ゲルセジン型アルカロイドを網羅的に合成する手法が開発された。巧みな短工程骨格構築法により4種類の同アルカロイドを同一中間体から合成できる。
ゲルセジン型アルカロイド
マチン科ゲルセミウム属から単離されたアルカロイドは、高度に縮環された類縁体が知られ、その主骨格の違いによりゲルセミン、フマンテニン、ゲルセジン型などに分類されている。なかでもゲルセミンは有機合成化学の観点から注目の標的化合物であり、既に9個の全合成が達成されている(図1A)[1a-j]。一方で、ゲルセジン型(オキサビシクロ[3.2.2]ノナン骨格とスピロ-N-メトキシインドリノンが共通構造)も60種以上の類縁体が単離されているが、それらの合成に関しては改良の余地が残されている(図1B)。2011年に福山らがgelsemoxonine(4)の初の全合成を達成した(ケムステ記事参照)[2]。続いてCarreiraが4、Ferreira がgelsenicine(2)、そしてZhaoらがgelsedilam(3)の全合成を報告した[3-5]。さらに、福山らは2016年に共通中間体からgelsedine(1),2,および3を合成している[6]。いずれの全合成も独自の手法による優れたものであるが、多工程を必要とし、1–4の網羅的な合成法はない。
今回、上海有機化学研究所のMa教授らはマイケル付加による骨格形成、タンデム酸化/アルドール環化によるスピロ環の構築、続くピナコール転位によりゲルシジン型中間体(9)を短工程で合成した。この9から保護基を使うことなく4種のゲルセジン型アルカロイドの合成に成功した(図1C)。
“Divergent Entry to Gelsedine-Type Alkaloids: Total Syntheses of (−)-Gelsedilam, (−)-Gelsenicine, (−)-Gelsedine, and (−)-Gelsemoxonine”
Wang, P.; Gao, Y.; Ma, D. J. Am. Chem. Soc., 2018, 140, 11608–11612.
論文著者の紹介
研究者:Dawei Ma
研究者の経歴:
-1984 B.S., Shandong University, Jinan, China
1984-1989Ph.D., Shanghai Institute of Organic Chemistry, CAS (Prof. Xiyan Lu)
1990–1994Postdoctoral fellow, University of Pittsburgh and Mayo Clinic, U.S.A.
1995–Professor, State Key Laboratory of Bioorganic Chemistry, Shanghai Institute of Organic Chemistry, Chinese Academy of Sciences, P. R. China
2000–Director, State Key Laboratory of Bioorganic Chemistry, Shanghai Institute of Organic Chemistry, Chinese Academy of Sciences
研究内容:天然物合成、新規合成法開発
論文の概要
はじめに、エノン5(L–アラビノースから4工程)とインドール6(グラミンから3工程)のマイケル付加を行った(図2A)。この際、有機塩基では反応が進行せず、無機塩基(特に炭酸セシウム)を用いることで反応が進行し、7(1:1、ニトロ基炭素の立体異性体混合物)を立体選択的に得た。次に、7のNCSによるクロロ化/脱離(タンデム酸化)と、続くアルドール環化によってスピロ環を構築した。なお、得られたスピロ環8aの立体化学はほぼ単一(majorから進行)であり、8bはニトロ基との立体障害によって得られていない(図2B)。8aをトリエチルアミンとシリカゲルで処理することで熱力学的に安定な8へと異性化を行った。その後、塩化アルミニウムを用いるピナコール転位によって8から共通中間体9を合成した(収率86%)。詳細は論文を参照されたいが、9をクロロギ酸メチルでアセチル化/プロピオニルシアニドでケトン化したのち、ヘテロ環をそれぞれ合成することにより4種のゲルセジン型アルカロイドを作り分けた。
以上のように、本合成は保護基を用いることなく現在報告されている中で最も短工程(5と6から7-9工程)である。さらに、4種のゲルセジン型アルカロイドに導くことができる。また合成した中間体9は、類似のアルカロイド合成に応用でき、構造活性研究に利用されることが期待できる。
参考文献
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