今年も9月終盤にさしかかり、毎年恒例のノーベル賞シーズンがやって参りました!
化学賞は日本時間 10月3日(水) 18時45分に発表となります。昨年のノーベル化学賞は「生体内イメージングのためのクライオ電子顕微鏡の開発」に授与されました。説明者推定メソッドから「膜タンパク質」「構造生物学」まで予想を絞り、かなり肉薄したと思うのですが・・・やはりノーベル賞委員会に手玉に取られてしまいました。
今年こそは何とか的中させたい!! というわけで毎年恒例、ケムステ予想企画を実施します!お気軽ノーベル化学賞予想!この化学者に違いない!全くわかんないけどこの化学者っぽい!と特設サイトで予想を投票してください!
(※参加にはFacebookアカウントが必要です)
追記 2018年のノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」へ!なんと今回は受賞者のグレッグ・ウィンター Gregory P. Winterを4名当てました。追って当人にはご連絡し、なぜ選んだのか聞いてみたいと思います(2018年10月3日20:45)。
追記2 当選された4名のうち、2名連絡が取れません。こちらから連絡を取るすべがないので気づいたら、ケムステFacebookか、お問い合わせで連絡いただければ幸いです(2018年10月3日21:31)
追記3 3名と連絡が取れ、商品のアマゾン商品券1万円分をそれぞれ送付しました。ちなみに選んだ理由は以下のとおりです。
Aさん:二年前が有機化学だったので今年はないだろう、去年はクライオ電顕だったので、今年は生物系で選んでみようと思ってました。今年の生理学医学賞がPD-1の発見で、そのPD-1を利用したがん治療薬「オプジーボ」はモノクローナル抗体です。ノーベル賞級の薬の核となる技術は同様に凄いはずだと思い投票しました。
Bさん:今年のノーベル医学生理学賞が本庶先生のPD-1に関する研究になったことから、今年は抗体関連の研究が怪しいと考えました。 そこでヒト化モノクローナル抗体作成の研究をされていたGregory先生を選びました。
Cさん:選んだ理由として、前々から次世代医薬品と言われていた抗体医薬の実用化や発展により、現在多くの人が救われているからです。この成果は今後必ず評価されるであろうと考えていたので選択しました。
あともうひとりと連絡が取れません。こちらから連絡を取るすべがないので気づいたら、ケムステFacebookか、お問い合わせで連絡いただければ幸いです(2018年10月4日17:33)
参加の仕方
下記の受賞予想と人物を参考にしながら、Facebookのアンケートページ(※Facebookにログインが必要)を訪れ、自分が予想するノーベル賞化学者に1票いれてください。
見事的中された方には、抽選でAmazonギフト券10,000円分をプレゼントしちゃいます!前年度は的中者1名でしたので、副賞は3年間のキャリオーバー中、今年は当選者11名です!
考え得る候補をすべて掲載しているわけではありませんので、自分が予想する化学者がリストに居ない!という場合には、コメント欄に追加申請をしてください。対応します。もちろん予想の理由を述べてもらっても良いです!
投票は発表当日30分前まで!ぜひぜひご参加ください。
投票はこちら! (ケムステFacebookファンページ内)
※一度投票すると現在の結果が常に表示されるようになります。
以下投票の参考となるように、いくつかの資料、ケムステ独自の調査に基づく考察、予想を記載します。
受賞分野の周期表 (1970-2017)
例年掲載しています受賞分野一覧表。昨年の受賞分野を「分析化学・構造生物学」と見なしまして、上記の様にアップデートしています。傾向として見て取れるのは下記の通り。
1. 圧倒的に有機化学、生化学分野からの受賞が多い
2. 有機化学は4〜5年に一度のペースで受賞している
3. 生化学は近年だと10年で4~5回の受賞ペース、うち半数は構造生物学領域
4. 分析化学や理論化学からは授賞間隔が長い
5. 物理化学、無機化学は少ない
ここしばらく受賞者が出ていない無機化学分野が今年は要注目に思えます。特に最近はエネルギー化学・環境化学の注目もあって、有害物質の分解や効率的物質生産に結びつく不均一系触媒化学(光触媒・金ナノ粒子触媒)には否応なしに期待が高まるところです。また近年爆発的な発展を見せた多孔性材料の化学(ゼオライト・メソポーラスシリカ・金属―有機構造体)も見逃せない分野でしょう。生化学と絡んだ生物無機化学分野(電子移動系・金属酵素中心の解明など)も大いに有り得る候補です。
また常に受賞確率の高い生化学分野にも、いつノーベル賞を獲ってもおかしくない業績が多数存在しています。再び構造生物学と読むのであれば、前年が「解析手法」への授与であったことを踏まえ、今年は「解析対象」(生体分子とその複合体)への授与となることは十分考えられてよいでしょう。
あえて有機化学分野と見るのであれば、長らく受賞者の出ていない高分子化学領域が筆頭候補となるでしょうか。
登竜門賞の受賞者
ノーベル賞の対象となる学者には、その前に有名国際賞を授賞されることがよくあります。受賞者をチェックしておけば、可能性の高い化学者が絞れるかも!? 化学賞と親和性の高いものは以下の通りです。
- ウルフ賞
- ロジャー・アダムス賞
- プリーストリーメダル
- ベンジャミン・フランクリンメダル
- ロバート・ウェルチ賞
- ラスカー医学賞
- ガードナー国際賞
- ロバート・コッホ賞
- 慶應医学賞
- 日本国際賞
- 京都賞
- ブレイクスルー賞
特に注目すべきは、ノーベル賞王手として名高い2018年ウルフ賞化学部門に藤田誠教授が選ばれたことです。日本人としては野依良治教授に続いて史上2人目の受賞であり、野依教授自身も2001年のノーベル化学賞を受賞しています。近年は他にも日本人化学者の受賞が目立ちます。日本国際賞はリチウムイオン電池開発で毎年候補に挙がる吉野彰博士(2018)と、鉄系超伝導体およびIGZOの開発で世界を席巻した細野秀雄教授(2016)。2017年ロジャー・アダムス賞(隔年授与)は酸触媒化学で先駆的業績を挙げた山本尚教授。2017年ベンジャミン・フランクリンメダルには原子移動ラジカル重合の基本原理を報告した澤本光男教授。いずれの化学者も傑出した業績を誇っており、十分ノーベル賞圏内にあると言えるでしょう。
他メディアの予想:2018年版(※随時追加予定)
① クラリベイト・アナリティクス社 「引用栄誉賞」
毎年発表されている賞ですが「各分野の論文引用数が上位0.1%である」という客観的データをもとに、現在注目を集める分野を育てた化学者を選び出しています。受賞予想企画の一面もあるとされています。過去の受賞者からもノーベル賞受賞者が多く出ていますので、参照価値は高いでしょう。ただ個人的には「受賞後すぐさまノーベル賞」という性質でもない印象を持っています。少し前に受賞した化学者をチェックするのが的中の近道かも?
今年は以下の3分野が選ばれています。ケムステの解説記事はこちら。
有機合成のための触媒反応への貢献、特にジェイコブセン・エポキシ化の開発:Eric N. Jacobsen (エリック・ジェイコブセン)
コンピュータプログラムSHELXシステムの導入とメンテナンスによる、構造結晶学への多大な影響:George M. Sheldrick (ジョージ・シェルドリク)
リボヌクレオチドレダクターゼがフリーラジカル機構によってリボヌクレオチドをデオキシリボヌクレオチドに変換することの発見:JoAnne Stubbe(ジョアン・スタビー)
②日本科学未来館ブログ ① ② ③
こちらも専任の科学コミュニケーターが毎年受賞予測を立てています。解説も詳しく、読むだけで勉強になる貴重な日本語情報源です。
細胞内のシグナル伝達にかかわる新しい脂質の発見:Lewis C. Cantley(ルイス・カントレー)
DNAオリガミ技術を利用したDNAナノテクノロジー分野の創成:Nadrian C. Seeman (ネイドリアン・C・シーマン)、Paul W. K. Rothemund (ポール・ロゼムンド)
次世代DNAシーケンサーの開発:Jonathan M. Rothberg (ジョナサン・ロスバーグ)
③AERA.dot
1月の記事ですが、新春大予想としてノーベル賞予想特集を組んでいます。ノーベル賞もだいぶ市井に開けたものに成ってきたのかも知れません。
スタチンの発見:Akira Endo(遠藤章)
酸化チタン光触媒の開発:Akira Fujishima(藤嶋昭)
④Everyday Scientist
今年も生化学にフォーカスした予想をしています。
細胞骨格モータータンパク質に関する研究:Ronald Vale(ロナルド・ベール)、 Mike Sheetz(マイケル・シェーツ)、 James Spudich(ジェームス・スプディック)
⑤日経新聞
国内でも経済効果を生むためでしょう、最近では日経も取りあげる様になってきています。基本的には日本人の本命候補にフォーカスした紹介です。
リチウムイオン電池の開発:Akira Yoshino(吉野彰)、Koichi Mizushima(水島公一)、Yoshio Nishi (西 美緒)
自己組織化を活用した構造体の合成と応用:Makoto Fujita(藤田誠)
⑥日刊工業新聞(ニュースイッチ)
前年度が分析化学・構造生物学であることを受けて、有機化学・材料化学をメインに押し出しています・・・というよりは、工業に絡む有力な邦人研究者にその分野が多いので、そういう打ち出し方になっていると捉えるべきでしょうか。
光触媒の開発:Akira Fujishima(藤嶋昭)
リチウムイオン電池の開発:Akira Yoshino(吉野彰)
ネオジム磁石の開発:Masato Sagawa(佐川眞人)
ペロブスカイト太陽電池の開発:Tsutomu Miyasaka(宮坂力)
カーボンナノチューブの発見:Sumio Iijima(飯島澄男)
⑦The Best Schools
大学選びのための情報を扱うWebメディアのようですが、かなりしっかりと候補者を選定しています。見逃している研究者もいましたので、今回取りあげておきます。
走査型電気化学顕微鏡の開発:Allen J. Bard (アラン・バード)
ゲノム編集技術CRISPR/Cas9の開発:Jennifer A. Doudna (ジェニファー・ダウドナ)
光リソグラフィ・分子自己組織化・デンドリマー合成への貢献:Jean M. J. Frechet (ジョン・フレシェ)
遺伝子生化学ネットワークに関する研究:Stanislas Leibler(スタニスラス・ライブラー)
ab initio量子化学計算に関する研究:Henry F. Schaefer, III(ヘンリー・シェーファー三世)
スイッチ分子を用いる分子エレクトロニクス・分子ナノマシンへの貢献:James M. Tour(ジェームス・ツアー)
広範な化学分野への貢献、特にナノリソグラフィ技術・自己組織化・医療診断についての研究:Geroge M. Whitesides(ジョージ・ホワイトサイズ)
⑧WebRONZA (2018/9/26追記)
ケムステと同様に無機化学、それも生物無機化学と予想し、大御所二人の名前を挙げています。
タンパク質中の電子移動現象の研究:Harry B. Gray (ハリー・グレイ)
DNA二重鎖の複製を阻害する白金化合物の開発:Stephen J. Lippard (スティーブン・リパード)
⑨NHK まるわかりノーベル賞 (2018/9/28追記)
なんとバーチャルYoutuberキズナアイにノーベル化学賞を解説するというっ・・・!
リチウムイオン電池の開発:Akira Yoshino(吉野彰)、Koichi Mizushima(水島公一)
⑩ケムステ版ノーベル化学賞候補者リスト:2018年版
いつもの通り、各媒体の情報を総合した上で、分野別にリストアップしています。今年も別ページにまとめました。→ こちら
アンケートページで投票可能とした化学者は、昨年授与された分野、既にお亡くなりになった人、少し早いかなと独断で思った人、ちょっと難しいかなと思った人を抜いた予想を加えています。(皆さんなりの候補者と見解があれば、Facebook投票ページもしくはTwitter(@chemstation)へのメッセージで是非教えてください!)
ケムステ予想!今年のノーベル化学賞はこう予想する
まず2年前から、予想の根拠を「受賞内容を説明するメンバーの分野に的を絞る」ということを始めています。一昨年の説明者はOlof Ramström、昨年はPeter Brzezinskiと説明メンバーまでは当てることに成功しました。しかし、残念ながら2年とも予想を外しているわけですが、このような予想根拠で「分野を絞る」ことに成功しています。
今年もその観点から予想してみることにしましょう。つまり、以下のルールを考えます。
- 基本的には議長と主事のメンバーの分野からは選ばれることがない
- 残りのメンバーの分野に近いものがノーベル賞として選ばれる
今年の化学賞審査委員会のメンバーは
Sara Snogerup Linse 2012年「Gタンパク質共役受容体に関する研究」
Claes Gustafsson:議長 2015年「DNA修復機構」
Olof Ramström:2016年「分子マシンの設計と合成」
Gunnar von Heijne:主事
Peter Brzezinski:2017年「クライオ電子顕微鏡」
Johan Åqvist
2013年「複雑な化学システムのマルチスケールモデル開発」
の6名です。ここからこれまで説明者を経験しているひとを除くと(上述:受賞年・受賞タイトルを掲載)、
なんと誰も残りませんでした….
【訂正・追記 2018.9.26】勘違いしていまして2013年「複雑な化学システムのマルチスケールモデル開発」を説明したのはJohan ÅqvistでなくGunnar Karlströmでした。というわけで説明者はJohan Åqvistが第一候補となります。このメンバーはタンパク質のMDシミュレーションなどを得意としているので、生化学分野や理論化学分野が第一候補となってくる気がしてきました。
これは困ったぞ、群雄割拠だぞという状態です。ちなみにノーベル化学賞の審査委員会のメンバーが必ずしも説明しなければ行けないわけではありません。より詳しい専門家がいる場合、スウェーデンの教授から選ばれて説明する場合もあります。というわけで、全く予想もつかない今年の受賞テーマは、長らく出ていないという理由から無機化学分野に設定しました。多孔性材料の化学(ゼオライト・メソポーラスシリカ・金属―有機構造体)や生物無機化学分野(電子移動系・金属酵素中心の解明など)などがかなり熱いのではないでしょうか。前者の場合、以前メンバーだったSven Lidin教授の再登場、後者の場合はメンバーで説明する場合があります。なお、無機分野に設定したことでスタッフ間では96歳と高齢であるGoodenough教授(リチウムイオン電池)の最後の?チャンスではないかとも議論されていました。
皆さんの予想はいかがでしょうか?ご意見をお待ちしております。
それでは日本時間 10月3日18時45分を楽しみに待ちましょう!