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化学者のつぶやき

有機レドックスフロー電池 (ORFB)の新展開:オリゴマー活物質の利用

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2017年 Helms らはレドックスフロー電池でのクロスオーバー現象を防ぐために,オリゴマーを活物質に用いる手法を開発した.

“Macromolecular Design Strategies for Preventing Active-Material Crossover in Non-Aqueous All-Organic Redox-Flow Batteries” Doris, S. E.; Ward, A. L.; Baskin, A.; Frischmann, P. D.; Gavvalapalli, N.; Chénard, E.; Sevov, C. S.; Prendergast, D.; Moore, J. S.; Helms, B. A. Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 1595–1599. DOI: 10.1002/anie.201610582

課題設定

風力や太陽光などの自然エネルギーの有効利用を目的に大規模なエネルギーの貯蔵システムの開発が期待されている.レドックスフロー電池 (RFB) はスケールの設定が自由で長期利用に適した蓄電池で,この目的で実証実験もされている[1].様々な RFB に共通する課題として,正極 (負極) 活物質がセパレーターを透過して負極 (正極) へと入り込んでしまうクロスオーバー現象が存在する.最近になって,活物質として高分子を利用することによりクロスオーバー現象を抑制する報告がなされている[2].しかし高分子活物質はフロー装置内で目詰まりを起こす可能性や,粘性があり効率的なフローが行えないことが懸念されている.安価で粘性が低い活物質の利用と,安価なセパレーターの利用をいかに両立させるか,が課題であった.

アプローチ:活物質のオリゴマー化

Helms らはセパレーターに孔径が 1 nm 以下のマイクロ孔を持つ膜[3]を使うことで,3 量体程度の大きさの分子でもクロスオーバー現象を起こさずに活物質として使用できる可能性を示した.ethyl viologen 骨格が組み込まれた単量体 (monomer) とオリゴマー [二量体 (dimer),三量体 (trimer) ] を合成し,それぞれ –0.75 V の電位で可逆的に還元できることを確認している (0.1 M LiPF6 in acetontrile).また,monomerdimertrimer はそれぞれ 8.8,12.3,16.8 Å の大きさであることを計算で見積もっている.

結果

彼らはクロスオーバー現象の抑制効果を測るため,多量体活物質のセパレーターを透過する拡散係数 (Dsol) と,それらの溶媒中における拡散係数 (Deff) の比 (Dsol/Deff) を測定した.この値は溶媒内を拡散するよりもセパレーターを通過するのがどれほど遅いかを示す指標となる.孔径が 1 nm 以下の孔と架橋されて頑強な構造をもつ高分子膜(Cross-linked Polymers of Intrinsic Microporosity, Cross-linked PIM-1[3b]) を作製して活物質のDsol/Deff を測定によって求めると,monomer は14200であるのに対し, dimertrimer は定量限界以上 (297000, 85000) となり,オリゴマー活物質が非常に膜を透過しにくいことがわかった.なお孔径が 28 nm のメソ多孔質膜 (Celgard) を用いた場合は Dsol/Deff  はいずれも 30 程度であり,オリゴマーと Cross-linked PIM-1を組み合わせて用いることイオンの透過性をコントロールできることがわかった.彼らはさらにレドックス活性部位の異なる三量体活物質を二種類合成し,それぞれが可逆的に還元,酸化すること,Cross-linked PIM-1 膜に対する非透過性も高いことを示している.実際に電池としての性能を確かめるには至っていないが,様々な多量体活物質の合成が可能であり,今後発展が期待される.

著者情報

PI Dr. Brett A. Helms (Lawrence Berkeley National Laboratory)
2015-Present Co-Founder, Sepion Technologies
2012-Present Career Staff Scientist, Lawrence Berkeley National Lab.
2007-2012     Staff Scientist, Lawrence Berkeley National Lab
2006-2007     Postdoctoral Fellow with Prof. E.W. Meijer,Technische Universiteit, Eindhoven, The Netherlands
2000-2006     Ph.D. in Chemistry with Prof. Jean M. J. Fréchet, UC Berkeley
1996-2000     B.S. in Chemistry with Prof. Shenda M. Baker, Harvey Mudd College

以上 Helms Group HP より抜粋

参考文献

  1. (a) Noack, J.; Roznyatovskaya, N.; Herr, T.; Fischer, P. Angew. Chem. Int. Ed. 2015, 54, 9776. DOI: 10.1002/anie.201410823 (b) Dunn, B.; Kamath, H.; Tarascon, J.-M. Science 2011, 334, 928. DOI: 10.1126/science.1212741 (c) Arenas, L. F.; Ponce de León, C.; Walsh, F. C. J. Energy Storage 2017, 11, 119. DOI:10.1016/j.est.2017.02.007
  2. (a) Nagarjuna, G.; Hui, J.; Cheng, K. J.; Lichtenstein, T.; Shen, M.; Moore, J. S.; Rodríguez-López, J. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 16309-16316. DOI: 10.1021/ja508482e (b) Sukegawa, T.; Masuko, I, Oyaizu, K. Nishide, H. Macromolecules 2014, 47, 8611–8617. DOI: 10.1021/ma501632t (c) Janoschka, T.; Martin, N.; Martin, U.; Friebe, C.; Morgenstern, S.; Hiller, H.; Hanger, M. D.; Schubert, U. S. Nature 2015, 527, 78. DOI: 10.1038/nature15746 (d) Montoto, E. C.; Nagarjuna, G.; Hui, J.; Burgess, M.; Sekerak, N. M.; Hernàndez-Burgos, K.; Wei, T-S.; Kneer, M.; Grolman, J.; Cheng, K. J.; Lewis, J. A.; Moore, J. S.; Rodríguez-López, J. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 13230–13237. DOI: 10.1021/jacs.6b06365
  3. (a) McKeown, N. B. and coworkers, Chem. Commun. 2004, 230. DOI: 10.1039/b311764b (b) Doris, S. E.; Ward, A. L.; Frischmann, P. E.; Li, L.; Helms, B. A. J. Mater. Chem. A 20164, 16946–16952. DOI: 10.1039/c6ta06401a

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