有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年9月号がオンライン公開されました。
今月号のキーワードは、
「キラルバナジウム触媒・ナフタレン多量体・バイオインスパイアード物質変換・エラジタンニン・モルヒナン骨格・ドナー・アクセプター置換シクロプロパン・フッ素化多環式芳香族炭化水素」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
学会シーズン到来ですね。みなさんはどの学会に参加されますでしょうか?
今月は有機合成化学協会が主催する有機合成化学セミナー@山形も開催されます。今月号の協会誌もぜひお楽しみください!
キラルバナジウム触媒を用いるエナンチオ選択的酸化カップリング反応の開発と応用
査読者によるコメント:
キラルバナジウム触媒を用いた高エナンチオ選択的酸化カップリング反応の開発。多環式ビフェノールからヘリセン、カルバゾールアルカロイドまで、簡便に合成できます!
軸性キラリティーを有するナフタレン多量体のキラル光学特性制御
査読者によるコメント:
キラル分子の相乗効果をクリアカットな分子設計と合成技術により実現しています。ビナフチル誘導体でありながらビナフチルにはとどまらない新しい化学を拓く興味深い化合物です。
生体関連金属錯体と電解および光レドックスシステムを融合化したバイオインスパイアード物質変換反応の開発
査読者によるコメント:
ビタミンB12は中心コバルトが複数の酸化状態を取り得るため、電子授受を介して様々な反応に応用できます。本論文は電気エネルギーと光エネルギーを利用したクリーンな物質変換を可能とする新しい視点のバイオインスパイアード触媒の開発について紹介しています。
エラジタンニンの全部合成を志向した合成法の発展
関西学院大学理工学部、池内和忠・若森晋之介・廣兼司・山田英俊*
査読者によるコメント:
エラジタンニン類の網羅的合成を実現するための戦法は、複雑な構造をどこまで丁寧に分解(逆合成)できるか!?にある。
モルヒナン骨格の特異な反応とその骨格を利用した活性アルカロイドの合成
査読者によるコメント:
ナルトレキソンの特異な骨格変換に焦点を絞った総合論文です。通常では起こりにくい、あるいは予測困難な分子変換を、分子の形や反応性から議論・理解するユニークな研究です。後半部分では、応用展開としてアルカロイド合成にも触れています。創薬研究や天然物の全合成研究に携わる人にとっては刺激的な内容だと思います。
ドナー・アクセプター置換シクロプロパンの環開裂を伴う分子内環化と分子間付加:SN1およびSN2機構を利用する高立体選択的合成
査読者によるコメント:
シクロプロパン環開裂を伴う骨格変換は非常に有用な反応である。本総合論文では高立体選択的シクロプロパン環開裂の反応機構を明らかにするとともに、それらを活用する天然物合成についても述べられており、読者はきっとシクロプロパンの化学に魅了されるだろう。
ピンポイントフッ素化多環式芳香族炭化水素(F-PAH):フルオロアルケンの求電子的活性化による合成と性質
査読者によるコメント:
市川研究室で開発されたピンポイントフッ素化による種々の多環式芳香族炭化水素(PAH)の合成に関する総説である。適切な遷移金属触媒と対イオンを選択することで、1,1-ジフルオロアルケン(アレン)類の求電子的活性化に続く、Friedel-Crafts型環化により高効率かつ位置選択的に種々のフッ化多環式芳香族炭化水素の新規合成手法の詳細が記載されている。
Rebut de Debut: β-フッ素化カルボニル化合物の合成
今月号のRebut de Debutの著者は学習院大学理学部 秋山研究室の宮川雅道 助教です。オープンアクセスです。
近年まで合成が困難とされていた、β-フッ素化カルボニル化合物の合成について報告例をまとめられています。
ラウンジ: ArFエキシマレーザーリソグラフィ用レジストの開発と実用化
富士通株式会社の野崎耕司 博士による執筆記事です。
ArFレジスト(フッ化アルゴン エキシマレーザーリソグラフィ用 レジスト)について、富士通株式会社においてどのように開発が進められ、実用化に至ったのかを詳細に解説されています。筆者の有機合成化学に関する知識と経験が十分に活かされていることがわかります。
巻頭言:感性に導かれる有機合成化学
今月号はエーザイ株式会社の 田上 克也 博士による巻頭言です。
感動の瞬間(Eureka Moment in My research):活性種制御による新反応の発見
感動の瞬間(Eureka Moment in My research)の第五弾は、柳 日馨 教授 (大阪府立大学特認教授•台湾国立交通大学講座教授)による寄稿記事です。
柳教授ご自身の研究の変遷と代表的な研究成果に対する解説、現代の研究環境に対する提言まで、4ページに盛りだくさんの内容が詰め込まれています。
オープンアクセスです。ぜひご覧ください。