関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。
新年度はじめて、今年2回目のケミカルタイムズの特集は「有機分子触媒」。久々のド直球有機化学です。日本の有機触媒のさきがけたちが名を連ねています。加えて今月号のトピックスは関東化学で販売している水素移動型還元的アミノ化触媒の開発について。ケムステでも以前同社のこの触媒開発について紹介しました。
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キラル相間移動触媒としての丸岡触媒®及び関連触媒の開発
京都大学丸岡啓二教授による記事。
丸岡教授はキラル相関移動触媒の開発で著名な研究者です。相関移動触媒は有機化合物と水の二相系での反応が可能あり、塩基を用いる極性反応において様々な利点があります。
一般的に相関移動触媒として第四級アルキルアンモニウム塩を用いますが、それをビナフチルベースキラルなアンモニウム塩にしたのが、丸岡触媒と呼ばれるキラル相関移動触媒です。丸岡触媒および構造を簡素化した簡素化丸岡触媒は、既に市販化され、工業的にも利用されつつあります。
さらに今回の記事では、塩基存在下だけでなく中性条件下でも用いることができるキラル相関移動触媒も紹介しています。最近の結果ではないですが、有機分子触媒のさきがけたる研究が紹介されていますのでぜひともご一読をおすすめします。
有機超強塩基触媒が拓く新たな炭素-炭素結合生成反応
東北大学の寺田眞浩教授と同研究室の近藤梓助教による記事。寺田教授は秋山・寺田触媒というキラルブレンステッド酸触媒の開発者として著名な研究者です。最近では、東北大学理学部のプロモーションビデオにて、化学科代表「次世代分子触媒のフロントランナー」としてクールな姿をみせてくれています。
本記事は、キラルブレンステッド酸触媒でなくキラルブレンステッド塩基触媒の開発と反応への応用を述べています。注目したのは”有機超強塩基”としてしられるホスファゼン塩基(イミノホスホラン塩基)。この超強塩基を不斉触媒化することによって、脱プロトン化を経由して生成する求核剤の適用範囲が広がります。実際、彼らが合成に成功したのは以下のキラルビス(グアニジノ)イミノホスホラン触媒。これを用いて1,3-ジチアン誘導体のイミンへのエナンチオ選択的な付加反応やアミドを求核剤とした炭素ー炭素結合形成反応の開発に成功しています。
一方で、強塩基性のホスファゼンを触媒として用いることによる、[1,2]-ホスファ-ブルック転位についても述べています。不斉触媒化はされていないものの最新の研究結果まで記載されています。ぜひお読みください。
チオ尿素・アリールボロン酸ハイブリッド触媒の開発
京都大学の竹本佳司教授による記事。竹本教授はTakemoto触媒として知られるチオウレア触媒の開発者として著名な研究者です。今回は、カルボン酸のマイケル反応に関する不斉有機触媒反応の開発について執筆しています。
そもそもカルボン酸誘導体の不斉マイケル反応はかなりの数が報告されていますが、反応性と立体選択性の獲得のためにカルボン酸を”保護”しなければならず、カルボン酸そのままをもちいた触媒的不斉マイケル反応はほとんど知られていません。今回著者らは最終的にチオ尿素・ボロン酸ハイブリッド触媒を用いることにより分子内・分子間触媒的不斉マイケル反応の開発に成功しています。よくデザインされた触媒ですね。記事ではその経緯と詳細について述べられていますのでぜひお読みください。
有機イオン対の触媒化学:構造に由来する機能発現
最後の記事は名古屋大学大井貴史教授と同研究室の浦口大輔准教授、大松享介特任准教授による寄稿です。大井教授は有機イオン対の精密分子設計をキーワードとして、アンモニウム塩に代表される新規オニウム塩を設計し不斉触媒として応用しています。例えば、従来の分子間イオン対型アンモニウム塩では触媒が最初にもっているアニオンが結合形成段階に関与することができません。それに対して、アンモニウムベタインとすることによって、適切なイオン対を与えれば、カチオンとアニオンが恊働的に反応に関わる「イオン対型協奏型触媒」として、振る舞うことが期待されます。
記事ではこのようなオニウム塩触媒として、彼らが開発したアンモニウムベタインに加えて、テトラアミノホスホニウム塩、1,2,3-トリアゾリウム塩の不斉有機触媒についてまとめています。どれもオリジナリティが高く分子設計の参考になるでしょう。ぜひお読みください。
実用的な水素移動型還元的アミノ化触媒の開発
トピックス欄には関東化学が開発した水素移動型還元的アミノ化触媒の記事です。還元的アミノ化反応は古くから知られる反応ですが、化学量論量のヒドリド還元剤を必要とします。水素ガスを用いた水素添加条件で触媒反応は知られていますが、化学選択性と可燃性の水素を使わなければいけないことが難点です。その難点を克服したのが有機化合物を水素源として用いる触媒反応。すなわち水素移動を利用するものとしてはLeuckart-Wallach反応やLeuckart反応が知られていますが、反応させるために高温が必要となります。
本記事では関東化学が開発したイリジウム触媒を用いた水素移動型還元的アミノ化反応の開発について第一級・第二級そして第三級アミンの合成を温和な条件で達成してます。ラボスケールから工業的な利用も期待できる本触媒。ぜひとも使ってみてはいかがでしょうか。なお、ケムステでも関東化学が寄稿した本研究に関しての記事を公開しています。(記事:アミン化合物をワンポットで簡便に合成 -新規還元的アミノ化触媒-:関東化学)
過去のケミカルタイムズ解説記事
- 分析技術(2008, No.1)
- イオン液体(2017年 No.4)
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2)
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)
外部リンク
関連製品情報
- 不斉有機触媒(関東化学パンフレット)
- 有機触媒 [触媒反応](東京化成工業)
- 不斉有機触媒 (東京化成工業)
本記事は関東化学「Chemical Times」の記事を関東化学の許可を得て一部引用して作成しています。