有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年11月号がオンライン公開されました。
今月号は、「全てオープンアクセス・英文号」になっています!年に一度の特別号です。
有機合成化学に関する、実に多彩な内容の記事が公開されています。
そんな今月号の巻頭言は東京大学大学院理学系研究科の菅裕明教授による寄稿記事です。
また、ラウンジのコーナーには東京大学大学院理学系研究科の中村栄一教授が寄稿されています。
中村教授のこれまでの研究人生を振り返った秀逸なエッセイとなっています。どのように研究が発展していったかの研究の軌跡を、国内、国外の著名な研究者との心温まる交流も交えながら記載されている大作です。
もう一度言いますが、全てオープンアクセスです!ぜひ御覧ください。
Chemistry of Ammonium Betaines: Application to Ion-Pair Catalysis for Selective Organic Transformations
査読者によるコメント:近年、筆者らが精力的に研究を展開している有機イオン対触媒の中から、アンモニウムベタイン触媒に焦点が当てられています。その酸・塩基触媒反応、イオン性求核触媒反応、PCET触媒反応への応用を通じて、「構造あるイオン対 (structured ion pair)」という概念がどのように一般化されたのかが紹介されています。
Synthetic Studies on Flavan-Derived Natural Polyphenols: a Complex Molecular Platform in Organic Synthesis
査読者によるコメント:グリコシル化の概念がフラボノイドの網羅的全合成の可能性を広げる。ダイマー、トリマーからテトラコサマー(24個連結)まで、自由自在なフラボノイド合成戦略。
Catalytic Asymmetric Synthesis of Silicon-Stereogenic Compounds by Enantioselective Desymmetrization of Prochiral Tetraorganosilanes
査読者によるコメント:従来の不斉炭素中心を有する光学活性化合物と比べて、同族のケイ素に基づく光学活性有機ケイ素化合物の合成研究は非常に遅れている。本論文では新谷らが独自に開発した遷移金属不斉触媒により様々な不斉ケイ素中心を持つ光学活性化合物を高選択的に合成する手法が記載されている。
Cyclodepsipeptide Natural Products Apratoxins A and C and Their Analogs
査読者によるコメント:天然物の環状デプシペプチドおよびその類縁体について高効率合成法の開発、NMR解析と計算化学を駆使した溶液中での配座推定、さらには生物活性評価を通して、細胞毒性と環状デプシペプチドの配座との相関について論じています。本手法は生体標的分子との結合様式が未解明の生物活性分子を基盤とした高活性類縁体設計における一つの指針を示したものと捉えられます。是非ご一読ください。
Thienoquinoidal System: Promising Molecular Architecture for Optoelectronic Applications
査読者によるコメント:キノイド型の共役様式をもつオリゴチオフェンやチエノアセン類は,大気安定で優れたn型半導体の基本骨格として近年大きな注目を集めています.本総説では,これらの化合物群の合成法,基礎物性から光・電子機能性材料への応用まで俯瞰されており,その魅力が存分に伝わる内容となっています.
Catalytic Synthesis of Heterocycles via the Cleavage of Carbon–Heteroatom Bonds
査読者によるコメント:遷移金属触媒を使ったシロール、ホスホール、チオフェンの合成に関する総合論文です。反応性が高く取り扱いが難しい求電子的、ないしは求核的なケイ素、リン、硫黄を用いることなく、炭素基で置換された安定な基質を用いることで、炭素-ヘテロ原子結合が触媒的に開裂してヘテロ―ル環が構築される興味深い反応です。
A Synthetic Approach to the Channel Complex Structure of Antibiotic in a Membrane: Backbone 19F-Labeled Amphotericin B for Solid-State NMR Analysis
査読者によるコメント:アムホテリシンB(Am-B)は細胞膜のエルゴステロール(Erg)と結合し、複合体を形成することで真菌活性を発現することが知られていた。本研究では、フッ素原子を導入したAm-Bと13Cラベル化Ergの個体NMRの観測により、複合体の両化合物の並び方を含めた詳細な構造を明らかにした。なかでも、複雑かつ多官能基性のAm-Bへの位置選択的なフッ素原子導入の高度な合成レベルには感服させられた。
Development of New C–N and C–P Bond Formations with Alkenes and Alkynes Based on Electrophilic Amination and Phosphination
査読者によるコメント:入手容易な原料から多様な形式のアミンやリン化合物を効率的に合成する反応に関する総合論文です。安価な銅触媒によるアルケンのアミノホウ素化やヒドロアミノ化反応と金属触媒を用いないアルキンとリン化合物の環化カップリングにより様々なリン化合物を簡便に合成できる画期的な反応が紹介されています。
Synthetic and Biological Studies of Carbasugar SGLT2 Inhibitors
慶應義塾大学理工学部 Wai-Lung Ng, Tony K. M. Shing*
査読者によるコメント:SGLT2阻害剤はインスリン非依存性の血糖低下作用を示す新たな薬剤として注目されています。本総合論文では、高い生体内安定性が期待できるカルバ糖を基盤とした新たなSGLT2阻害剤のデザイン、合成ならびに構造活性相関研究が紹介されています。
Characteristic Reactivity of Highly Lewis-Acidic Aryl-Substituted Diborane(4) toward Multiple Bonds
査読者によるコメント:ジボラン(4) といえば、触媒的ホウ素化に用いるビスピナコラートジボラン(B2pin2)が代表的です。一方、本論文では、B2pin2のホウ素上置換基をアリール基に変換したジボラン(4) 誘導体の合成と反応について詳しくまとめられています。これら、高いルイス酸性を示すジボラン(4) 誘導体は、多重結合の活性化など極めて興味深い反応性を示します。ホウ素化合物の新たな反応化学の可能性を提示した必読の論文です。