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スポットライトリサーチ

典型元素触媒による水素を還元剤とする第一級アミンの還元的アルキル化

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第149回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院工学研究科 博士後期課程3年の木下 拓也 (きのした たくや)さんにお願いしました。

木下さんの所属する生越研究室では、ニッケル触媒等の高活性遷移金属触媒や、オリジナルに設計された典型元素触媒を用いた新規反応開発を中心に研究が行われています。

ケムステではこれまでも、生越研究室の研究成果を紹介させていただいてきました。(含フッ素遷移金属エノラート種の合成と応用ニッケル触媒による縮合三環式化合物の迅速不斉合成)

今回紹介させていただく木下さんは、典型元素触媒を用いた第一級アミンの還元的アルキル化反応を開発しました。(プレスリリースはこちら)

Y. Hoshimoto, T. Kinoshita, S. Hazra, M. Ohashi, and S. Ogoshi

Main-Group-Catalyzed Reductive Alkylation of Multiply Substituted Amines with Aldehydes Using H2

J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 7292. doi: 10.1021/jacs.8b03626

木下さんの人柄について、生越研究室の星本陽一講師に教えていただきました。

木下拓也くんは、私が助教として着任した年に生越研へB4として配属されました。その後、幸い(木下くんにとっては不幸?)なことに、私は彼と一緒に研究するチャンスを得て、今年で6年目を迎えます。彼が素晴らしい人間で、生越研の頼れる兄貴的な存在であることは、有金や典型元素の世界では(飲み会等を通じて)周知のことだと思いますので、彼の欠点を。「強い相手に弱い。弱い相手にも弱い。女性にはもっと弱い」(S.O.談)、「どちらかというと甘えん坊」(Y.H.談)、「耳が遠い」(T.A.談)、「アイドルへの過剰投資で貯金ゼロ」(M.S.談)。一緒にいて気持ちいい、人間味のある木下像が伝われば幸いです。

星本 陽一

私自身未だ木下さんと会ってお話したことがないのですが、星本先生の話を聞いて、学会等でお会いできるのが楽しみになりました。笑

ぜひ原著論文も御覧ください。それではインタビューをお楽しみください!

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?

典型元素化学種を触媒、水素を還元剤とする第一級アミンの還元的アルキル化を開発しました。本反応は副生成物が水のみの環境調和性の高い反応であり、理想的な形式のアミン合成・修飾法として、その開発が長年待ち望まれていました (図1)。[1]

私は、高度に設計された有機ホウ素化合物 (BAr3) とテトラヒドロフラン (THF) から成るFrustrated Lewis Pair (FLP) を活性種として用いることで、目標とするアミンの還元的アルキル化が効率よく進行することを見出しました (図2)。[2] 本手法は、従来法においては適用困難であったカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基などの官能基を有する基質も利用可能であり、多様なアミノ酸誘導体の合成にも応用することが出来ます。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。また、研究テーマの難しかったところはどこですか?それをどのように乗り越えましたか?

触媒の分解を抑制するための系の設計が大変でした。FLPは原料のアルデヒドやアミン、副生する水と反応して容易に失活します。B(C6F5)3などの広く用いられる有機ホウ素を直接用いると目的の反応は全く進行しません。そこで、私が以前のテーマで開発した酸・塩基付加体 (B-Pox) からの熱刺激によるFLP発生法を用い、[3] 中間体イミン生成後にFLPを発生させる戦略を試したところ、触媒的に反応が進行する条件が見つかりました (図3、TON 2)。これを機にB-Poxを用いた検討を進めましたが・・・・・その後、効率の改善は見られず、仕舞いには再現まで得られなくなり、憂鬱な日々が淡々と過ぎていきました。最終的には、H先生のB-Poxに対する異様な愛情を振り切り、全く異なる視点から触媒系の開発に取り掛かりました。これが功を奏し、水が触媒失活の原因であることを突き止め、①立体障害が大きくルイス酸性の低い有機ホウ素を用いる、②FLPを構成するルイス塩基にTHFを用いる、③基質 (と副生する水) の濃度を薄めることで、最適な反応系を見出すことが出来ました (図3、TON ~50)。

その後、研究はすこぶる順調に進み、いよいよ終盤に差し掛かった折に、他グループから典型元素触媒による水素を還元剤とするアミンの還元的アルキル化が報告されました。[4] 丁度その時、ICHAC-12に参加するためH先生とカナダ遠征中でしたが、物凄くびっくりすると同時に、非常に悔しく思ったことを覚えています。しかし、私の研究では既に非常に高い官能基許容性を見出しており、研究の切り口も異なっていたため、めげずに踏ん張ることが出来ました。O先生、H先生から機構研究MUSTの指令が下り、私もここまで来たら走り切るしかない!と分かっていたので、徹底的な機構研究により研究を更に深めるよう、実験しました。最終的には中間体であるイミンの生成と、その水素化の両方を有機ホウ素が触媒するタンデム触媒系であることを明らかにしました (図4)。振り返ると、紆余曲折を経て時間はかかりましたが、その分思い入れが深い研究になりました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学の力を使って社会に貢献する技術を開発するのが夢です。環境・エネルギー問題などの世界的規模の社会問題の解決や、より便利で快適な生活の実現への鍵が化学技術であり、そのプロフェッショナルである化学者が担うべき役割は非常に重要かつ誇らしいものであると思っています。化学技術の発展に貢献できる化学者になれるよう努力し、化学の視点からのアプローチを提案しつつ他分野の人たちとも積極的に協力し合い、何か世界で役立つ技術や製品を生み出せればいいなと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究室生活に慣れてくるとあまり意識しなくなりますが、研究室は知的好奇心に基づく自由な発想のもと、世界にない新しいものを生み出すことに挑戦できる非常に貴重な環境だと感じています。未知の現象に向き合い、知恵を絞って謎を明らかにしていく楽しみは、なかなか他では味わえないものだと思います。ぜひこの環境を存分に活用して、思いっきり化学にぶつかってみてください。その経験は必ず自分の大きな財産になると思います。

最後に、研究を進めるにあたり日頃よりご指導、ご助言を頂いております生越専介先生、大橋理人先生、星本陽一先生をはじめとする研究室の皆様、そしてこのような研究紹介の機会を賜りましたケムステスタッフの皆様に厚く御礼申し上げます。

研究者の略歴

名前:木下 拓也 (きのした たくや)

所属:

大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 生越研究室 博士後期課程3年
日本学術振興会特別研究員 (DC1)

研究テーマ:

「ルイス酸・塩基の反応場制御による新規分子変換反応の開発」

略歴:
2010年3月 徳島北高等学校 卒業
2014年3月 大阪大学工学部応用自然科 卒業
2016年3月 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 博士前期課程修了
2016年4月-現在 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 博士後期課程
2016年4月-現在 日本学術振興会特別研究員 (DC1)

参考文献

  1. J. C. Constable, P. J. Dunn, J. D. Hayler, G. R. Humphrey, J. L. Leazer Jr, R. J. Linderman, K. Lorenz, J. Manley, B. A. Pearlman, A. Wells, A. Zaks, T. Y. Zhangl, Green Chem. 2007, 9, 411. DOI: 10.1039/B703488C
  1. Hoshimoto, T. Kinoshita, S. Hazra, M. Ohashi, S. Ogoshi, J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 7292. DOI:10.1021/jacs.8b03626
  2. (a) Hoshimoto, T. Kinoshita, M. Ohashi, S. Ogoshi, Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 11666. DOI: 10.1002/anie.201505974 (https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/anie.201505974)(b) S. Hazra, Y. Hoshimoto, S. Ogoshi, Chem. Eur. J. 2017, 23, 15238. DOI: 10.1002/chem.201703644
  3. (a) É. Dorkó, M. Szabó, B. Kótai, I. Pápai, A. Domján, T. Soós, Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 9512. DOI: 10.1002/anie.201703591  (b) J. S. Sapsford, D. J. Scott, N. J. Allcock, M. J. Fuchter, C. J. Tighe, A. E. Ashley, Adv. Synth. Catal. 2018, 360, 1066. DOI: 10.1002/adsc.201701418

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博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

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