第 164 回目のスポットライトリサーチは東京大学大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻の森泰蔵 (もり たいぞう) 特任講師にお願いしました。
森特任講師は、今年の 7 月まで物質・材料研究機構 NIMS の有賀研究室にて超分子化学に携わっており、分子構造を駆使してナノ構造を形成する研究を行ってきました。このたび、その研究の成果がプレスリリースとして発表されたため、インタビューさせていただきました。
Carbon Nanosheets by Morphology-Retained Carbonization of Two-Dimensional Assembled Anisotropic Carbon Nanorings
T. Mori, H. Tanaka, A. Dalui, N.Mitoma, K. Suzuki, M. Matsumoto, N. Aggarwal, A. Patnaik, S. Acharya, L. K. Shrestha, H. Sakamoto, K. Itami, and K. Ariga
Angew. Chem. Int. Ed., 2018, 57, 9679-9683
DOI: 10.1002/anie.201803859
それでは原著論文と合わせて、インタビューをお楽しみください!
Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。
楕円形のカーボンナノリングを新規に合成し、それを我々がvortex Langmuir-Blodgett (LB)法と呼ぶ、渦流を発生させた気水界面上で分子を自己組織化させる方法で、均一なモルフォロジーの分子薄膜を調製しました。この分子薄膜を焼成すると、モルフォロジーが保たれたまま炭素化され、二次元状のカーボンナノシートを合成できました。
ピリジンとカーボンナノリングの混合分子膜から窒素含有カーボンナノシートも合成できます。酸素還元触媒活性を示すと期待されるピリジニックな窒素を含むため、燃料電池の触媒膜などへの応用が期待されます。
Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。
得られた分子薄膜をカーボンナノシートにすることで機能性が広がった点は、材料工学に身を置く者としても思い入れがあります。共役系高分子であっても、ナノレベルの構造を保ったまま炭素化されるのは稀です。それ故に、分子薄膜の形態が保持されたままカーボンナノシートが得られたのは僥倖でした。また、分子薄膜の形成や窒素ドーピングの手法なども簡便で、一般的な実験室で行える点も有用であると考えています。
Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?
一様な分子薄膜を得られるまで苦労しました。自己組織化による二次元構造の形成を狙った分子ではあったのですが、Langmuir-Blodgett法などを含めて既存の方法では凝集してしまい一様な薄膜は得られませんでした。また、今回用いたカーボンナノリングは様々な側鎖を導入できるため、色々な分子で自己組織化を試しましたが、二次元薄膜は得られませんでした。最終的に、我々のグループがvortex LB法として渦流中でナノウィスカー(針状結晶)を配向させる研究を行っており、それをカーボンナノリングに適用することで分子同士の凝集が抑えられ一様な分子薄膜が得られました。
Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?
これまでに、分子の配列やモルフォロジーを制御することで、分子そのものがもつ機能を向上させたり、あるいは隠れた機能を引き出したりしてきました。既存の手法を踏襲しつつ、新奇でまた簡易な手法、つまり温故知新で様々な分子を並べナノ構造を構築することで、分子の潜在能力を十分に引き出したいと考えています。
Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
vortex LB法をはじめ、界面における分子のコンフォメーションやモルフォロジー制御を行っています。皆様が合成された分子の可能性を引き出すお手伝いをできたら幸いです。特に、vortex LB法はビーカーと攪拌装置さえあれば、一般的な研究室で実施できる簡単な手法です。興味がありましたら、お気軽にご連絡ください。
【略歴】
2009年京都大学にて赤木和夫教授のもと共役系高分子に関する研究にて学位を取得。同年から、物質・材料研究機構において有賀克彦主任研究者のもとで超分子化学の研究に携わる。2013年から米国のKent State Universityへ留学。2016年に国際液晶学会にて若手研究者賞受賞。現在は、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻竹谷研究室にて特任講師として有機半導体の自己組織化に関する研究を行っている。
参考文献
- 記事トップ図は論文から引用しました