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科学とは「世界中で共有できるワクワクの源」! 2018年度ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞

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2018年7月18日、フランス大使公邸にて2018年度ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞の授賞式が行われました(トップ画像:日本ロレアル株式会社提供)。ケムステでは毎年、受賞者の方のひとりにインタビューをさせていただき、同賞ならびに受賞者の方々を応援させていただいています。
とは言っても、最近になってケムステ記事を読み始めた方も中にはいらっしゃると思います。みなさん、同賞をご存知でしょうか。

ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」:日本の若手女性科学者が、国内の教育・研究機関で研究活動を継続できるよう奨励することを目的として、2005 年 11 月、日本ロレアルが日本ユネスコ国内委員会との協力のもと創設しました。対象者は、物質科学または生命科学の博士後期課程に在籍または、同課程に進学予定の女性科学者です。原則、各分野からそれぞれ 2 名 (計4名) 決定し、賞状と奨学金 100 万円が贈られます。2018年度の受賞者を含め51名の若手女性科学者が受賞しています。受賞以降は、国内外で研究をはじめ、結婚・出産、次世代の育成など多様なキャリアを切り拓いています。

(日本ロレアル株式会社 HPより引用)

このように、物質科学分野および生命科学分野における若手女性研究者、特に博士課程の女性学生に送られる賞のなかでも最高峰とも言える賞であり、今年で12年目を迎えています。過去11年目までのケムステ記事一覧は以下のとおりです。

ちなみに例年3月頃に書類選考があり、突破すれば5月頃に面接選考となります。応募してみたい!という女性学生のみなさん、時期が近づきましたら日本ロレアル株式会社のHPをぜひチェックしてみてください。

栄えある今年度の受賞者は以下の通りです。おめでとうございます!

左から、森本さん、野元さん、駒崎弘樹さん(日本特別賞受賞者)、茂垣さん、黒田さん

 

[物質科学分野]

黒田 千愛 (くろだ・ちあき)さん

所属機関:早稲田大学 先進理工学研究科 電気・情報生命専攻 大木研究室 日本学術振興会特別研究員(DC1)
研究内容:誘電体材料を応用した光センシング技術を開発

茂垣 里奈 (もがき・りな)さん

所属機関:東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻  相田研究室 日本学術振興会特別研究員(DC1)
研究内容:生体分子の働きを光で制御する“接着性”分子ツールの開発

[生命科学分野]

野元 美佳 (のもと・みか)さん

所属機関:名古屋大学 遺伝子実験施設 助教 (2018年4月〜)
出身大学:名古屋大学大学院 理学研究科 生命理学専攻 植物分子シグナル学研究室
研究内容:試験管内で人工的にタンパク質を合成するシステムの開発と本法を用いた植物免疫応答の解析

森本 千恵 (もりもと・ちえ)さん

所属機関:京都大学大学院 医学研究科 法医学講座 日本学術振興会特別研究員(DC2)
研究内容:「またいとこ」までわかる血縁鑑定法の開発

4名のみなさん、この度はおめでとうございます!今年のケムステでは、物質科学分野でご受賞の茂垣里奈さん(東京大学大学院工学研究科・相田研究室D3)にインタビューをさせていただきました!

筆者と茂垣さんには直接の面識はありませんが、相田研究室は筆者の研究領域(広く言って有機化学)では超有名ビッグラボです。様々な研究テーマでトップランナーとして走る相田研究室の中で、茂垣さんは「接着性分子ツールを用いたケミカルバイオロジー研究」を展開されているということで、研究内容についてもっと詳しく知りたくなり、インタビューさせていただく運びとなりました。また、茂垣さんのご経歴やご実績にあるような、素晴らしい成果を残す秘訣をぜひ知りたい!ということで色々と質問させてもらいました。女性男性に関わらず、多くの研究者やその卵となる方々に響いたらいいなと思っております。

あとこれは筆者の勝手な見解ですが、長年同賞の受賞者の方々にインタビューさせてもらっていて、やはり受賞者の方には共通点があると感じます。

それはみなさん「積極性」を強くお持ちであるということです。博士後期課程以降の方々なので、科学に対する純粋な興味はみなさん言わずもがなです。ですがそれだけではなく、茂垣さんのQ4の回答にもありますように「やってみたいことに積極的にチャレンジする」という姿勢が研究者としてキラリと光る何かになり、研究成果や同賞の受賞にも現われているのではないかと思います。

後続の研究者の方々には、同賞にも積極的に応募してほしいですが(これは女性に限ってしまいますが)、研究内容に関して、もしくは海外留学や就職活動、キャリア形成に関しても恐れず我が道を貫く姿勢を持っていただけたら、なんて思ってしまいました。私自身にも言えることで、改めて強くそう感じています。

前置きが長くなりましたが、茂垣さんの今後のご活躍も楽しみにしています。ではインタビューをお楽しみください!

どんな研究を行っていますか?

「生体分子の働きを光で制御する“接着性”分子ツールの開発」

私たちの体内では、DNAやタンパク質といった生体分子の働きがいくつも組み合わさることで、多様な生命現象が引き起こされています。このような背景から、生体分子の働きを「光」で制御し、疾患治療に役立てようとする試みが近年盛んに行われています。光は任意のタイミング・部位で照射できるため、疾患部位のみで生体分子の機能を調節することにより、副作用を最小限に抑えた治療への応用が期待できます。ほとんどの生体分子は元来光に応答しないため、光制御するための仕組みをいかに導入するかが重要な課題です。

私たちの研究グループでは、多様な生体分子表面に接着する『分子の糊』を開発してきました。本研究では、この『分子糊』を基本パーツとし、生命現象を光で制御するための“接着性”分子ツールの開発に取り組んできました。特に、タンパク質表面に貼り付け、その機能を光でON/OFFできる「スイッチ」や、光を当てた細胞でのみ薬剤を細胞核に運搬できる「輸送タグ」を開発しました。従来の光操作ツールは、対象とする生体分子に働きかけるための最適な設計をその都度模索する必要がありましたが、“接着性”分子ツールはさまざまな対象に対して分子糊を共通のデザインとして利用できるため、より幅広い生命現象の光制御、さらには、より多様な疾患の光治療に発展することが期待できます。

受賞者へ1問1答!

Q1. なぜ「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」に応募したのですか?

大学院に入った頃に本賞の存在を知ってから、ずっと憧れがありました。また、普段学会の講演賞やポスター賞などで評価を受ける機会はありますが、学生の間に物質科学や生命科学といった大きな枠で自分の研究を評価してもらえる場はほとんどありません。これまでの自分の研究が外部の人にどのように受け取られるのか知りたいという思いもあり、応募しました。

Q2. なぜ受賞となった研究テーマを選んだのですか?

学部の卒業研究時から分子糊の研究に携わっていますが、当時のテーマは「分子糊の接着で薬剤の効果を増強する」というものでした。薬剤分子に連結した分子糊が標的タンパク質表面に “貼り付く”ことで薬剤分子の結合を増強するのですが、それが可能ならばタンパク質の機能を光制御できる「スイッチ」も同様にタンパク質表面に貼り付けられるのではないかと考え、それを形にしたのが「貼り付けられるスイッチ」です。そこから光を用いた生体分子機能の制御に面白さと可能性を感じ、使えそうな分子を色々と設計・合成するようになりました。選んだというよりは、行き着いたという感じです。

Q3. あなたにとって「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」とは?

自分のこれまでの研究を一から見つめ直すとても良い機会でした。分野外の人に自分の研究成果を面白いと思ってもらうにはどうしたらよいか、今後自分の研究で社会へどう貢献していくか…普段の研究生活や学会発表とは異なる側面から自分の研究を見つめ直せたことで、新たな発見や学びが多くありました。

本賞の受賞については、非常に嬉しく、また光栄に思います。同時に、本賞受賞者の名に恥じないようますます精進しなければと身の引き締まる思いです。この受賞をきっかけに、幅広い方々に自分の研究を知ってもらえればとても嬉しく思います。

Q4. 幼いときはどんな子供でしたか?

やってみたいことには積極的にチャレンジする子供でした。また、読書が好きで、ミステリー小説を読み漁っていました。

Q5. 科学者を志すようになった動機と、エピソードがあれば教えてください

現在の研究の二本柱である化学とバイオの両方に興味を持ったのは、共に高校生の頃です。化学は、当初暗記科目だという苦手意識があったのですが、当時の先生からさまざまな現象の「なぜ」を原理・法則を基に一歩ずつ考えていけることを教えていただき、一気に面白くなったことを覚えています。バイオは、当時ベストセラーだった本を読み、生命の仕組みの精巧さに感銘を受けました。

化学とバイオ、どちらか選ばなければ…と進路に悩んでいた頃、大学のオープンキャンパスで医工学やケミカルバイオロジーといった学際領域について知り、そこからずっと化学とバイオの両方に携わりたいという思いで進んできた結果、今に至っています。

Q6. ずばり、あなたにとって一言で科学とは?

「世界中で共有できるワクワクの源」です。

科学は世界中で共通して学ぶ学問ですし、科学の新しい発見や発明には普段科学に携わっていない人もワクワクすることが多々あるのではないでしょうか。

また、私自身も、留学や学会発表などを通じて世界中の科学者と研究のワクワクを共有する楽しさを実感しています。

Q7. 研究の過程で、男性、女性の違いを意識することはありますか?

体力面や物事の考え方などで男女本来の違いを感じることはあります。ただ、男女の違いを含め人それぞれの性格や考え方がその人の研究スタイルに反映されるのも、研究の面白いところだと思います。

また、学会などでは、女性が少ないからか顔や名前を覚えていただきやすい印象があります。

Q8. 先進国の中で一番女性科学者の比率が少ないと言われる日本の現状についてどう思いますか?

先輩の女性科学者が少ないことで、女性にとってキャリアを継続しやすい環境や制度が整わず、次世代の才能ある女性たちが夢を断念してしまうのだとしたら、それは問題だと思います。今回の授賞式で研究者として現役でご活躍されている歴代受賞者の方々とお話する機会があり、女性科学者のニーズに適った様々なサポート制度があることを知りました。そうした制度が広まるだけでも、進学や将来に悩む女性が科学者を志す後押しになるのではないでしょうか。

Q9. どのような科学者になりたいと思いますか?

自分の専門性を深めつつも、異分野にも幅広く関心を持ち続けられる科学者になりたいです。

Q10. 科学者を目指す、後輩の女性達にひと言メッセージをお願いします。

結婚や出産を含め、キャリアに悩むことは多いと思います。私自身も今後の人生設計に関して悩みや不安は尽きません。しかし同時に、まだまだ未熟とはいえ研究を通じて学び培った力は、今後自分の人生を切り拓いていく上で大きな自信につながるだろうと考えています。

研究では大変なこともありますが、自分で考え自分の手で見つけ出した発見は何にも代えがたい感動を与えてくれます。科学が好きだという初心を忘れることなく、研究を楽しんでいきましょう。

最後に、研究をご指導くださった相田先生、大黒先生をはじめとする研究室内外の皆様、ならびに支えてくださった関係者の方々にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。

[略歴]

茂垣 里奈

2014年3月 東京大学 工学部 化学生命工学科 卒業

2016年3月 東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 修士課程 修了

2016年4月–現在 東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 博士課程

2016年4月–現在 日本学術振興会特別研究員 DC1

 

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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