~ケムステが提供する、ケムステならではの価値。日産化学の考え、取り組みとは~
自分に合った会社を選ぶ…これは、就職活動をする学生が皆思うことではないでしょうか。
化学系の学生が企業選びを行う際には、興味がある分野に携われるか、自分の専攻・テーマを活かせるか、その企業の研究内容等がポイントになってくると思います。しかし実際には、その決め手となる情報があまりに少なく、会社のイメージや規模といった漠然とした条件だけで会社を選びがち。結果的に、せっかくの意欲や能力を活かしきれず、やりがいを見出せないまま会社に行き詰まりを感じてしまう…ということにもなりかねません。
化学系学生の意欲や能力を埋もれさせず、社会で存分に発揮させるために、大学や企業はどうあるべきか?
日本の未来をも左右するこのテーマについて、日産化学と意見を交わしました。
日産化学株式会社 人事部課長 梅澤真吾 氏 × ケムステ代表 山口潤一郎(早稲田大学理工学術院 教授)
■学会への参加に力を入れている「日産化学」
山口: 日産化学さんは、有機合成化学に力を入れていらっしゃいますよね。有機合成化学協会でも、主要メンバーとして積極的に活動されていらっしゃるので、以前から目の前の仕事だけではなく、この分野の発展も大切にしてくださる会社なんだなと感じていました。そういう意味で他社さんとは、「ちょっと違う会社」というイメージです。日産化学ファンだった恩師の影響もあるとは思いますが(笑)
梅澤: そうですね、当社は、「精密有機合成」「機能性高分子設計」「微粒子制御」「生物評価」「光制御」をコア技術としていますが、その中でも、有機合成は、古くから力を入れてきた研究者がこだわりと誇りをもって取り組んできた分野です。
山口: 学会にもよく参加されていますよね。学会には年に1回出るかどうかという企業も多い中、日産化学さんはたいていの学会に大勢の研究者が参加している。会社が積極的に行かせてるのかな、と思っていました。
梅澤: 他社を意識したことはなかったですが、うちの研究員は少なくとも年に3、4回はさまざまな学会に参加していますね。研究部単位で年度末頃にどんな学会に行きたいかヒアリングをかけて参加を募ります。今の研究に直接かかわる分野はもちろん、直接関係のない分野からの情報収集も積極的に行って、新しい発想を掴んでもらおうとしています。
山口: 海外の学会にも参加しているんですか?
梅澤: はい。グローバル化に伴い、年々その数は増えていまして、最近では参加するだけでなく、3年目ほどの若手でも海外の学会で積極的に発表させる部署も出てきています。一方で、社内における学会も行っております。年に1回実施している研究交流会という社内の催し物では、研究員全員と本社や工場の社員が集まって、さまざまな意見交換をしています。研究領域を超えて交流してイノベーションを起こそうという試みなんです。
山口: それはすごいですね。そこに参加してくださっている研究員の方々は、全員研究の手を止めてそこに来ているんですよね。企業にしてみたら、大変な費用がかかっているじゃないかと思います。
梅澤: そうですね。それでも当社は、新しいものを生み出していくためには、そういう時間はすごく大切だと思っています。
山口: これからもそのスタンスでいてほしいと思います。そんな会社を、学生にも勧めたいですね。
■研究者や研究内容の情報が乏しすぎる現状
山口: 化学系の企業のパンフレットをみると、具体的な研究内容について触れていないことが多いんですよね。企業の展望とか福利厚生とか。そういうのはどうでもいいんですよね。まあ、あってもいいんですけど(笑)
でも本当は、仕事そのもの、どんな研究をやっているのかが知りたい。だから、企業さんには研究についてもっと具体的にマニアックに書いて欲しいと頼んでいるのですが、なかなか実現しないんですよ。
もちろん開示できない情報もあるでしょうけど、すでに製品化されているものなんかはどんどん出して欲しいですよね。研究員の顔も出して。ケムステでは現在、「ケムステしごと」で少しずつ企業の研究を公開していますが、まだまだです。もっと出せる情報はあるはずだと思ってます。
有機合成化学協会の「企業研究者たちの感動の瞬間」という本があるんですが、あのイメージです。化学が好きなら、こういうのが絶対おもしろいと思うんですよ。少なくとも僕はそう思う。
[amazonjs asin=”4759819320″ locale=”JP” title=”企業研究者たちの感動の瞬間: モノづくりに賭ける夢と情熱”]梅澤: 化学に真剣に向き合っている学生ほど、リアルな研究情報はワクワクするでしょうね。
山口: そうなんです。研究者の話に共感してはじめて、「私もやってみたい」とか「私のやってきたことが役にたつかもしれない」と思うわけで。うちの学生には、そういう観点で会社を選んだほうがいいと言っています。だからこそ、企業側は化学にどれだけ力を入れているか、どのような研究を進めているかについて、もっとアピールしていくべきだと思っています。教える私たちにとっても学生にとっても、その情報はとても重要です。でも、ほとんどの会社のホームページやパンフレットには載っていない。
梅澤: 企業のブレイクスルー・ストーリーみたいなものが見せられればいいですよね。
山口: そう、それです。すでに完成しているものでも、できたばかりで何に使うかわからないような材料でもいい。素材そのものへの興味はもちろん、その企業の「研究姿勢」に興味を持つ学生だっているはずです。
梅澤: それが噛み合うと、学生と企業お互いにとって良い出会いになりますよね。
山口: 今、学生が就職先を検討する上で研究情報を集めるとしたらまずインターネットです。でも化学の話は外に情報があまり出ていない。機械系ならおもしろく記事にしやすいから情報もたくさん見つかるんですが、化学って難しいんですよね。化学式ばかりだとわけわからなくて、おもしろく見せるのが難しい。それでも構わずマニアックなものを見せて、「化学は面白い」ってことを伝えられたらいいと思うんですよ。
製品の数だけ、研究者の数だけ、ストーリーがあるはずですから。「ケムステしごと」を通じて、そのようなことがわかる記事が増えていけば、学生の就職先探しはもっと的確なものになります。その記事を見ることは、「将来の仲間を見る」ことですからね。
■日産化学の一大イベント【 START your chemi-story あなたの化学を探す 研究職限定 キャリアマッチングLIVE 】
日産化学は一昨年から、研究職を志望する学生へ向けた会社説明会をスタートしました。昨年は東京・大阪で開催し、延べ1500名以上の学生が来場。このイベントには日産化学の研究職社員約80名が参加し、研究部門ごとにブースでプレゼンを行います。各研究領域の特徴・面白さ、日々の業務(研究内容)、部署の雰囲気などを研究者自身が紹介しています。日産化学の研究をあらゆる角度から深く知る事ができる機会として、学生に大変好評です。
*2019年1/29(大阪)・2/4(東京)の開催についてはこちら [リンク https://www.nissanchem.co.jp/saiyo/chemi-story/ ]
梅澤: 3年前まで、研究職向けの会社説明会は行っていませんでした。でも、ずっと、当社の研究や採用(日産化学は、研究部門ごとに採用を行っている)について深く知ってもらうためには、どうすればいいだろうと、チームで考えていたんです。そのような中、人事部の若手が率先し中心となって、全部門から研究職社員が参加する、うちの研究すべてを見せるイベントを考え抜き、企画しました。学生の皆さんには、当社の特徴の1つとして、「若いうちから責任ある仕事ができる」と伝えているのですが、まさに人事部でも、若手が高い当事者意識をもって創意工夫した結果生まれたイベントです。単なる情報発信に留まるのではなく、日産化学らしさを学生さんに体感してもらえる場にしようと。そして学生さんにも貴重な時間を使ってもらうのだから、もし日産化学に興味が持てなくても「今日ここに来て良かった」と思ってもらえる場にしたい。そういう思いから、『化学の研究職を志す全ての学生さんに価値あるイベントにしよう』という意気込みで、2年前にスタートしました。
一昨年は約1,200名、昨年は1,500名以上の学生が来場しましたが、あれだけの学生に来てもらえたのはケムステの力が大きいです。社内の研究所でも噂になっていました。「えっ、ケムステに載ったの?」って。
山口: そうですか、それは良かった。(笑)
学生には、最終的に自分が主役になれるところに行って欲しいと常日頃思っています。ですから、こういう説明会はいいですよね。説明会で、ただ人事と喋ってもわからない。在籍している研究者と話さないと本当のところはわかりませんから。
学生の中には、自分が研究してきた内容と違うことをやっている会社にあえて行って挑戦してみたいという人もいます。そこまで明確な意思を持っているならまだいいですけど、そうじゃないんだったら研究者が大事にされているようなところへ行かないと。その会社で研究者として活躍できるかどうかもわからないのに、企業名や規模で選んでしまう。でもそれは現状仕方ないんですよね、情報がないから。企業側も、本当に欲しい人材は、大量に集まった学生のごく一部というのが事実でしょう。そのスクリーニングが大事で、そのためにも研究者が出てきてリアルを見せるというのが一番いいと思うんです。学生にとっても、「入社したらイメージと違った」というギャップもないだろうし、お互いにとっていいですよね。
梅澤: 当社も、研究が好きでディスカッションが好きという人を求めているのですが、その姿勢を伝えるには研究員本人がマニアックな研究内容を話すのが一番いいと思っていますし、イベントでもそういった研究員の様子を学生さんに見てもらうのが良いと思っています。これが自分の将来像だと感じとってもらえれば。
山口: それがいいと思います。この人、何マニアックなことを楽しそうに喋ってるんだろというのが(笑)。
梅澤: 学生さんには、思いもよらない分野にも出会ってもらいたいので、今まで興味がなかった領域のブースも、見てもらうようにしています。うちのイベントにきて自分の方向性に気づいて「自分の道を見つけられました」と感謝されたこともあります。で、結局よそへ行っちゃったんですが(笑)。
でも、そうやって他社さんに行ったその方といずれ仕事をご一緒するというパターンもあるかもしれないから、それでも構いません(一同笑)。
仮にうちとご縁がなくても、自分のやりたいことは何だろうという気づきにつながって、自分の道を見つける場所、そういう場になればこんなに嬉しいことはないです。そういう意味でも、「ケムステしごと」のコンセプトに共感します。
山口: すばらしい。ありがとうございます。
■大学での学生指導について
梅澤: 学生を育てていくにあたって、もっとも大事にしていることって何ですか?これだけは伝えたいということは。
山口: そうですね、とりあえず研究に携わるなら、ご飯の次に化学を好きになって欲しいということでしょうか。そうであれば何とかなると。とにかく好きになれ、楽しめと言ってます。
梅澤: 私の恩師も同じようなことを言ってました。その先生は、化学をちょっとでも好きになりなさい、ちょっとでも好きになればその先どんどん好きになってくると。
山口: 好きになるためには、ある程度勉強しなければならないですよね。
学生時代、ある時期集中して、すごく勉強したんですが、それ以来、本当に有機化学が面白いと思うようになりました。勉強してわかるようになると、化学反応も次にどうなるかとか手に取るようにわかるようになって、すごく面白くなっていきました。
梅澤: ある程度勉強した結果身に付いた知識がなければ、何が課題なのか、どこが新しいのか、どこが面白いのかがわからないですもんね。
山口: そうそう。でも、こちらが何も言わなくてもセンスがあって勉強もするような学生は稀です。学生にどうやって意欲を持たせるかがいつも課題で、育てるのは難しい。でも、学生から僕も育てられているんですよね。
梅澤: 先生が学生から刺激を受けることは多いですか?新しいアイデアとか視点とか。
山口: いっぱいあります!学部生なら、知識量は僕の方がありますが、マスター2年にもなると僕に追いついてくる。それで、ドクターになると圧倒的に超えるんです。僕もドクターのころは、先生より知ってる!先生の考えることは手に取るようにわかると思っていました(一同笑)。
あと学生への接し方で心がけているのは、あまりガリガリ言わないようにすること。優秀な人ほど、あまり言われたくないだろうから。
梅澤: 自分で決めて自分で行動することが大事、ということですね。
■化学系企業に期待する採用のあり方と、ケムステの役割
*最後は、会社説明会を中心となって企画した日産化学人事部の贄さん、吉野さんにも加わっていただきました。
山口: とにかく学生には、研究が好きで勉強が好きでいてほしい。機械的に研究をこなすようにはなってほしくないですね。就職したら先は長いわけだし、充実した研究者の道を歩んで行って欲しい。
梅澤: 当社も、研究が好きで楽しんでる人が歓迎されます。
贄: 当社では、上司部下である前に「研究者として一対等」という精神を大切にしています。新入社員であったとしても、一研究者として尊重され、上司も、いちいち口出しをしない。基本的には、信頼して任せるという姿勢を貫いています。
山口: なぜそんな社風なんでしょうか?
吉野: 研究が大好きで、研究に誇りを持って一生懸命取り組んでいる人が集まっているからではないでしょうか。だからこそ、研究者として相手の気持ちや考えを、年齢や立場を超えて尊重しあえるんだと思います。
贄:飲み会でも研究の話で盛り上がるという社風です。よくお酒を飲みながら、コンタミしないように、共洗いしなきゃって冗談で話しています(笑)
山口: それが長年引き継がれている?それってすごいですよね。
贄: 2年前から始めたこのイベントでは、研究が好きすぎてみんな目を輝かせて語っています。自分の研究を学生さんが熱心に聞いてくれる上、興味を持って踏み込んだ質問をしてくれる。イベントに参加したうちの研究員は、みんな口をそろえて「楽しかった」と言っています。
研究者がいきいきとした表情で研究の話をしている。その姿を見てもらう方が、会社の規模や制度を人事が語るよりも確実なんですよね。また、全分野の具体的な研究発表を見聞きすることで、学生さんもやりたいことが具体的に見えてきます。うちのマニアックな研究発表に反応してくれる学生さんは、うちの社風に合う人材ということでもありますから。
山口: すごくいいですね。「ケムステしごと」では、日産化学さんがイベントで見せているような企業のリアルな研究者の姿やマニアックな研究情報を集めて公開していきたいと思っています。
大学では、研究をやりたい学生は研究室を訪れて熱心に研究を見ようとします。教授たちだって、研究を見にこない学生より、そんな学生に来て欲しいと思うものです。企業も同じですよね。研究を見て意欲をもった人に来て欲しいんじゃないですか?こんな研究者がいてこんな研究をやっている。そういう情報をまず開示して、興味をもった人が集まってくる。これが、双方にとってハッピーなことだと思っています。
【まとめ】
大学・企業それぞれの立場から、化学系学生の将来(就職)について意見を交わしましたが、双方の結論は一致するものでした。研究者主体の情報開示が必要だというケムステの考えは、日産化学が実践しているリクルーティングに対する考え方と全く同じです。日産化学の面接は、まるで学会発表のようだと聞きました。就活のためのコミュニケーション力よりも、研究に真摯に取り組む学生が「研究について語る姿」を通じて、自社で活躍できる人材かどうかを見極める。そういった企業がこれからもっと増えることを望みますし、ケムステではそのような企業を今後も紹介したいと思っています。