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スポットライトリサーチ

脱水素型クロスカップリング重合法の開発

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第138回目のスポットライトリサーチは、筑波大学 神原・桑原研究室の青木 英晃さん(博士前期課程2年)・下山 雄人さん(博士前期課程1年)にお願いしました。

神原・桑原研究室は、遷移金属触媒反応を中心とした機能性分子の合成を行っています。今回、脱水素型クロスカップリング重合法の成果がプレスリリースとして取り上げられていたため、インタビューをお願いしました。

Synthesis of Conjugated Polymers Containing Octafluorobiphenylene Unit via Pd-Catalyzed Cross-Dehydrogenative-Coupling Reaction

H. Aoki, H. Saito, Y. Shimoyama, J. Kuwabara, T. Yasuda, T. Kanbara

ACS Macro Lett. 2018, 7, 90–94. DOI: 10.1021/acsmacrolett.7b00887

指導教員の神原先生より、青木さん・下山さんについて以下のコメントをいただいております。

今回の成果は青木君の気質に依るところが大きかったと思います。青木君は、寡黙で控えめな青年ですが、研究に対する取り組みは素直で非常に粘り強く、彼のこの研究に対する探究心とたゆまぬ努力の積み重ねがなければ、今回の成果は得られなかったでしょう。この経験を活かして、次年度からは企業研究者として新天地でもさらに飛躍を遂げてくれるものと信じています。
下山君は勉強好きな大変優秀な学生で、内に秘めた化学に対する愛情は人一倍のものがあります。下山君の有益な助言は青木君の大きなサポートになったことと思います。

それではご覧ください!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?

2種類の芳香族化合物のC-H結合を反応点としてC-C結合を形成する脱水素型クロスカップリング反応(CDC)を重縮合反応に適用し、構造欠陥がほとんど存在しないπ共役高分子の合成に成功しました。CDCは2種類の芳香族化合物のC-H結合を反応点とするため、従来法で必要だった金属やハロゲンの事前導入が不要な反応です。CDCでは片側の基質でのホモカップリング反応の併発が問題となりますが(図1)、本研究ではホモカップリングの割合を2%にまで抑制したポリマーの合成ができ、合成した高分子がELデバイスの材料として機能することを示しました(図2)。また酸素分子を最終酸化剤とすることで、これまで用いられていた金属酸化剤の使用量を大幅に削減し、主な副生成物が水になるような高分子合成法の開発にも成功しました。(青木)

図1

図2

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究は低分子でのモデル反応からスタートしましたが、モデル反応がうまくいった時が思い出深い瞬間でした。私は研究室配属されてから1年以上モデル反応を仕込んではNMRで解析する日々を過ごしており、いつもピークが乱立したスペクトルしか見ていませんでした。その私には、目的生成物しかいない綺麗なスペクトルがとても不思議で呆然としてしまいました。(青木)

私の思い入れがあるところは今回用いたCDCの反応系です。CDCは基質のC-H結合を反応点として利用するため、反応順序の制御が困難な反応です。それにもかかわらず、今回の反応系では基質の反応順序をほぼ完全に制御出来ています。これは非常に興味深い結果であると同時にブレイクスルーの足がかりになるものではないかと私は考えています。自分は現在この反応を次のステップへ進めるためのいわば「土壌作り」を行っています。(続報にご期待下さい!)(下山)

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

2つの基質を1:1で反応させた場合でも、ホモカップリングがほとんど発生しないような反応条件を見出すところが難しかったです。既報の論文はいずれも片側の基質を過剰量用いていますが、交互共重合体を合成するには2つの基質を1:1のモル比で添加する必要がありました。その中でホモカップリングを抑制し、クロスカップリングが定量的に進行する反応系を見つけ出すのにかなり時間がかかりました。今回用いている触媒系ではフルオロベンゼン同士のホモカップリングが起こらないことは既に分かっていましたので、フルオロベンゼンの反応性を塩基によって上げることで反応制御を達成することが出来ました。(青木)

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学に限ったことではないと思いますが、研究室での生活を送っている中で、研究室ベースでできることと実用化までの間には大きな壁がいくつもあるなと感じることがあります。私はその橋渡しのような仕事が出来たらなと考えています。また、π共役高分子が関わる有機エレクトロニクスの分野はまだまだ発展していくと思うので注目したいと思っています。(青木)

細かな分野にかかわらず、化学が楽しいもの(興味深いもの)と思っていられるような関わり方をしていきたいです。なので、あまり前のめりにならず、落ち着いて一歩下がった位置から見渡せるようにするために軸と基盤作りをしたいと思います。(下山)

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究における突破口は、研究室でこれまで開発した技術がもとになっています。新分野の研究となると近い内容の論文しか見ないということもあるかもしれませんが、ヒントはどこに転がっているのか分かりません。ですので、広い視野を持って色々試してみることも大事だと思っています。(青木)

CDCは理想的なクロスカップリング反応ではあるものの、まだまだ開拓されていない部分も多く課題も残る反応です。しかし、だからこそ今後更なる基盤研究やそれを利用した応用研究が盛んにおこなわれていくようになると思います。またCDCに限らず、今後は理学的基盤に基づく応用展開というのが増えていくのではないでしょうか。(そうであってほしいです…)ですので、表に出てくる応用研究だけでなく、裏で支えている基盤研究にも注目して頂けると嬉しいです。(下山)

最後になりましたが、ご指導して頂いた神原貴樹教授、桑原純平講師、共同研究を行っていただいたNIMSの安田剛主幹研究員、実験のご指導を頂いた齋藤仁志さんにこの場を借りて心より感謝申し上げます。

関連リンク

筑波大学プレスリリース

神原・桑原研究室

研究者の略歴

青木 英晃 (あおき ひであき)
所属:筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 神原・桑原研究室
博士前期課程2年
研究テーマ:脱水素型クロスカップリング反応によるπ共役高分子の合成
略歴
筑波大学 理工学群 応用理工学類 卒業(所属:神原・桑原研究室)
筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 神原・桑原研究室(現所属)
下山 雄人 (しもやま ゆうと)
所属:筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 神原・桑原研究室
博士前期課程1年
研究テーマ:理学的基盤に基づく脱水素型クロスカップリング反応系の開発
略歴
筑波大学 理工学群 応用理工学類 卒業(所属:中村・近藤研究室)
筑波大学大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 神原・桑原研究室(現所属)

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有機合成を専門にするシカゴ大学化学科PhD3年生です。
趣味はスポーツ(器械体操・筋トレ・ランニング)と読書です。
ゆくゆくはアメリカで教授になって活躍するため、日々精進中です。

http://donggroup-sites.uchicago.edu/

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