[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

プロペンを用いたpiericidin Aの収束的短工程合成

[スポンサーリンク]

アルケンーアルキンカップリングにより1,3,6-トリエン構造をもつpiericidin Aが合成された。他の1,3,6-トリエン構造をもつ天然物の合成への応用が期待できる。

Piericidin A

Piericidin A1(1)B1(2)は、Streptomyces mobaraensisおよびS. pactamから単離された天然物である(1A)。特に1はタンパク質I複合体の強力な阻害剤として働く。そのため、1をリード化合物とした構造活性相関研究が注目されており、迅速なライブラリー構築が可能な合成戦略が求められる。1の合成の最大の山場は1,3,6-トリエン構造をいかに効率的に構築するかである。

これまでに1の不斉全合成はBoger(1a), Lipshutz(1b)らや秋田(1c)らによって達成されている。彼らの合成を含めこれまで1,3,6-トリエン構造はJulia反応HWE反応といったオレフィン化に続くStilleカップリング根岸カップリングといったクロスカップリング反応によって構築されてきた(1B)。これらの合成法も収束的ではあるが、カップリングやオレフィン合成の事前に官能基化を要すため、多工程合成となる問題点があった。

 今回Trost教授らは、プロペンを“楔”とし、2つのアルキンをRu触媒を用いたカップリング(2a-e)(1C)によって逐次的に繋げることで1,3,6-トリエン構造の効率合成に成功した 。これにより既存法より短工程で1の不斉全合成を達成した(1D)

図1. (A) pieriicidin類の構造 (B) 従来の1,3,6-トリエン構造の構築法 (C) 本合成における1,3,6-トリエン構造の構築法

 

Propene as an Atom-Economical Linchpin for Concise Total Synthesis of Polyenes: Piericidin A

Trost, B. M.;Gholami, H. J. Am. Chem. Soc., 2018,14 ,37, 11623.

DOI: 10.1021/jacs.8b08974

論文著者の紹介

研究者:Barry M. Trost

研究者の経歴:
1965 PhD, Massachusetts Institute of Technology (Prof. Herbert O. House)
1965 Assistant Professor, Wisconsin State University
1968 Associate Professor, Wisconsin State University
1969 Professor, Wisconsin State University
1976 Evan P. and Marion Helfaer Professor of Chemistry, Wisconsin State University
1982 Vilas Research Professor of Chemistry, Wisconsin State University
1987 Professor, Stanford University
1990 Job and Gertrud Tamaki Professor, Stanford University

研究内容:天然物合成、反応開発

論文の概要

まず、本手法の鍵反応で用いるアルキンフラグメント913の合成を行った(2A)

Trostの不斉配位子ProPhenolを用いてアルキン3をアルデヒド4へ付加させ、生じる水酸基をメシル化することで6を高立体選択的に合成した。その後68のマーシャル田丸プロパルギル化反応、続く水酸基のTBS保護により、一つ目のアルキンフラグメント9を合成した。一方、13の合成に関しては、4工程で合成できる10を出発物質とした。ヨウ化銅(I)触媒とBuLi存在下、プロピンと10を反応させ11とした。その後PMB基の除去を伴うOメチル化をし、残るC4位の水酸基をTeoc保護してフラグメント13を得た。

 次に著者らは913、プロペンの逐次的なアルケンアルキンカップリングの検討を行った(2B)。まず、9とプロペンをRu触媒を用いてカップリングさせることでアルケン14を高収率で合成した。本カップリング反応は、9のヒドロキシ基がTBS保護されていない場合、収率は大きく低下する。次に、1314を再度カップリングさせることでトリエン15を合成した。二回目のカップリングではlinear15と望まぬbranch164:1の比で生成してしまうが、これらはPTLC精製により分離可能である。最終的に、TBAFにより15のもつ保護基を全て除去することにより、短工程で1の不斉全合成を達成した。

 以上のように、プロペンを楔とし、二度のアルケンアルキンカップリングをすることで1,3,6-トリエン構造を収束的に構築し、pieridicin Aの短工程合成に成功した。ここでは紹介を省いたが、論文中で実践されているように本反応を用いた1,3,6-トリエン構造をもつ他の天然物の短工程合成への応用が期待される。

図2. Trostらによるpiericidin Aの全合成

 

参考文献

  1. (a) Schnermann, M. J.; Boger, D. L. J, Am. Chem. Soc. 2005, 127, 15704. DOI:10.1021/ja055041f(b) Lipshutz, B. H.; Amorelli, B. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 1396. DOI: 10.1021/ja809542r(c) Kikuchi, R.; Fujii, M.; Akita, H. Tetrahedron: Asymmetry2009, 20, 1975. DOI: 10.1016/j.tetasy.2009.07.044
  2. (a) Trost, B. M.; Pinkerton, A. B.; Toste, F. D.; Sperrle, M. J. Am. Chem. Soc.2001, 123, 12504. DOI: 10.1021/ja012009m(b) Trost, B. M.; Toste, F. D.; Pinkerton, A. B.Chem. Rev.2001, 101, 2067. DOI: 10.1021/cr000666b(c) Trost, B. M.; Frederiksen, M. U.; Rudd, M. T. Angew. Chem., Int. Ed. 2005,44, 6630. DOI: 10.1002/anie20050500136(d) Trost, B. M.; Cregg, J. J. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 620. DOI: 10.1021/ja511911b(e) Trost, B. M.; Stivala, C. E.; Fandrick, D. R.; Hull, K. L.; Huang, A.; Poock, C.; Kalkofen, R. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 11690. DOI: 10.1021/jacs.6b05127
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. カーボンナノリングのキーホルダー式固定化法の開発
  2. 初めての減圧蒸留
  3. PACIFICHEM2010に参加してきました!Final!
  4. 第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお…
  5. 論文執筆&出版を学ぶポータルサイト
  6. エネルギーの襷を繋ぐオキシムとアルケンの[2+2]光付加環化
  7. ライバルのラボで大発見!そのときあなたはどうする?
  8. トリプトファン選択的なタンパク質修飾反応の開発

注目情報

ピックアップ記事

  1. カール・フィッシャー滴定~滴定による含水率測定~
  2. DNAが絡まないためのループ
  3. 計算化学を用いたスマートな天然物合成
  4. 光電変換機能を有するナノシートの合成
  5. 「石油化学」の新ネーミング募集!
  6. ケーニッヒ・クノール グリコシド化反応 Koenigs-Knorr Glycosidation
  7. JSRとはどんな会社?-1
  8. ピロティ・ロビンソン ピロール合成 Piloty-Robinson Pyrrole Synthesis
  9. 核酸医薬の物語1「化学と生物学が交差するとき」
  10. 動的共有結合性ラジカルを配位子とした金属錯体の合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年11月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  

注目情報

最新記事

第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」を開催します!

こんにちは、Spectol21です! 年末ですが、来年2025年二発目のケムステVシンポ、その名…

ケムステV年末ライブ2024を開催します!

2024年も残り一週間を切りました! 年末といえば、そう、ケムステV年末ライブ2024!! …

世界初の金属反応剤の単離!高いE選択性を示すWeinrebアミド型Horner–Wadsworth–Emmons反応の開発

第636回のスポットライトリサーチは、東京理科大学 理学部第一部(椎名研究室)の村田貴嗣 助教と博士…

2024 CAS Future Leaders Program 参加者インタビュー ~世界中の同世代の化学者たちとかけがえのない繋がりを作りたいと思いませんか?~

CAS Future Leaders プログラムとは、アメリカ化学会 (the American C…

第50回Vシンポ「生物活性分子をデザインする潜在空間分子設計」を開催します!

第50回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!2020年コロナウイルスパンデミッ…

有機合成化学協会誌2024年12月号:パラジウム-ヒドロキシ基含有ホスフィン触媒・元素多様化・縮環型天然物・求電子的シアノ化・オリゴペプチド合成

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年12月号がオンライン公開されています。…

「MI×データ科学」コース ~データ科学・AI・量子技術を利用した材料研究の新潮流~

 開講期間 2025年1月8日(水)、9日(木)、15日(水)、16日(木) 計4日間申込みはこ…

余裕でドラフトに収まるビュッヒ史上最小 ロータリーエバポレーターR-80シリーズ

高性能のロータリーエバポレーターで、効率良く研究を進めたい。けれど設置スペースに限りがあり購入を諦め…

有機ホウ素化合物の「安定性」と「反応性」を両立した新しい鈴木–宮浦クロスカップリング反応の開発

第 635 回のスポットライトリサーチは、広島大学大学院・先進理工系科学研究科 博士…

植物繊維を叩いてアンモニアをつくろう ~メカノケミカル窒素固定新合成法~

Tshozoです。今回また興味深い、農業や資源問題の解決の突破口になり得る窒素固定方法がNatu…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP