有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年3月号が昨日オンライン公開されました。
今月号のキーワードは、
「π造形科学・マグネシウムカルベノイド・Darzens反応・直接的触媒的不斉アルキニル化・光環化付加反応」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
今月は日本化学会春季年会や日本薬学会春季年会も開催されます。年会前に、今月号の有機合成化学協会誌を読んでおきましょう(最後にJ-STAGEの登録に関するお願いがあります)!
π共役系分子および高分子の重なり方をデザインする『π造形科学』:酸化還元系を中心に
物質・材料研究機構 名倉和彦、井上亮太、高井淳朗、杉安和憲、竹内正之
本論文は、π共役系分子あるいは高分子化合物の重なりをデザインし、酸化還元特性を制御した最近の研究を網羅的に解説した総説です。最近、π造形科学のコンセプトが注目されていますが、この分野の最先端研究を知るよい機会になりますので、是非ご一読下さい。
マグネシウムカルベノイドの三面的な反応性を活用する合成反応の開発
マグネシウムカルベノイドの反応性・理論解析・応用展開などを広範にカバーした重厚な論文です。未知の部分が多い化学種だけに、著者らの仮説立案・研究アプローチ等に説得力があり、読み応えがあります。マグネシウムカルベノイドの不思議な反応性に興味のある方は必読の論文です。
Darzens反応を利用したラクタム天然物の合成
京都府立大学大学院生命環境科学研究科 小森健太、水谷将馬、椿 一典
本論文ではDarzens反応を利用したラクタム天然物群の合成と絶対立体配置の決定に関する研究が紹介されています。Darzens反応は18世紀に発見された古典的な反応ですが、著者らはその反応を巧みに利用して5つのラクタム天然物の短工程合成を達成しました。絶対立体配置の決定では、2017年5月号でも紹介された振動円二色性(VCD)スペクトルが利用されています。この論文では重要な変換反応に関しては反応機構が詳細に解説されているので、学生の皆さんにとっては反応機構の勉強にもなると思います。
フェニルビスオキサゾリンロジウム(III)錯体を用いたα-ケトエステルおよびα-ケチミノエステルに対する直接的触媒的不斉アルキニル化反応の開発
Phebox-ロジウム触媒のFine Tuningによって,光学活性第三級プロパルギルアルコールやアミンの効率的合成に成功しています。均一系遷移金属触媒の利点を存分に活かし,反応機構解析の重要性を教えてくれる,お手本のようなお仕事です!
芳香環への光環化付加反応による多環式化合物の合成
奈良先端科学技術大学院大学 水野一彦
この総合論文では、光化学反応の特性を利用した複雑な炭素骨格の構築法が述べられています。反応機構も詳細に述べられており、じっくり読めば有機合成の幅が大きく広がります。
Rebut de Debut: MAC反応剤を用いた触媒的不斉炭素–炭素結合形成反応
今月号のRebut de Debutの著者は二人です!一人目は、Harvard University(Prof. Yoshito Kishi)の梅原 厚志 博士です。
Masked acyl cyanide (MAC)反応剤を用いた反応の近年の報告例について、触媒的不斉炭素–炭素結合形成反応にスポットを当て紹介されています。代表がボストンを訪れた時にお会いしてますね(記事:ゴードン会議に参加して:ボストン周辺滞在記 Part II)
Rebut de Debut: Pleuromutilinの不斉全合成
二人目は、千葉大学大学院薬学研究院(根本 哲宏 教授)の中島 誠也 助教です。
特異な薬理作用機序を有することで知られているPleuromutilinは、その骨格の複雑さからも多くの合成化学者の興味を惹きつけています。その不斉全合成について、近年報告された例の骨格構築法に焦点を当てまとめられています。ちなみに余談となりますが中島助教、過去に本サウェブサイトでもReaxys Prize 2016とSciFinder Future Leadersプログラム参加の記事において取り上げています。あわせて閲覧どうぞ。
巻頭言:実験事実と理論:基礎研究のおもしろさ
今月号は東北大学名誉教授の原田 宣之教授による巻頭言です。
Ben L. Feringa教授が2016年のノーベル化学賞を受賞されたことはみなさんよくご存知だと思います。(ケムステ参考記事はこちら) Ferringa教授は「分子モーターの発明」でノーベル化学賞を受賞されましたが、それは原田先生の仙台(東北大学)でのお仕事が基礎にあり、その内容はFerringa教授との共著論文として世に出されています。本巻頭言では、その研究のいきさつを原田先生自身が述べられています。是非ともお読みください。なお原田先生は本年、中西プライズを受賞者され、日本化学会春季年会で受賞講演が行われます。こちらにもぜひお越しください!
ところでJ-SAGE登録してます?(代表より)【再掲載】
ケムステで有機合成化学協会誌を紹介しはじめてしばらく経ちました。協会誌の編集委員長であった林雄二郎先生に「協会誌の見える化」促進のためにと、提案を受けはじめたものですが、かなりの反響を受け、ダウンロード数も上がっています。特に、Review de Debutは無料で閲覧できるだけでなく、超若手の化学者が単名でまとめたミニ総説なので、掲載されることとここで紹介されること両方の利点も相まって非常に人気がでています。
しかし!何度も言いますが、他の総説・総合論文も、会員ならばWebで全部読むことができるんです。現在のものだけではなく、過去のものも全部検索して読むことが可能です。
ただし、そのためにはJ-STAGEに登録しなければなりません。実は5000人以上会員がいる有機合成化学協会ですが、登録しているのはなんと1/5の1000人だそうです。
「その登録フォームどこにあるの?」という疑問、色んな人から受けています。はい、利用フォームはこちらです→ J-STAGE「有機合成化学協会誌」利用登録フォーム
過去のHPですとどこにあるかもわからず、断念しかねた人が多いと思いますが(僕もそうでした)、現在はすぐみつかりました。折角の会員特典なのでぜひ登録してみてください。
なおここで注意事項です。登録には会員番号が必要なんです。そんなもの知らねー!という人が多いかもしれませんが、実は有機合成化学協会誌の届く封筒に記載があるんです。そこの貴方、封筒を捨てる前に登録してみてくださいね。あともう一点難点が、「登録後、閲覧が可能になるまでに1週間ほどお時間がかかります。」
「今見たいんだよ!」という方多いと思いますが、今のところ仕方がありません。そのようなことがないように前もって登録してみてください!なお、このよくわからない仕様を解決するために有機合成化学協会誌の会員登録と同時にJ-STAGEの登録も済ませてもらえるように提言しました(実現はわかりません)。現在の会員に関しても強制登録してもらうようにお願いしましたが、そこは難しいかもしれないので、ちょうど今登録してみてください。
有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズ
- 有機合成化学協会誌2017年5月号 特集:キラリティ研究の最前線
- 有機合成化学協会誌2017年6月号 :創薬・糖鎖合成・有機触媒・オルガノゲル・スマネン
- 有機合成化学協会誌2017年7月号:有機ヘテロ化合物・タンパク質作用面認識分子・Lossen転位・複素環合成
- 有機合成化学協会誌2017年8月号:C-H活性化・アリール化重合・オキシインドール・遠隔不斉誘導・ビアリールカップリング
- 有機合成化学協会誌2017年9月号:キラルケイ素・触媒反応・生体模倣反応・色素・開殻π造形
- 有機合成化学協会誌10月号:不飽和脂肪酸代謝産物・フタロシアニン・トリアジン・アルカロイド・有機結晶
- 有機合成化学協会誌2017年11月号:オープンアクセス・英文号!
- 有機合成化学協会誌2017年12月号:四ヨウ化チタン・高機能金属ナノクラスター・ジシリルベンゼン・超分子タンパク質・マンノペプチマイシンアグリコン
- 有機合成化学協会誌2018年1月号:光学活性イミダゾリジン含有ピンサー金属錯体・直截カルコゲン化・インジウム触媒・曲面π構造・タンパク質チオエステル合成
- 有機合成化学協会誌2018年2月号:全アリール置換芳香族化合物・ペルフルオロアルキル化・ビアリール型人工アミノ酸・キラルグアニジン触媒・[1,2]-ホスファ-ブルック転位