2月になりました。あっという間に2018年も過ぎていきます。さて、ついに先月創刊した「Nature Catalysis」。なんだか姉妹誌が増えすぎてだんだんよくわからなくなってきていますが、化学の中核である触媒分野の新雑誌ですので、化学のウェブサイトとしては大いに盛り上げたいところです。
現在先行公開されていた2報も含めて、創刊号に掲載された論文が無料公開されています。どのような雑誌なのか、またどのような論文が掲載されているのか。少しだけ覗いてみましょう。
Nature Catalysisとは
触媒はご存知の通り様々な分野で活躍しています。ケムステでメジャーなのは均一系触媒ですが、工業的には不均一系触媒が、もっとも我々に「近い」ものでいえば生体触媒です。それらを合成したり、物性を調べる研究には化学の知識はもちろんのこと、その範疇を超えた科学が必要となります。その巨大な分野の専門誌としてこのNature Catalysisが創刊したようです。対象となる分野は以下の通り。
- Catalytic synthesis
- Catalytic mechanisms
- Catalyst characterization and monitoring
- Computational and theoretical catalysis
- Nanoparticle catalysis
- Electrocatalysis
- Photocatalysis
- Environmental catalysis
- Asymmetric catalysis
- Organometallic catalysis
- Organocatalysis
- Enzymatic and chemoenzymatic catalysis
ジャーナルの構成は他のNature姉妹誌とほぼ同様で、総説(Review)と論文(Research)、その分野の研究をハイライトしたニュース(News&Views)、研究展望や意見をのべる(Perspective, Comment)とその他(Editorial, Books & Artなど)で成り立っているようです。
今回、この雑誌の編集長(Chief Editor)に任命されたのはEnda Bergin氏。同じくNatureの姉妹誌である、Nature Communicationの化学分野を担当していた編集者。専門は有機合成化学・均一系触媒です。
加えて、3人の編集者(Associate Editor)がいます。3人の編集者が大きく分けて、均一系触媒、不均一系触媒(コンピューターモデリングも含む)、生体触媒などを担当するそうです。
アメリカ化学会も数年前に触媒分野の専門誌ACS catalysisを創刊し、広範な触媒分野から質の高い論文を集めています。このジャーナルは触媒分野のトップジャーナルを目指しているのではないでしょうか。
それでは創刊号の内容を覗いてみましょう。
Nature Catalysis創刊号(Issue 1)
掲載論文は8報。かなり絞っています。加えて、1つの総説です。大まかな印象としてはアカデミック人口が一番多い均一系触媒が今号に関しては少ないように感じます。上述したように触媒という大分野から網羅的に選んだことがその理由でしょう。
総説は、「化学触媒反応と生体触媒反応を組み合わせる機会と課題」について。
例えば、基質に有機金属触媒を作用させ生成した中間体を、生体触媒と反応させるなど。連続反応やタンデム反応などいくつかの分類に分けて紹介しています。もちろん、生体触媒が働くような環境、つまり水系で温和で働くような合成触媒を選ばなければなりません。やっぱり有力なのは有機触媒やフォトレドックス触媒ですね。網羅的な総説ではなく、端的に分野の歴史から最新研究を紹介する感じのミニ総説です。
“Opportunities and challenges for combining chemo- and biocatalysis”
Rudroff, F.; Mihovilovic, M. D.; Gröger, H.; Snajdrova, R.; Iding, H.; Bornscheuer, U. T. Nature Cat. 2018, 1, 12. DOI: 10.1038/s41929-017-0010-4
論文もいくつかみてみましょう。1つは「単純なアルカリ土類金属触媒によるイミンの水素化」。エアランゲン・ニュルンベルク大学のHarder教授らによる報告です。失礼ながら存じ上げませんでしたが、アルカリ金属とくにカルシウム触媒を用いて精力的に反応開発や機構解明を行っているようです。
今回の論文もカルシウム触媒を用いた、イミンの水素添加反応。とっても単純な反応ですが、通常遷移金属を用いる還元反応をカルシウム触媒で行い、機構解明研究(DFT計算)も行っています。しっかり中身を読んでいないので新規性はよくわかりませんが、安価な触媒で低温かつ低い水素圧力でイミンの還元が進行することが特徴です。
“Imine hydrogenation with simple alkaline earth metal catalysts”General synthesis and definitive structural identification of MN4C4 single-atom catalysts with tunable electrocatalytic activities
Bauer, H.; Alonso, M.; Färber, C.; Elsen, H.; Pahl, J.; Causero, A.; Ballmann, G.; De Proft, F.; Harder, S. Nature Cat. 2018, 1, 40–47. DOI: 10.1038/s41929-017-0006-0
もうひとつは、「電極触媒活性を調節できるMN4C4単原子触媒の一般的合成と決定的な構造同定」。著者はUCLAのHuang准教授。どうでもよいですが、彼女のHPめちゃくちゃ重たいです。
金属の凝集を極力防いだナノ触媒よりもさらに小さい単原子で働く触媒(Single-atom catalysts :SACs)が最近注目されています。均一系触媒と不均一系触媒の両方の利点をもつことが特徴です。著者らは、窒素ドープグラフェン上の金属(ニッケル、鉄、コバルト)単原子触媒の一般的合成によって共通構造の同定が可能として、さらに構造と電極触媒活性を関連づけました。
“General synthesis and definitive structural identification of MN4C4 single-atom catalysts with tunable electrocatalytic activities”
Fei, H.; Dong, J.; Feng, Y.; Allen, C. S.; Wan, C.; Volosskiy, B.; Li, M.; Zhao, Z.; Wang, Y.; Sun, H.; An, P.; Chen, W.; Guo, Z.; Lee, C.; Chen, D.; Shakir, I.; Liu, M.; Hu, T.; Li, Y.; Kirkland, A. I.; Duan, X.; Huang, Y. Nature Cat. 2018, 1, 63–72. DOI: 10.1038/s41929-017-0008-y
これ以外にも様々な触媒に関する最新研究が公開されています。ニュースになり話題となっている「CO2をエチレンに選択的に変換できる新触媒」(論文はこちら DOI:10.1038/s41929-017-0016-y)もこのジャーナルですね。おそらくIssue 2に掲載されると思いますが、これらも今のところ無料で閲覧可能です。
というわけで、簡単に新雑誌Nature Catalysisについて紹介していました。その他の論文やニュースなどもぜひ眺めてみてはいかがでしょうか。でも結局は大学が購読するか否かなんですよね。Nature姉妹誌であり、インパクトファクターが高かろうと、実際の閲覧数が低ければ目的を達していない気がします。Cell PressのChemも無料のときは毎号みていましたが、有料になった瞬間に存在を忘れちゃうぐらいみてません。面白い研究ならばたくさんの研究者にみられることによって、フォロワーがどんどん関連研究を加速してます。
1年、いや半年ぐらい無料にして様子をみさせてください!