キラルルイス酸光触媒を用いた不斉脱芳香族的[2+2]付加環化反応が開発された。ヘテロ芳香環の芳香族性を壊しながら4つの不斉中心の立体制御が可能である。
触媒不斉脱芳香族化(CADA)と[2+2]環化付加反応
芳香環およびヘテロ芳香環を官能基化および変換する手法は数多ある。その中でも近年開発された触媒不斉脱芳香族化(Catalytic Asymmetric Dearomatizations: CADA)は、芳香族化合物を多数の不斉点を有する環状分子へ誘導する手法である[1]。一方で、[2+2]付加環化反応は天然物に含まれるシクロブタン骨格を一挙に構築できる有用な反応である。最近この二つの変換法を組み合わせたCADAを伴うエナンチオ選択的[2+2]環化付加反応が精力的に研究されている。例えばBachらはキラルチオキサトン触媒(1)を用いて、分子内(図1Aa)および分子間(図1B)エナンチオ選択的[2+2]付加環化反応を報告している[2]。また、2017年にはYoonらによりキラルIr触媒(2)を用いた分子内エナンチオ選択的[2+2]環化付加反応が開発されている(図1Ab)[3)。しかし、用いたヘテロ芳香環は2-ヒドロキシキノリンとも言えるが、すでに芳香族性の崩れたキノリン2(1H)-オンである。また、ベンゾフランなどのヘテロ芳香環に[2+2]環化反応を適用した例はあるが、これまで不斉反応には展開されていなかった。
今回ドイツマールブルク大学のMeggers教授らはロジウム触媒(Δ-Rhs)(4)を用いた可視光によるCADAを伴う立体選択的[2+2]環化付加反応の開発に成功した。ヘテロ芳香環(ベンゾフラン・ベンゾチオフェン)を原料として、シクロブタン骨格に複数のキラル中心を有する化合物5および7を位置及び立体選択的に合成できる。
“Catalytic Asymmetric Dearomatization by Visible-Light-Activated [2+2] Photocycloaddition”
Hu, N.; Jung, H.; Zheng, Y.; Lee, J.; Zhang, L.; Ullah, Z.; Xie, X.; Harms, K.; Baik, M.–H.; Meggers, E.
Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 6242-6246. DOI: 10.1002/anie.201802891
論文著者の紹介
研究者:Eric Meggers
研究者の経歴:
1995 Diploma in Chemistry, Institute of Organic Chemistry, University of Bonn, Germany
1996-1999 Ph.D., Department of Chemistry, University of Basel, Switzerland (Prof. Bernd Giese)
1999-2002 Posdoc, The Scripps Research Institute, La Jolla, USA (Prof. Peter G. Schultz)
2002-2007 Assistant Professor, Department of Chemistry, University of Pennsylvania, USA
2007- Full Professor, Department of Chemistry, University of Marburg, Germany
2011-2016 Professor, College of Chemistry & Chem. Engineering, Xiamen University, P. R. China
研究内容:キラルルイス酸·レドックス金属触媒の開発
論文の概要
本反応はジクロロメタン溶媒中、ベンゾフラン3、スチレン誘導体4に対しΔ-Rhsを加え室温で反応させた後、加水分解を経て立体選択的に目的のシクロブタン5を生成する(図2A)。芳香環上に電子供与基(4b)、電子求引基(4c)を有するスチレン誘導体のどちらも用いることができる。また、4はチエニル基やナフタレニル基でもよい。しかし、オルト位に置換基を有する4を用いると反応性が低下する。特筆すべき点は、4の代わりに内部アルケン6を用いた場合、4つの不斉点を有するシクロブタン7を立体選択的に合成できることである(図2B)。6にはb-メチルスチレンだけでなくメチル鎖を伸長した基質も適用可能である(7b)。さらに、3’にはベンゾチオフェン誘導体も用いることができる(7c)。
反応は1) Δ-Rhsと5aによる1A形成、2)一重項励起状態1A*への遷移、3)三重項状態3Aへの移行、4)アルケンとの反応による1,4-ビラジカル中間体3Bの生成、5)3Bの分子内環化、6)触媒再生および5aの生成、という機構で進行すると推定されている(図2C)。著者らはDFT計算の機構解析に基づき、[2+2]付加環化が高い位置選択的である理由を1,2-ビラジカル中間体に対する3Bの安定性であると考察している。前者はラジカルがベンジル位の安定化効果のみを受けるのに対し、後者はカルボニル基と酸素原子の二つの安定化効果を受ける(図2C)。3Bの生成が有利であるため、アルケンのhead to tail付加が進行する。
以上、はじめてヘテロ芳香環に対する不斉[2+2]付加環化反応の開発に成功した。なぜベンゾフランなどに適用できるのか、用いたΔ-Rhsの触媒活性の既存の触媒との比較がないので詳細は不明であるが、高活性な光不斉触媒であることは明らかであろう。
参考文献
- Zhuo, C.-X.; Zhang, W.; You, S.-L.; Angew. Chem., Int. Ed. 2012, 51, 12662.: DOI:1002/anie.201204822.
- (a) Alonso, R.; Bach, T. Angew. Chem., Int. Ed. 2014,53, 4368. DOI: 10.1002/anie. 201310997. (b)Skubi, K. L.; Kidd, J. B.; Jung, H.; Guzei, I. A.; Baik, M.–H.; Yoon, T. P.J. Am. Chem. Soc.2017, 139, 17186. DOI: 10.1021/jacs.7b10586.
- Tröster, A.; Alonso, R.; Bauer, A.; Bach, T. J. Am. Chem. Soc.2016, 138, 7808. DOI: 10.1021/jacs.6b03221.
- Wang, C.; Chen, L.–A.; Huo, H.; Shen, X.; Harms, K.; Gong, L.; Meggers, E. Chem Sci. 2015,6, 1094. DOI: 10.1039/C4SC03101F.