[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

不斉カルボニル触媒で酵素模倣型不斉マンニッヒ反応

[スポンサーリンク]

ピリドキサール生体模倣触媒によるアリールN-ホスフィニルイミン類とグリシン類の不斉マンニッヒ反応が報告された。酵素反応のように高立体選択的な官能基化が可能となる。

ピリドキサール生体模倣触媒とその応用

酵素と同様の働きを人工系で模倣した生体模倣触媒が近年注目されている。その中の一例としてピリドキサール依存性アルドラーセによるグリシンのアルドール反応が知られる[1]。この反応ではピリドキサール部位(PLP)がカルボニル触媒として働き、グリシンとイミン形成することでグリシンのaC–H結合の酸性度を向上させ、アルデヒドへの付加反応を促進する(図1A)。これまでにいくつかこのピリドキサールの機能を模倣した反応例が報告されている。

葛原らとBreslowらは化学量論量の面不斉ピリジノファン型アルデヒド1–亜鉛錯体とグリシンとアルデヒドとの不斉アルドール反応を見出している[2](図1B)。しかし、いずれの反応も化学量論量のピリジノファンを用いることと生成物のジアステレオ及びエナンチオ選択性に課題が残るものであった。
今回、Zhaoらは独自のピリドキサール模倣型のカルボニル触媒を合成し、それを用いた触媒的不斉マンニッヒ反応の開発に成功したので紹介する(図1C)。

図1. (A)ピリドキサール酵素を用いたアルドール反応の生合成経路, (B)過去の生体模倣反応例 (C)ピリドキサール模倣触媒を用いた不斉マンニッヒ反応

 

Carbonyl catalysis enables a biomimetic asymmetric Mannich reaction
Chen, J.; Gong, X.; Li, J.; Li, Y.; Ma, J.; Hou, C.; Zhao, G.; Yuan, W.; Zhao, B. Science 2018, 360, 1438.
DOI:10.1126/science.aat4210

論文著者の紹介

研究者:Baoguo Zhao 
研究者の経歴:
2002 MSc, Nanjing University (Prof. Jianhua Xu)
2006 PhD, Shanghai Institute of Organic Chemistry (Prof. Kuiling Ding)
2006–2011 Posdoc, Colorado State University (Prof. Yian Shi)
2011– Professor, Shanghai Normal University
研究内容:生体模倣触媒の開発と反応への応用、天然物の全合成研究

研究者:Weicheng Yuan
研究者の経歴:
2001–2006 PhD, Chengdu Institute of Organic Chemistry, Chinese Academy of Sciences
2006–2007 Posdoc, Colorado State University (Prof. Yian Shi)
2007– Researcher, Chengdu Institute of Organic Chemisry, Chinese Academy of Science
2011– Vice director, National Engineering Research Center for Chiral Drugs
2011– Executive Vice President, Chengdu Likai Chiral Tech Co., Ltd.
研究内容:不斉有機触媒

論文の概要

著者らは生体内アルドール反応において、ピリドキサールのピリジン部位がプロトン化されピリジニウムになっている点に着目し、N-メチルピリジニウム骨格をもつ種々の軸不斉型ピリドキサールを設計・合成した。

そのなかで、β-ヒドロキシアミド側鎖をもつピリドキサール2が、芳香族ホスフィニルイミン類(以下イミン)とグリシンt-Buエステルとの不斉マンニッヒ反応が進行し、高エナンチオ選択的にanti-ジアミン体を与えることを見出した。
本反応は、図1Aの生体内アルドール反応と同様の反応機構で進行すると考えられている。本触媒2において鍵となる点は

  1. ピリジニウム骨格をもつ
  2. β-ヒドロキシアミド側鎖とイミンとの水素結合形成能

である(図2A)。ピリジニウム骨格によりカルボニル触媒としての求電子性を向上させるだけでなく、生じる中間体3のカルバニオンを安定化することができる。

また、側鎖の構造については、エノラート中間体3において、N–HおよびO–H部位との水素結合形成によりイミンを活性化し、ジアステレオおよびエナンチオ選択性を向上させる働きがあることがわかった。実際、触媒2aに代わり、ピリジニウムではないもの、側鎖のN及びO原子上にメチル基を導入した触媒を用いた際、反応性とジアステレオおよびエナンチオ選択性が大きく低下する(図2B)。
今回、ピリドキサール触媒によるアリールN-ジフェニルホスフィニルイミン類とグリシン類の不斉マンニッヒ反応が開発された。さらなる生体模倣触媒の応用と展開が期待できる。

図2. (A) 触媒中間体3とイミンとの求核付加における水素結合, (B) 触媒の選択性比較 (図は論文より引用、一部改変)

参考文献

  1. [a] Kimura, T..; Vassilev, V. P.; Shen, G.-J.; Wong, C.-H. J. Am. Chem. Soc.1997, 49, 11735. DOI: 10.1021/ja9720422 [b] Dückers, N.; Baer, K.; Simon, S.; Gröger, H.; Hummel, W. Appl. Microbiol. Biotechnol.  2010,88, 409. DOI: 10.1007/s00253-010-2751-8
  2. [a] Kuzuhara, H.; Watanabe, N.; Ando, M. J. Chem. Soc. Chem. Commun.1987, 2, 95.DOI: 10.1039/C39870000095 [b] Ando, M.; Kuzuhara, H. Bull. Chem. Soc. Jpn.1990, 63, 1925. DOI:10.1246/bcsj.63.1925 [c] Koh, J. T.; Delaude, L.; Breslow, R. J. Am. Chem. Soc.1994, 116, 11234. DOI: 10.1021/ja00104a004
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 有機反応を俯瞰する ーヘテロ環合成: C—C 結合で切る
  2. 核酸塩基は4つだけではない
  3. 究極の二量体合成を追い求めて~抗生物質BE-43472Bの全合成…
  4. 工程フローからみた「どんな会社が?」~タイヤ編 その1
  5. セミナー/講義資料で最先端化学を学ぼう!【有機合成系・2016版…
  6. 反応探索にDNAナノテクノロジーが挑む
  7. 実験・数理・機械学習の融合による触媒理論の開拓
  8. 【21卒イベント 大阪開催2/26(水)】 「化学業界 企業合同…

注目情報

ピックアップ記事

  1. キシリトールのはなし
  2. アルミニウムで水素分子を活性化する
  3. センター試験を解いてみた
  4. 真空ポンプはなぜ壊れる?
  5. コーリー・キム酸化 Corey-Kim Oxidation
  6. 入江 正浩 Masahiro Irie
  7. 第91回―「短寿命化学種の分光学」Daniel Neumark教授
  8. 有機ELディスプレイの最新技術【終了】
  9. 武田オレフィン合成 Takeda Olefination
  10. サイコロを作ろう!

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年10月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

硫黄と別れてもリンカーが束縛する!曲がったπ共役分子の構築

紫外光による脱硫反応を利用することで、本来は平面であるはずのペリレンビスイミド骨格を歪ませることに成…

有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年11月号がオンライン公開されています。…

小型でも妥協なし!幅広い化合物をサチレーションフリーのELSDで検出

UV吸収のない化合物を精製する際、一定量でフラクションをすべて収集し、TLCで呈色試…

第48回ケムステVシンポ「ペプチド創薬のフロントランナーズ」を開催します!

いよいよ本年もあと僅かとなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。冬…

3つのラジカルを自由自在!アルケンのアリール–アルキル化反応

アルケンの位置選択的なアリール–アルキル化反応が報告された。ラジカルソーティングを用いた三種類のラジ…

【日産化学 26卒/Zoomウェビナー配信!】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 キャリアマッチングLIVE

3日間で10領域の研究職社員がプレゼンテーション!日産化学の全研究領域を公開する、研…

ミトコンドリア内タンパク質を分解する標的タンパク質分解技術「mitoTPD」の開発

第 631 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 生命科学研究科 修士課程2…

永木愛一郎 Aiichiro Nagaki

永木愛一郎(1973年1月23日-)は、日本の化学者である。現在北海道大学大学院理学研究院化学部…

11/16(土)Zoom開催 【10:30~博士課程×女性のキャリア】 【14:00~富士フイルム・レゾナック 女子学生のためのセミナー】

化学系の就職活動を支援する『化学系学生のための就活』からのご案内です。11/16…

KISTEC教育講座『中間水コンセプトによるバイオ・医療材料開発』 ~水・生体環境下で優れた機能を発揮させるための材料・表面・デバイス設計~

 開講期間 令和6年12月10日(火)、11日(水)詳細・お申し込みはこちら2 コースの…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP