化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年7月号がオンライン公開されました。
今月号のキーワードは、
「ランドリン全合成・分子間interrupted Pummerer反応・高共役拡張ポルフィリノイド・イナミド・含フッ素ビニルスルホニウム塩・ベンゾクロメン」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
今月号は「ラウンジ」や「Message from Young Principal Researcher」「感動の瞬間」のコンテンツなど、普段よりも充実した内容になっております。
ぜひご覧ください!
ランドリンおよび類縁体の全合成
査読者によるコメント:
天然には極めて珍しいインドリンシクロプロパン骨格を含む複雑な六環性骨格を有するランドリン類縁体の全合成が詳細に解説されており、読み応え十分です。特に、不斉中心の密集した5置換シクロプロパンの立体選択的構築法には著者らの優れたアイディアが豊富に盛り込まれており、その起点となる4置換スピロ中心の実用性の高いプロセスは非常に鮮やかです。
分子間interrupted Pummerer反応を利用したインドール類の官能基化反応
査読者によるコメント:
インドール骨格は医薬品や生物活性天然物などに多くみられる骨格のために、化学や位置選択的官能基化は強く望まれています。しかし、反応性に富むインドールでは選択的な反応が難しいことが知られています。筆者らは、ヘテロ環合成の豊富な実績を基にして、interruped Pummerer 反応を利用した穏和な条件にてインドールの官能基化に成功しました。これら反応は官能基共存性に富むため、多くの誘導体や天然物合成も達成しています。
高共役拡張ポルフィリノイドの合成
査読者によるコメント:
近年、色素材料として注目を集めているポルフィリン誘導体は何処まで長波長吸収することが出来るのだろうか?本論文では種々の芳香環を周辺部に縮環させたポルフィリンや、ピロールの数を4個よりも増やした環拡張ポルフィリンの高選択的合成により近赤外吸収を持つ人工色素の合成に成功している。
遷移金属錯体を利用したイナミドの新規分子変換反応の開発と応用研究
査読者によるコメント:
著者による遷移金属錯体触媒によるイナミドの変換反応を開発がうまく纏められている。遷移金属錯体触媒による多重結合活性化あるいはσ結合活性化の戦略とイナミドの特性を巧みに組みあわせることにより、これまでの到達困難であった分子変換を実現している。特にその位置および選択性の高いレベルでの制御は、興味深い。本論文を読めば、イナミドを使ってみたくなること間違いなし!
含フッ素ビニルスルホニウム塩の合成と合成化学的展開
査読者によるコメント:
トリフルオロメチル基、ジフルオロメチル基、モノフルオロ基をそれぞれ有する3種類の含フッ素ビニルスルホニウム塩の合成ならびに合成化学的利用に関する論文です。これまでの研究成果を用いて、対応する含フッ素シクロプロパンやアジリジンが容易に合成できます。さらに、アジリジンから5員環化合物のオキサゾリジンやイミダゾリンの合成も可能です。
抗HIV活性三量体ベンゾクロメンConocurvoneとその単量体の化学:単量体Teretifolione Bとその関連化合物の合成研究
査読者によるコメント:
クロメン由来のベンザインとシロキシフランのDiels-Alder反応を鍵反応として、Conospermum属植物に含有されるアンギュラー型ピラノナフトキノンの全合成を達成しています。鍵反応の位置選択性に関する考察、また酵素による光学分割を利用した天然物の不斉全合成についても述べられています。
Rebut de Debut: パラジウム触媒を用いた酸クロリドの調製法
今月号のRebut de Debutの著者は2名です!全てオープンアクセスです。一人目は、東北大学大学院理学研究科(寺田眞浩研究室)の菊池 隼 助教です。
パラジウム触媒を用いた酸クロリドの調整法について、最近の例が紹介されています。
Rebut de Debut: 電子豊富な芳香族化合物のC-H官能基化反応及び芳香族求核置換反応
二人目は、星薬科大学薬学部(杉田和幸研究室)の松澤 彰信 助教です。
近年、Nicewiczらによって精力的に研究されている、光レドックス触媒を用いた芳香環C–H官能基化について、電子豊富芳香環を対象に報告例がまとめられています。
ラウンジ: X線自由電子レーザーで捉えたタンパク質中で起こる化学反応の三次元動画
理化学研究所放射光科学総合研究センター XFEL 研究開発部門ビームライン研究開発グループイメージング開発チームの南後恵理子研究員による執筆記事です。
ご自身の研究の推移から、タイトルにありますX線自由電子レーザーを用いたタンパク質中での化学反応追跡に関する研究について、非常にドラマチックに語ってくださっています。専門でなくとも、引き込まれるように読んでしまいました。
巻頭言:弁証法的薬学教育観–薬学における有機化学教育を考える–
今月号は徳島大学大学院医歯薬学研究部(薬学域)の大髙 章 教授による巻頭言です。
薬学部における有機化学、またその教育についての問題提起をしてくださっています。薬学部ではない人にも必見です。オープンアクセスです。
Message from Young Principal Researcher (MyPR):PIになるまでの道程、人との出会い
徳島大学大学院医歯薬学研究部の難波 康祐 教授によるMyPRです。「今」を全力で生きること(化学すること)、人との繋がりの大切さを改めて感じました。オープンアクセスです。
感動の瞬間(Eureka Moment in My research):直接的芳香族カップリング事始め
感動の瞬間(Eureka Moment in My research)の第三弾は、大阪大学大学院工学研究科の三浦雅博教授による寄稿記事です。今や一大分野となった直接的芳香族カップリング反応において、三浦研ではその黎明期に重要な研究をいくつもなされていました。
あと3年で定年を迎えられるということで、本稿を「最終講義の序論」と仰っています。オープンアクセスです。