C&EN(Chemical and Engineering News)はACSが発行している雑誌の一つで、その名の通り化学に関わる様々なニュースを配信しています。その中にBench & Cubicleというコーナーがあり、興味深いコラムが掲載されているのでいくつかを紹介します。
記事の概要
Bench & CubicleはChemjobberという企業の化学者が筆者で、化学者の求人情報chemjobber.blogspot.comというブログの運営も行っています。最初の記事は2017年の1月で2018年7月現在19の記事が公開されています。記事は、ラボや研究についてのコラムで、化学者であれば一度は必ず経験した事ばかりを取り扱っています。
記事の要約~人間関係編~
Dealing with a difficult boss:上司とうまく付き合うことはとても難しく、上司の言動ややり方で落ち込んだり落胆することは多々ある。一方で、上司も人間であるため感情的になることもある。そのため素晴らしい上司になることは簡単ではないという一面がある。
How to break down cultural and language barriers in the lab: 昨今のグローバル化により研究室のメンバーは多国籍になっているが、学生たちは言語で別れていることもある。研究室内の協調性を上げるためには、言語と文化の壁を壊す必要があり、例えばコーヒーブレイクなどの会話の機会を作ったり、それぞれの文化のお祝いイベントを行うことが解決策である。
An introvert’s guide to networking: Chemjobberは外向性の人間ではないため、会議や学会での交流が得意ではなかった。そこで人と話す時の考え方を変えて、どのような方法で相手を助けることができるかということを考えるようにした。
Chemjobber shares his secrets to overcoming a fear of public speaking: スピーチが苦手なという化学者はたくさんいる。苦手にならないためには、学生のころから積極的に発表の機会を持ち、大勢の前でのプレゼンでもいくつかのテクニックを使えば、克服することができる。
Social media 101 for scientists: ソーシャルメディアは、化学者にとって有益である。仕事を探したいのならLinkedinが便利であるし、FacebookやInstagramでSNSを楽しむことができる。しかしながら自分が楽しめコミュニティを構築できるSNSを選ぶべきであり、InstagramやTwitterなどの有名なSNSに固執すべきではない。
Chemjobberは人とと話すことが得意ではないと思っているようで、それに関するいくつかのアドバイスは参考になると思います
~キャリア編~
The challenges of moving between academia and industry:民間の研究員と大学の教員には、仕事の内容やスタイルに大きな違いがあり、大学の教員から民間の研究員にまたはその逆に転職する場合には、仕事の違いを踏まえないと新しい仕事で成功できない。
When it’s time to find a job back home:誰でも出身地を想うが、家族と離れて大学に通うこともキャリアを考えるうえで重要である。一方で長いキャリアを積んだ後出身に戻ることも考えられるが、給料か心地よい出身地かを選択しなくてはならない。
Skype: The new phone interview:スカイプなどによるビデオ面接は、プレゼンを電話越しに行うことができるためとても便利であり、近年よく用いられている。一方で、ビデオがあるため服装に気を付けたり、プレゼンのためにPCの設定やコントロール、マイクの位置に気を付けなくてはならないため電話だけの面接よりも準備が必要である。
It’s performance review time (groan):どの組織にも上司からのパフォーマンス評価があるが多く人が嫌いで、否定的なコメントに対しては悲観的になる。その一方で組織内で自分が、何を達成したかを文章にすることは重要で、それをもとに上司からフィードバックを受けるべきである。
Layoffs and the midcareer chemist:ChemjobberはLoweの就職活動についてインタビューを行った。中程度のキャリアを持つ人が会社の状況で解雇される可能性は大いにあり、それに備えて人のつながりを保ち自分の価値と強みを常にまとめておくことが重要だとLoweは言及した。
How to know whether a second postdoc is right for you:Chemjobberは2008年に小さな会社の研究員か2回目のポスドクという選択肢があった。結果的には2回目のポスドクは断ったが、2回目のポスドクポジションは、研究分野とスキルを広げるために有用な選択かもしれない。しかしながらその選択肢を選ぶときには、自分の中でなぜそのポスドクポジションに就きたいのかをまとめる必要がある。
Chemjobber on when it’s time to leave a bad job:就職した当初は素晴らしい仕事だと思っていても社内の雰囲気が悪くなってくると、その会社に残るか転職するかを考えてしまう。会社を去ることは同僚と上司への最強のメッセージだが簡単にこの選択をすべきではないし、会社に残る選択肢を取ったとしてもいくつかのメリットがあり、二つを天秤にかけて選択をすべきである。
どのコラム化学者なら誰しもが興味を持っている仕事に関するトピックについて取り上げられています。
~ラボ編~
Trading sleep for results:化学の学生は、夜中まで実験をして家に仮眠をとってすぐにラボに戻って実験を続けるという経験をすることがある。これは価値のあることで、ハードワークによって素晴らしい結果や短期間の大きなプロジェクトの成功がもたらされる
Dirty jobs in the lab:ラボには、洗浄用のアセトンの補充や器具洗浄などの雑用がたくさんある。ラボの雑用は大変だがとても重要であり、雑用を皆で一緒に遂行すること一つの解決策である。ポンプオイルの交換も大変だが重要な仕事であり、実験が上手くいかなくなったら行うべきである。
What’s in your lab-coat pocket?:白衣のポケットに何を入れているだろうか。多くの化学者は黒いマーカーペンをいれている。そのほかのポケットの中身は、人それぞれでそれはトレーナーや一緒に働く人次第だろう。
Chemjobber shares his tips on overcoming procrastination:Chemjobberは先延ばしのチャンピオンでありなかなか仕事がはかどらない。そんなときに仕事をはかどらせるツールやルールが役に立つ。また、メールを書いても相手のことを思ってしまい、送信ボタンをなかなか押せない。しかしながら人間はケミカルではないから反応は予測できないので深呼吸をして送信すべきである。
What to do when an ill-fated project just won’t die:なかなかゴールが見えずゾンビのように長く続いている研究プロジェクトに出会ってしまうこともある。研究室のミーティングで終了を確認しても、数週間後にはまだやっていない検討を提案されて実験を再開する。プロジェクトがそんな状態になったら研究背景や意義を再度固める必要がある。
The unwritten rules of sharing in the laboratory(最新記事):ラボにでは暗黙のルールがあり、器具・装置と試薬の共有についてもそのルールの一つである。一定のルールの上にラボワークが円滑に進むわけでありそれを破る人が出てくると、ストックが多くなったり、意図的に器具を隠し持ったりと無駄が多くなる。そのため物をシェアすることは、ラボの共同作業の観点から必要なことである。
やはりラボに関するコラムは大変興味深く、賛否両論多くのコメントが寄せられています。夜中の実験やチームワーク、雑用の推奨などChemjobberの主張からは日本的な考え方が垣間見えます。
番外編として、読者からの質問に解答した記事もあります。C&ENにはメッセージを送るフォームもあり、取り上げてほしいトピックがあればメッセージを送ってみることをお勧めします。Bench & Cubicleには、時々普段使わないような言い回しや単語が使われていますが、難しくない英文だと思います。
日本の化学者の日常に関するブログ・サイトはこのケムステを含めて多々ありますが、海外の化学者が思いを綴ったこのBench & Cubicleはとても面白いC&ENのコンテンツであり、これからも更新を続けてほしいと思います。