[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ゲルマニウム触媒でアルキンからベンゼンをつくる

[スポンサーリンク]

ジゲルミンを触媒前駆体とするアリールアルキンの環化三量化反応が報告された。位置選択的に反応が進行し1,2,4-トリアリールベンゼンを高収率で与える。

アルキンの触媒的ホモ環化三量化反応

環化三量化反応はアルキンを3つ組み合わせることにより、ベンゼン誘導体を合成できる。

遷移金属触媒を用いた例が主であり、金属に配位したアルキンの酸化的カップリングによるメタラサイクル1の形成、1へのアルキンの挿入、続く還元的脱離により置換ベンゼン体を与える(図1A)1)

1は3つの異性体が考えられ(1a–1c)、1a, 1bからは1,2,4-置換体2aのみが生じるが、1cからは2aおよび1,3,5-置換体2bの混合物を与える。

実際、初めて報告されたニッケル触媒を用いたアルキンの触媒的ホモ環化三量化反応は、位置選択性が発現していない。しかし、現在はアルキン上の置換基や触媒の配位子を適切に設計することで、2を位置選択的に得ることができる1)

一方で、遷移金属のかわりに典型元素を触媒とする環化三量化反応も数少ないが報告されている。Si2Cl6を触媒とすると、環化三量化反応が進行するが、ラジカル機構であり、激しい条件を必要するだけでなく位置選択性に難がある(図1B) 2)。今回、名古屋市立大学の笹森教授らは、独自に開発した立体保護基Tbb基で安定化された典型元素(Ge)三重結合分子、ジゲルミン3 3)を触媒前駆体とするアルキンの位置選択的なホモ環化三量化反応に成功したため紹介する(図1C)。4)

図1. アルキンの触媒的ホモ環化三量化反応

Regioselective Cyclotrimerization of Terminal Alkynes Using a Digermyne

Sugahara, T.; Guo, J.-D.; Sasamori, T.; Nagase, S.; Tokitoh, N. Angew. Chem., Int. Ed. 2018 Eary View DOI: 10.1002/anie.201801222

論文著者の紹介

研究者:笹森貴裕ケムステインタビュー記事はこちら)

研究者の経歴(一部抜粋):
2000 京都大学大学院理学研究科(化学研究所), 特別研究学生 (時任宣博教授)
2002 博士(理学), 九州大学大学院理学研究科凝縮系科学専攻 (藤尾瑞枝助教授)
2002–2003 京都大学化学研究所, 研究員
2003–2009 京都大学化学研究所, 助手 (2006年より職名変更のため助教)
2009–2017 京都大学化学研究所, 准教授
2017– 名古屋市立大学大学院システム自然科学研究科, 教授
研究内容:高周期典型元素を含む新規分子の創製

論文の概要

著者らは、ジゲルミン3に対して、2当量のアルキンを作用させることで、1,2-ジゲルマベンゼンを合成できることを既に見いだしている 4)

フェニルアセチレン4aを用いても同様に反応が進行し、1,2-ジゲルマベンゼン5aを与えた(図2A)。続いて、5aに対してさらに過剰量の4aを加えると、1,2,4-トリフェニルベンゼン7a6aを与えた。6aを単離し、4aを加熱条件下で反応させた場合も同様に、7aが得られ、6aが回収された。

この結果から、6aが環化三量化反応の触媒活性種であることが示唆された。実際に触媒前駆体として3(4 mol%)を用い、種々のアリールアセチレン4を作用させたところ、位置選択的に反応が進行し1,2,4-トリアリールベンゼン7が高収率で得られた(図2B)。

交差実験およびDFT計算の結果から、以下の反応機構を推定している(図2C)。

a) 6と平衡状態のゲルモール-ゲルミレン8のゲルミレンGe-C=結合への4の挿入による9の生成、

b) 9のゲルミレン部位と4との[1+2]付加環化反応

c) 得られる10の分子内[4+2]付加環化反応による11の生成

d) 11のretro-[1+2]付加環化反応によるゲルマノルボルナジエン12の形成

e) 12のretro-[1+4]付加環化反応による75の生成、f) 54による6の再生

という経路である。位置選択的に7を与える理由は、

a)で 熱力学的に安定な9を与えるように4が挿入する

b)で Tbb基との立体反発をさけるかつ続く[4+2]付加環化反応が速度論的に有利な10を与えるように49に接近する

f)で速度論的および熱力学的に安定な6が生じるように45に付加するためである

と結論づけている(論文SI参照)。

図2. ジゲルミン3を触媒前駆体とする末端アルキンの位置選択的環化三量化反応

 参考文献

  1. Reviews: (a) Inglesby, P. A.; Evans, P. A. Chem. Soc. Rev. 2010, 39, 2791. DOI: 10.1039/B913110H (b) Broere, D. L.; Ruijter, E. Synthesis 2012, 44, 2639. DOI: 10.1055/s-0032-1316757
  2. Yang, J.; Verkade, J. G. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 6834. DOI: 10.1021/ja980356z
  3. なおMo四重結合をもつ分子を触媒とした2bの合成例が報告されている。Chen, Y.; Sakaki, S. Dalton Trans. 2014, 43, 11478. DOI: 1039/C4DT00595C
  4. (a) Sasamori, T.; Sugahara, T.; Agou, T.; Guo, J.-D.; Nagase, S.; Streubel, R.; Tokitoh, N. Organometallics 2015, 34, 2106. DOI: 1021/om501204u (b) Sugahara, T.; Guo, J.-D.; Sasamori, T.; Karatsu, Y.; Furukawa, Y.; Ferao, A. E.; Nagase, S.; Tokitoh, N. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2016, 89, 1375. DOI: 10.1246/bcsj.20160269
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. ポンコツ博士の海外奮闘録⑧〜博士,鍵反応を仕込む②〜
  2. アリルC(Sp3)-H結合の直接的ヘテロアリール化
  3. ケトンを配向基として用いるsp3 C-Hフッ素化反応
  4. 積極的に英語の発音を取り入れてみませんか?
  5. 表面処理技術ーChemical Times特集より
  6. リガンド結合部位近傍のリジン側鎖をアジド基に置換する
  7. 論文の自己剽窃は推奨されるべき?
  8. ホストとゲスト?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 企業の研究開発のつらさ
  2. フロインターベルク・シェーンベルク チオフェノール合成 Freunderberg-Schonberg Thiophenol Synthesis
  3. 「第22回 理工系学生科学技術論文コンクール」の応募を開始
  4. 信じられない!驚愕の天然物たち
  5. アズレンの蒼い旅路
  6. 近くにラジカルがいるだけでベンゼンの芳香族性が崩れた!
  7. 分析技術ーChemical Times特集より
  8. “秒”で分析 をあたりまえに―利便性が高まるSFC
  9. 花粉症対策の基礎知識
  10. 最新 創薬化学 ~探索研究から開発まで~

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年3月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー