富山県立大学の小山靖人らは,Ugi 反応 (多成分反応) を基盤とした重合反応による交互ペプチドの合成法を開発した.
“One-pot synthesis of alternating peptides exploiting a new polymerization technique based on Ugi’s 4CC reaction”
Koyama, Y.*; Gudeangadi, P. G. Chem. Commun. 2017, 53, 3846–3849. DOI:10.1039/C6CC09379E
課題設定
繰り返した配列をもつポリペプチドは,次世代の構造材料として注目を集めている.アミノ酸 A とアミノ酸 B が ABABABAB…と続くような交互ペプチドは A と B が連結したジペプチド AB をモノマーとした重縮合で合成できる[1].しかしジペプチドの合成には多段階合成が必要で,この方法はあまり実用的とはいえない.今回,小山らは新たなアプローチにより 2 種類のアミノ酸が交互に縮合した構造の交互ペプチドの合成に成功した.
アプローチ:Ugi 反応 (多成分反応) による重合
小山らは Ugi 反応を基本とした重合法を開発することで交互ペプチドの合成を実現した.Ugi 反応は四成分縮合反応で,カルボン酸,アルデヒド (もしくはケトン),イソシアニドおよび一級アミンを混ぜると α-アミノアシルアミドが得られる[2].これまでにも Ugi 反応を起点とした高分子合成が報告されているが[3],交互ペプチドの合成はなされていなかった.
小山らがとった戦略は,上図の R3 と R4 をつなげて,イソシアノ基とカルボキシ基の両方を有するイソシアノカルボン酸を基質として用いるというものである.一般にイソシアノカルボン酸は不安定であるが,カルボン酸塩 (カリウム塩) は安定であることを利用し[4],酸 (TfOH) を用いて反応系内でイソシアノカルボン酸を発生させ Ugi 反応による重合を試みた.
検討の結果,2-プロパノール溶媒中,室温で 2 日間撹拌したのち溶媒を取り除き,その後さらに 1 日間撹拌すると高分子量の生成物が得られることがわかった.炭素上の置換基の立体化学は制御されないものの,交互ペプチドが生成していることを NMR および IR で確認している.
ポイントと疑問点
- 重合触媒はいらない.
- 事前にアミンとアルデヒドを反応させたイミンを調製してから反応を行なっているが,そのままアミンとアルデヒドを使うこともできる.
- DOSY を使って分子量を決定している.サイズ分取クロマトグラフィーは交互ペプチドがカラムに吸着しすぎるため,また DLS は交互ペプチドが低分子量なため使えなかった.
- キラルな交互ペプチドもできるのか.
- どうやったらもっと素早く重合できるだろうか.
- 基質 (potassium α-isocyanoacetate) はイソシアノエステルの加水分解 (KOH) で合成.イソシアノエステルの合成もそれなりに大変か.
著者情報
PI 小山靖人 (富山県立大学工学部)
主な経歴
2005 東北大学理学研究科 博士(理学)
2005 日本学術振興会 博士研究員
2007 東京工業大学助手,助教
2013 北海道大学触媒化学研究センター 准教授
2016 富山県立大学工学部 准教授
研究分野:有機化学•高分子合成•超分子化学
以上小山研究室HPより抜粋
参考論文
- Mandelkern, L.; Mattice, W. L. Biochemistry, 1971, 10, 1926–1933. DOI: 10.1021/bi00786a029
- Ugi, I. Angew. Chem., Int. Ed. Engl. 1962, 1, 8–21. DOI:10.1002/anie.196200081
- Rudick, J. G. J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem. 2013, 51, 3985–3985.
- Bonne, D.; Dekhane, M.; Zhu, J. Org. Lett. 2004, 6, 4771–4774. DOI: 10.1021/ol0479388