生物医学文献データベースPubMed に格納されている、生物の遺伝子に関する論文は120 万本を超える。このデータベースを使って、ヒト遺伝子2 万7000 個のうち「最もよく研究されている遺伝子」を調査するうちに、分子生物学の黎明期からの変遷や最近の動向が浮かび上がってきた。
タイトルおよび説明はシュプリンガー・ネイチャーの出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」2月号から(画像クレジット:JASIEK KRZYSZTOFIAK)。最新サイエンスを日本語で読める本雑誌から個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。
ヒト遺伝子のヒット・ランキング
◯◯ランキング。概ねみな好きか、好きでなくとも気になる部類にはいるひとが大多数と思います。ランキングといえば、大学界隈でも、論文のランキングであるインパクトファクターランキングや大学ランキングがあります。分野別はまだしも、外国人比率や学生数など様々なファクターで評価した「総合大学ランキング」に関しては、上位に位置するための対策(研究者としては費用対効果で無駄に思える)をしなければならない。正直言って面倒くさいのでやめて欲しいものです。
閑話休題。さて本記事は、研究された遺伝子のランキングをつくりました!という話です。ほんとなんでもランキングですね苦笑。トップテンは以下の通り。
やっぱり一位はガン関係でがん抑制遺伝子であるTP53。「ゲノムの守護者 (The Guardian of the genome)」ともいわれ、ヒトの全ガンのほぼ半数で変異しているからです。他にもいくつかはわかりますが、生物学者でも「なんだっけこれ?」という遺伝子がトップテンに含まれているそうです。それらは過ぎ去りし時代の遺伝子研究で注目されましたが、いまではあまり研究されていないもの。
トップテンはみてふーんと思うだけかもしれないですが、全く研究されていない遺伝子には少し注目です。ほんとに意味がない遺伝子であることが大半なのかもしれませんが、研究対象としてライバルがいないとも言えます。また、経年変動をみてみると、研究数が増えてきている遺伝子は、今後爆発的に研究が行われるかもしれません。そこに注目して、研究を行えば「流行」の走りになれるのでは?ということです(この考え方、あまりポジティブではないですが、研究資金的な意味では重要かもしれません)。そういったわけで、記事では、トップテンにもはいっているような以前注目されていた遺伝子や、経年変動からみる遺伝子研究を詳しく解説しています。
とっておき年間画像特集2017
昨年の研究からNatureが厳選した科学や自然界の印象的な画像を紹介します。
アンビリーバボーな写真は科学研究の花形。化学分野ではちょっと少ない気がしますが、特に宇宙・考古学・動物学関係の研究には写真一枚で人々を魅了するちからがあります。記事では、2017年の研究から14枚の写真を厳選して紹介しています。全部気になる感じですが、それらを掲載してしまうと怒られてしまうので、最も気になる写真を1枚。「シースルーなカエル」の写真です。
このカエルの正体はアマガエルモドキ科のHyalinobatrachiumcolymbiphyllum の雌。腹部の皮膚が透明なので、中の卵が透けて見えています。論文は以下を参照。
A marvelous new glassfrog (Centrolenidae, Hyalinobatrachium) from Amazonian Ecuador
Guayasamin, J. M.; Cisneros-Heredia, D. F.; Maynard, R. J.; Lynch, R. L.; Culebras, J.; Hamilton, P. S. Zookeys 2017, 673, 1–20. DOI: 10.3897/zookeys.673.12108
米国のポスドクの給料格差
米国のポスドク研究者の給料に関する調査から、公立大学の一部のポスドクがファストフード店の店員並みの給料で働いているのに対して、年額1000 万円以上の給料を得ているポスドクもいることが明らかになった。
米国の最低賃金高騰に伴い、ついに日本学術振興会の海外特別研究員の給料も引き上げられたことが最近の話題になっていました。海外学振は税金がかからないので、そもそも高い給料だと思っていました。さて、記事で取り上げられている米国のポスドク給料分布グラフを引用します。いずれにしても近年かなり高騰しているのはわかります。10年前は3万5000ドルを提示されれば、平均以上だといわれていました。
2017年にNIHが定めたポスドクの給料は4万7484ドル(約520万円)。対して、最低額は2万3600ドル(260万円)、最高額は11万4600ドル(1260万円)だそうです。国立大だと最高額を超えるのはかなり年齢がいってからですね苦笑。個人的な意見としては、最低額はあまりにも少ないと思いますが、NIHの定めた給料は十分な気がします。ところで研究者を「時給換算」されても、かなりの人がファーストフード店の店員なみの給料になっちゃいますね。
特別公開記事
今月号の特別公開記事は以下の3つ。
お!これは結構使える情報か?と期待してみましたが、化学構造式に慣れていない人向けのガイドでした。分子を扱った研究をしている化学者には当然の内容です。とはいえ、それ以外の学生には有用なガイドだと思います。化学の大学院生でもとんでもない構造式を書いてくる事が多々あるので。 go.nature.com/2zvoeza参照。
論文中の塩基配列の誤りを発見するプログラム「Seek & Blastn」(scigendetection.imag.fr/TPD52/)を開発したそうです。論文不正のチェックに使えそう。
今月号の日本人著者に対するインタビューは名古屋大学大学院理学研究科の鈴木孝幸講師、黒岩厚教授。形態発生学を専門として、今回「後ろ足の発生時期が四肢動物の胴の長さを左右すること」を遺伝子研究によって明らかにしたとのこと。
3つとも無料公開ですのでぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
その他の記事
ケムステでも取り上げた「デンキウナギに着想を得た柔らかい電源」(ケムステ記事:電気ウナギに学ぶ:柔らかい電池の開発)がNews記事として取り上げられています。それ以外にも毎号6-7つのニュース記事がありますが、1ページないし1.5ページで端的にまとめられていて、最新科学研究をフォローするのにちょうどいい長さです。
他の記事を読みたい場合はご購読を!
過去記事はまとめを御覧ください
外部リンク
- Nature ダイジェスト | Nature Publishing Group
- Natureダイジェスト、編集部 (@NatureDigest) | Twitter