的な反応です。過酸化物や超原子価化合物などの酸化剤を高めた反応剤を用いる方法が多用されますが、本総合論文では著者たちが長年にわたり研究を行っているパラジウム触媒による「酸素」を末端酸化剤として利用する酸化反応について書かれています。論文の前半では、末端アルケンの末端選択的酸化によるアルデヒドの合成が述べられています。アルデヒドの選択性を向上させるための著者たちの様々な工夫が紹介されています。後半では、錯体化学的アプロ―チによりパラジウム上のアルキル配位子の酸素での酸化過程の詳細な研究により得られた成果が書かれています。酸素による酸化反応を有機合成化学と有機金属化学両面から学ぶことができます。
キサンテンで連結されたキレート型シリル配位子をもつ金属錯体の合成と特異な触媒作用
査読者によるコメント:
本論文は、キサンテン骨格を持つキレート型シリル配位子を有するルテニウム、イリジウム錯体の合成と、これらを用いた新しい様式の触媒反応について記述されている。本稿で主に用いられているxantsil配位子は、中心金属の電子状態に応じてフレキシブルに構造を変化させ、二座配位とキサンテン部位が蝶番の様に折れ曲がった三座配位の両配座を取り得る。このような特異な性質を利用した、アリールアルキンの新規なC-Hシリル化反応を中心に結果を詳細に記述している。
ヨウ素反応剤を活用する酸素または窒素官能基導入反応
査読者によるコメント:
ヨウ素反応剤(主に超原子価ヨウ素)を用いて、β,γ-不飽和カルボン酸、第三級CHを酸素、窒素官能基に変換する、筆者らの最近の成果をまとめた総合論文です。「超原子価特性」、「ソフトなルイス酸性」、「高い脱離能」といったヨウ素の特徴的な反応性を利用する共に、高活性なヨウ素化合物を反応系中で発生させる戦略で、巧みに新しい反応を開発しており、反応開発、合成にとても参考となる論文です。
ニッケル触媒作用を活用した炭素-炭素結合切断反応を伴う炭素骨格再構築化
査読者によるコメント:
著者らが開発した遷移金属触媒(Ni, Pd)を用いる骨格変換反応を網羅的に紹介しています。アリル化合物に特化したユニークな触媒反応は、機構解説を含め詳細に説明されています。有機金属化学を勉強し始めた大学院生にもわかりやすく記述されています。
経口FXa阻害薬 Edoxaban中間体の効率的合成法の開発
第一三共株式会社プロセス技術研究所 道田 誠
査読者によるコメント:
Edoxabanは第一三共から2011年に上市された国内初の直接経口抗凝固薬です。本論文では、3つの不斉中心をもち、かつ一方のアミノ基が保護された1,2-cis-ジアミン骨格もつ六員環骨格、Edoxaban中間体を巧みに設計された分子内反応によって合成しています。有機化学反応を丁寧に解析し工夫を重ねて完成度の高いプロセスに仕上げており、プロセス化学の醍醐味を感じることができる論文です。
多置換含酸素縮合多環式化合物の合成を目指した電子豊富アリールアルキンの位置選択的逆電子要請型[4+2]環化付加反応の開発
横浜国立大学大学院環境情報研究院 田中健太、星野雄二郎*、本田 清*
査読者によるコメント:
本総合論文は、サリチルアルデヒド類とシリルアルキンおよびジアリールアルキン、アルキルアリールアルキンとの逆電子要請型[4+2]付加環化反応について述べられています。本手法により、さまざまな置換基を有する含酸素縮合環状化合物を構築できる。
Rebut de Debut
今月号のRebut de Debutは5件あります。全てオープンアクセスですので、ぜひご覧ください。
・触媒的光異性化を鍵とするZ-アルケンの合成 (京都大学大学院薬学研究科)南條 毅
・アルキンメタセシス反応を利用したかご状分子の合成 (富山大学大学院医学薬学研究部)大石雄基
・酵素反応を利用した天然物の全合成 (チューリッヒ大学)服部 弘
・ポリ(ADP-リボース)の精密化学合成 (東京大学大学院工学系研究科)森廣邦彦
巻頭言:タミフル合成にまつわるドラマ
今月号は東北大学大学院理学研究科 林 雄二郎教授による巻頭言です。
感動の瞬間(Eureka Moment in My research):グルメの原理
感動の瞬間(Eureka Moment in My research)の第六弾は、藤田 誠 教授 (東京大学大学院工学系研究)による寄稿記事です。
藤田教授の執筆される文章(エッセイなど)には、いつもそこに化学を超えた深い哲学を感じます。
「グルメの原理」は、若い研究者がどう生きるべきかに関して、非常に示唆に富んだ記事です。オープンアクセスです。ぜひご覧ください。