研究者にとって、業績を適切に管理しアピールすることは重要です。以前にも少し触れましたが、科研費の審査員、高インパクト論文の読者、講演の聴講者、就職先の面接官などなど、ありとあらゆる人が研究者名を検索エンジンで調べる時代なのです。スマホの普及により、最近ではいよいよ加速傾向にあります。ろくな情報がウェブに出てないと、「名が売れてないのでは?」「何やってる人なのか分からん!」と切って捨てられかねません。
そのようなリーチ目的で、情報をひとまとめにしておければ便利です。この際に役立つのが研究者プロフィールサービスです。昨今はサービスが乱立気味な嫌いもあるのですが、管理コストを勘案しつつ、質と便益性の高いサービスを厳選したうえで使うのがいいと思えます。今回は筆者個人の独断と偏見に基づき、「今後も残りそう!」と思えるサービスを重点的に紹介したいと思います。
各種プロフィールサービスを使うメリット
検索エンジンを介した自己アピール
一旦作っておけば自発的に何かする必要がなく、検索エンジンに引っかかるのを待てばいいので、アピールとしては楽ちんです。この観点から、検索エンジンと紐付けられたサービスに情報をおいておくと、リーチ性が良くなります。
研究業績の定量アピール
文献データベースと紐付いたサービスも多く存在しています。このようなサービスでは、論文引用数、高インパクトファクター論文数、研究領域など、研究者としてのアクティビティに関する客観指標を自動解析してくれるのが特徴です。もちろん研究者同士のシビアな比較に使われる想定ですが、自分なりに見直してみると、年ごとの頑張り具合が見えたりして、なかなか面白かったりします。
公募プロセスとの紐付け
各種グラント・ポジションの応募時には、履歴書(CV)やPublication Listの提出が求められます。しかし毎回毎回それを作り直すのは大変です。
プロフィールサービスと紐付いたURLなどを送付できれば、事務作業が簡素化され、異なる公募への使い回しも効くようになります。クラウドベースなので、どの端末からでも更新できますし、バックアップ・維持管理の手間も少なくなります。生産性向上・人件費削減の流れにある都合、今後いっそう普及していくことが望まれます。
多機能型情報発信プラットフォーム
コミュニティ(SNS)機能・ブログ機能などが実装され、研究者同士がより活発に情報交換を行うことを意図したサービスも見受けられます。個人ホームページをつくるスキルを持たない研究者も少なくない現実、こういったサービスで代替していくのは一つの手です。決定版と呼べるサービスはまだ無さそうですが、将来どのような普及を見せていくか、興味の持たれるところです。
さて以下では、現存するプロフィールサービスの特徴を、一言フレーズ付きでまとめて見たいと思います。
「研究者版マイナンバー」ORCID (必須度★5)
同姓同名の研究者を区別する目的で作られています。論文投稿時にORCID番号と著者を紐付けることで、論文ページから著者情報にアクセスしやすくする仕組みが簡単に実現されます。これを整備するジャーナルも増えつつあります。
世界標準規格の地位を着々と固めつつある模様なので、時間が無くてもこれだけは情報登録しておきたいところです。ただ、ORCIDには情報発信機能やSNS機能などは実装されておらず、見た目もあまり凝っていないので、あくまで電子版名刺のようなものと捉えておくのが良さそうです。
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「研究業績可視化サービス」ResearcherID/Publons(必須度★4)
クラリベイト・アナリティクス社が提供する文献データベース・Web of Knowledgeと紐付けされています(追記:2019年にPublonsとの統合が発表されました。査読履歴も科学者の業績・インセンティブとしてカウントする流れはますます強まりそうです)。
最近の興味深い潮流として、国内アカデミア職の公募時に提出が求められる事例が出てきています。アカデミア研究者にとって、もはや整備必須のサービスといえます。毎回なにかに応募するたび業績リストを書き直すのは本当に時間の無駄なので、こういう風に上手く使ってどんどん効率化を進めて欲しいものです。
「純国産の研究基盤プラットフォーム」Researchmap(必須度★5)
科研費番号を個別IDとして運営される、政府主導の純国産サービスです。各種文献データベースとも連携しており、情報入力作業についても省力化がなされています。
「おとなりの研究者」というコーナーがなかなか見もので、表面的には分からない学生時代の先輩後輩関係=ラボ血族までもが解析されているあたり、純国産品ならではの凄さ(良い意味でのキモさ)が感じとれます。ブログ機能なども付いていますが、あくまで国内研究者向けといえるでしょう。
政府主導の特長を活かし、国内研究者に役立つ機能を数々実装していくという、共通研究プラットフォーム構想のもとで運営されていることが最大の特徴でしょう。たとえば研究費管理システム(e-Rad)とResearchmapの連携が成されています。人材募集欄などが実装されていることからも、JREC-INなども将来的に統合されていくものと思われます。
急にそうなったときに困らないよう、若手研究者は今から登録・整備しておくといいのではないでしょうか。
2018/8/20追記
H31年度から科研費申請書の業績欄が廃止され、Researchmap参照方式へと移行することになりました。このため整備は国内研究者たるものほぼ必須事項になりました。★5サービスに格上げです。
「さすがGoogle!を実感」:Google Scholar Citation(必須度★3)
Googleが運営するサービスですので、著者名をGoogle検索すると上位に表示されてきます。このためグローバルへのアピール効果は抜群です。また、とにかく表示が高速で、情報が厳選されて見やすいのも利点です。Google Scholarと紐付けられた上で論文リストが自動更新されるため、一旦作っておけば管理作業がほぼ不要なのも嬉しい点です。反面カスタマイズ性は低いですので、そこは好みでしょうか。以前ケムステでも詳しく紹介していますので、ご参照下さい。
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「研究者版Facebook」:ResearchGate(必須度★3)
メッセージ機能やコミュニティ機能などのSNS面が大変充実しています。著作権的に問題のある論文アップロードも増えているため各出版社からの訴訟の的になっていますが、論文をアップしなければ問題はありません。とにかく検索エンジンに引っかかりやすい印象ですので、自己アピールを期待するなら整備しておいて損はないでしょう。
「エルゼビアの企業戦略に唸る」:Scopus Author Profile(必須度★2)
エルゼビアが管理する論文データベース・Scopusと紐付けされたサービスです。強力かつ視覚的に分かりやすい研究アクティビティ指標(メトリクス)の表示が特長と言えます。論文管理ソフトMendeleyがエルゼビアに買収されたため、Mendeley Profileとも半自動で紐付けされるようになりました。
エルゼビアは近年、ありとあらゆるフェーズの研究情報を吸い取って機械解析するデータ企業戦略を徹底しており、実はこのサービスもその一環です。この周辺の話題については、機会があれば紹介してみたいと思います。
その他のサービス(必須度★1)
他にもAcademia.edu、Microsoft Academic Searchといったやや目立たないサービスも存在しています。海外滞在経験があるなら、LinkedInに論文リストを追記しておくなどの工夫もアリでしょう。管理コストと相談しつつ、自分なりに使ってみるのがいいと思います。
おまけ:CVファイルにハイパーリンク貼ってみた
研究室のホームページでは、各自の履歴書をPDF形式で公開しているところも多いかと思われます。筆者は新年度が始まったことを機に、自分のCVファイル(PDF)上で、プロフィールサービスをハイパーリンク付きでリストアップしてみました。プラス要素がどこにあるのかはまだ良く分かりませんが、半分は自分の覚え書きですね。