有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年1月号が昨日オンライン公開されました。
今月号も有機合成化学に関連する話題が盛り盛りです。今月号のキーワードは、
「光学活性イミダゾリジン含有ピンサー金属錯体・直截カルコゲン化・インジウム触媒・曲面π構造・タンパク質チオエステル合成」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。
今年も有機合成化学協会誌を読んで刺激を受け、研究に励み、一緒に有機合成化学を盛り上げていきましょう!
光学活性イミダゾリジン含有ピンサー錯体を用いるプロトン ─金属協調触媒反応の開発
2016年度有機合成化学協会企業冠賞 日産化学・有機合成新反応/手法賞受賞論文です。著者らは光学活性イミダゾリジン含有ピンサー金属錯体によって実現されるプロトン–金属協調触媒作用を活かして、幾つかの不斉合成反応を開発しました。近年、協調触媒作用に基づく不斉合成反応が盛んに開発されていますが、著者の成果はその最先端といえます。本総合論文では、イミダゾリジン含有の三座配位子の発見から光学活性イミダゾリジン含有ピンサー錯体への展開がうまく纏められています。特に、触媒反応過程の解析が詳細に行われており、大変興味深いものとなっています。
パラジウムまたはニッケル触媒による芳香族炭素 ─水素結合の直截硫黄化およびセレノ化反応
一般的に触媒毒として知られている硫黄に代表されるカルコゲン元素。遷移金属触媒を利用し、硫黄/セレンの芳香環に対する直截的導入(炭素—水素結合直接官能基化)に成功した研究です。鍵となるのは、金属を反応点の近傍によせることができる配向基。炭素—水素結合直接官能基化反応で大活躍している配向基ですが、カルコゲン元素の導入は筆者らが先駆的な結果を報告しています。目的や課題、反応機構解析などもしっかり記載されており、近年の潮流である炭素—水素結合直接官能基化反応を学ぶためにもオススメです。
インジウム触媒とヒドロシランを用いた還元的分子変換を中心とする有機合成
反応性のさほど高くないヒドロシランの特性を生かすべく、インジウム触媒との巧みな組み合わせにより多くの還元的な反応に基づく分子変換を達成しました。温和な条件で進行するため、実践的利用が期待される反応系が多く紹介されています。
ヘテロ元素を含む曲面 π 共役分子合成法の開発
曲面π構造構築の匠ともいえる著者らの曲面構築のノウハウが紹介されています。登場する化合物はいずれも大きく変形した奇妙な構造をとっています。近年では、このような曲面π構造がもつ新しい物性に熱い視線が注がれており、構築手法の開発もより重要性を増していく中、このような歪み化合物を穏和な条件下で構築する優れた手法は必見です。
天然に学ぶタンパク質合成化学 ―ペプチド・タンパク質チオエステル合成を中心に―
徳島大学大学院医歯薬学研究部(薬学域) 大髙章先生・重永章先生
Native Chemical Ligation (NCL)法は、非天然化合物やD-アミノ酸などを含むペプチド・タンパク質の調製において、とても有用な手法です。本論文では、NCL法の鍵となるチオエステル化合物のFmoc法での合成手法、並びに発現タンパク質からの変換手法についてまとめられており、今後のさらなるNCL法の発展に重要な知見が述べられています。
Rebut de Debut: 不活性末端アルケンの触媒的Markovnikov型ヒドロホウ素化反応
今月号には2件のRebut de Debutがあります。まず一人目の著者は、千葉大学大学院工学研究院(坂本昌巳 教授)の吉田泰志 助教です。
本総説では近年発展が目覚ましい、「不活性末端アルケンの触媒的Markovnikov型ヒドロホウ素化反応」について解説されています。
Rebut de Debut: 1,2-メタレート転位を伴うアルケニルボレートと求電子剤の反応
二人目の著者は、学習院大学理学部化学科(草間博之 教授)の石田健人 助教です。
「1,2-メタレート転位を伴うアルケニルボレートと求電子剤の反応」について、最近の進展を紹介されています。
巻頭言:精密有機合成のイノベーション
今月号は東京大学大学院理学系研究科の小林修 教授による巻頭言です。
フロー合成に代表される精密有機合成の重要性を、現在の日本が抱える問題に対する視点から説いておられます。オープンアクセスとなっておりますのでぜひお読みください。
紹介記事:村井眞二先生に文化功労者の顕彰
慶應義塾大学理工学部の垣内史敏 教授による紹介記事です。村井眞二 教授が平成29年度の文化功労者の顕彰を受けられたことを記念し、先生の来歴やこれまでなされてきた研究、そのお人柄や信念などを紹介されています。
有機合成化学の分野において知らないひとはいないほど著名な先生ですが、記事を読んで、改めてその偉大さを感じました。ご一読ください。
ラウンジ:我が国の研究が拓く糖鎖化学の未来
2016年有機合成化学協会賞を受賞された、理化学研究所の伊藤幸成 教授による執筆記事です。受賞業績である糖鎖合成において、国内外で行われている最先端研究について詳しく記されています。
有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズ
- 有機合成化学協会誌2017年5月号 特集:キラリティ研究の最前線
- 有機合成化学協会誌2017年6月号 :創薬・糖鎖合成・有機触媒・オルガノゲル・スマネン
- 有機合成化学協会誌2017年7月号:有機ヘテロ化合物・タンパク質作用面認識分子・Lossen転位・複素環合成
- 有機合成化学協会誌2017年8月号:C-H活性化・アリール化重合・オキシインドール・遠隔不斉誘導・ビアリールカップリング
- 有機合成化学協会誌2017年9月号:キラルケイ素・触媒反応・生体模倣反応・色素・開殻π造形
- 有機合成化学協会誌10月号:不飽和脂肪酸代謝産物・フタロシアニン・トリアジン・アルカロイド・有機結晶
- 有機合成化学協会誌2017年11月号:オープンアクセス・英文号!
- 有機合成化学協会誌2017年12月号:四ヨウ化チタン・高機能金属ナノクラスター・ジシリルベンゼン・超分子タンパク質・マンノペプチマイシンアグリコン