有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年4月号が先日オンライン公開されました。
今月号のキーワードは、
「脱カルボニル型カップリング反応・キレートアミン型イリジウム触媒・キラルリン酸・アリル銅中間体・窒素固定」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
今月号はこれまでよりボリュームもUPし、さらに読み応えのある内容になっております。ラボの新メンバーの教育材料になるかもしれません。ぜひご一読ください!
芳香族エステルの脱カルボニル型カップリング反応
早稲田大学理工学術院先進理工学部応用化学科 一色遼大、大北俊将、武藤 慶、山口潤一郎
査読者によるコメント:
本総説では、著者の研究も含めて芳香族エステルの触媒的脱カルボニル型反応について述べられています。その背景から最近の進歩まで、詳細に纏められています。たとえば、Fig .1 は、触媒や反応基質などの歴史的変遷を理解しやすく、センスのある図です。この総説は、当該分野における日本語総説のバイブル的存在となるといえます。
協奏機能イリジウム触媒によるギ酸からの水素発生反応と芳香族フッ素化合物の脱フッ素水素化反応-水素移動還元反応からの展開
査読者によるコメント:
キレートアミン型イリジウム錯体を触媒とした「ギ酸分解による水素発生反応」と「芳香族フッ素化合物の選択的脱フッ素水素化反応」に関する著者らの総合論文。詳細な反応機構の考察に加え、配位子と金属の協同効果を活かした「協奏機能触媒」の基本的な概念を知ることのできる興味ある論文といえます。
キラルリン酸による触媒的不斉置換反応およびアシル化反応への展開
京都大学大学院薬学研究科 黒田悠介、原田慎吾、山田健一、高須清誠
査読者によるコメント:
置換反応は付加反応と並ぶ最も基本的な結合形成法ですが、付加反応に比べ不斉触媒反応への展開は極めて限られています。本総説には「脱離基の活性化」に焦点をあてた不斉触媒化法開発の経緯について、付加-脱離型の形式的置換反応、分子内SN2’反応、分子間SN2反応を例にとって紹介されています。
銅触媒によるアレンの変換反応:触媒的に生成したアリル銅中間体を利用する有機合成反応
査読者によるコメント:
銅触媒によるアレンの位置・立体選択的合成の総合論文です。著者らの研究成果のみならず、広範な実験結果が網羅されており、この分野をまとめて理解するうえで優れた論文です。
化学と生物学の境界を乗り越え発展する窒素固定の科学
東京大学名誉教授 干鯛眞信
査読者によるコメント:
窒素固定によって合成されるアンモニアは、古くは窒素肥料の原料として、近年ではエネルギー問題解決の重要な物質として注目されています。本総説では「窒素固定の科学」について化学と生物の両面から歴史と今後の展望をまとめています。これから窒素固定の化学に進出しようとする研究者や初めて窒素固定に興味を持った読者にもわかりやすくなっておりますので、是非ご一読頂きたいです。
Rebut de Debut: 結び目を持つ大環状有機分子の合成
今月号のRebut de Debutの著者はなんと3人もいます!全てオープンアクセスです。一人目は、筑波大学数理物質系(鍋島達弥教授)の松岡亮太助教です。
これまでに報告されている結び目をもつ大環状有機分子(=knots)について、合成例や歴史をまとめられています。美しいカタチをもつ分子のオンパレードです。
Rebut de Debut: PROTACs ―ユビキチンリガーゼをハイジャックしてタンパク質を分解するキメラ分子―
二人目は、Harvard University(Prof. Christina M. Woo)の天児 由佳(あまこ ゆか)博士です。
標的タンパク質をユビキチン/プロテアソーム系 を介して分解する合成分子,PROTAC(sproteolysis─ targeting chimeric molecules)について、開発から近年の報告例までわかりやすく解説されています。
Rebut de Debut: 究極の環境調和型有機合成を目指して―触媒的脱水型辻-Trost反応の最近の進展―
三人目は、北海道大学大学院薬学研究院(佐藤美洋教授)の土井良平助教です。
「究極の環境調和型置換反応」として、アリルアルコールの触媒的脱水型辻─Trost反応の進展についてまとめられているだけでなく、今後の研究発展における様々な課題についても指摘されています。
巻頭言:天然物合成ムーヴメント
今月号は早稲田大学教授の中田雅久教授による巻頭言です。
「天然物合成ムーヴメント」と題して、天然物合成の重要性を様々な視点から説いておられます。合成化学を行なっているひとならばみな共感し、そうでないひとには新たな気づきを与える巻頭言だと感じます。ぜひお読みください!
Message from Young Principal Researcher (MyPR)若手PIを目指した私の心得
今月号から新しくMessage from Young Principal Researcherという連載が始まりました!4,7,10,1月号に掲載予定だそうで、これは会員限定のアクセスとなります。
第一回は、京都大学大学院工学研究科の中尾佳亮教授による記事です。主に有機金属触媒化学の業績で著名な先生ですが、若くして独立されラボを運営されてきたことも大変有名ですね。「若手PIを目指した私の心得」というタイトルで、学生として研究室配属されたときから現在に至るまで、どのような心構えでいらっしゃったかということを書いてくださっています。
私(めぐ)も駆け出しの研究者・大学教員なので、記事を読んでとても刺激を受けました。研究・教育に没頭することはもちろんですが、自分のキャリアもしっかり見つめようと改めて思いました。
ラウンジ: フッ素化学工業原料を利用する含フッ素化合物合成反応
旭硝子株式会社の森澤義富博士による記事です。
本稿では、長い歴史を経てもフッ素化学工業において依然重要な原料である HF, F2 や含フッ素モノマーについて、それらのフッ素原子導入剤としての使われ方、また含フッ素ビルディングブロックとしての活用のされ方について記されています。
(2017 年 5 月 27 日東北大学にて行われた有機合成化学協会・東北支部 仙台地区春の講演会の内容を元に作成されています。)
感動の瞬間(Eureka Moment in My research):時間を空間で制御する合成化学
今月号からの新しい企画がまだまだあります。感動の瞬間(Eureka Moment in My research)の第一弾は、京都大学大学院工学研究科教授であられる(2018年3月に退官されています)吉田潤一先生による寄稿記事です。
「空間で時間を制御する合成化学」として、長年吉田教授が取り組まれてきたフローケミストリーについて語られています。ぜひご一読ください。