[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

有機ルイス酸触媒で不斉向山–マイケル反応

[スポンサーリンク]

ブレンステッド酸とシリルケテンアセタールを組み合わせてルイス酸として機能させることで、α,β-不飽和エステルを求電子剤とした触媒的不斉向山–マイケル反応が達成された。

α,β-不飽和エステルを用いた不斉マイケル付加反応

エノラート等価体のα,β-不飽和カルボニル化合物へのマイケル付加反応(1,4付加反応)は広く利用されている炭素–炭素結合形成反応であり、近年は不斉触媒を用いた不斉マイケル付加反応の研究が盛んに行われている。

これまでα,β-不飽和カルボニル化合物を用いた触媒的不斉マイケル付加反応の開発がなされてきた。α,β-不飽和カルボニル化合物の中でもα,β-不飽和エステルは求電子性が低いため[1]、当該反応において挑戦的な基質とされてきた。

これまでにエノラートを求核剤とする不斉マイケル付加反応として、不斉相間移動触媒[2a]、不斉ブレンステッド塩基[2b]、そしてエナミン経由型の不斉有機触媒[2c]を用いる手法が報告されてきた(図1A)。

一方で、シリルエノールエーテルおよびシリルケテンアセタールを求核剤に用いる触媒的不斉向山–マイケル反応の報告はない。シリルエノールエーテルの求核性が低いため、如何にα,β-不飽和エステルの求電子性を活性化しつつ立体選択性を制御するかが重要となる。

オキサザボロリジン誘導体をルイス酸触媒に用いてα,β-不飽和エステルを活性化する不斉反応が知られるが、フルオロアルキルエステルなどの活性なエステルを用いる必要がある[3]。原子効率および工程数の観点からメチルエステルなどの一般的なアルキルエステルを直接活性化できる効率的な不斉触媒の開発が望まれる。

今回Listらは、独自に開発した強力なブレンステッド酸であるイミドジホスホリミダート(IDPi)とシリルケテンアセタール(SKA)から生成するシリリウムルイス酸を不斉触媒として、SKAとα,β-不飽和メチルエステルとの不斉向山–マイケル反応の開発に成功したので紹介する(図1B)。

図1. α,β-不飽和エステルへの不斉マイケル付加反応

 

論文著者の紹介

研究者:Benjamin List
1993 Diploma, Free University of Berlin
1997 Ph.D., University of FrankFurt (Prof. J. Mulzer)
1997-1998 Posdoc, Scripps Research Institute, USA (Prof. R. Lerner)
1999-2003 Assistant Professor (Tenure Track), Scripps Research Institute, USA
2003-2005 Group Leader at Max Planck Institute for Coal Research
2005- Director at Max Planck Institute for Coal Research

研究内容:有機触媒反応および不斉有機触媒の開発

論文の概要

本反応は触媒量のIDPi存在下、α,β-不飽和メチルエステルとSKAをシクロヘキサン溶媒中0 °Cで反応させることにより、高エナンチオ選択的にマイケル付加が進行する。非脱水溶媒を用いた場合や空気下であっても反応は円滑に進行する。α,β-不飽和メチルエステルとしては、様々な桂皮酸メチルエステル類や3-アルキルアクリル酸メチルが反応に適用可能である(図2A)。また、本反応はメチルエステルにのみ適用可能であり、その他のエステルを用いた際は収率およびエナンチオ選択性が著しく低下する。求核剤としては環状SKAや一置換SKAも用いることができる。

著者らは以下のような機構で反応が進行すると推定している(図2B)。始めにSKAがIDPiによりプロトン化され、シリル化エステルAを形成する。続いてケイ素移動によりキラルイオン対Bが生成することでα,β-不飽和エステルが活性化される。これが求核剤であるSKAと反応することでジシリル化中間体Cを与える。最後に再びケイ素移動によりDが得られる。Dの生成はNMR測定により支持されている。反応をメタノールで停止することによりDは目的の1,5-ジエステル化合物へと変換される。

以上、ブレンステッド酸IDPiとSKAを組み合わせたルイス酸を用いたエナンチオ選択的向山–マイケル反応が開発された。本反応が多様な化合物の不斉合成へと応用されていくことを期待したい。

図2. (A) 基質適用範囲 (B) 推定反応機構

参考文献

  1. Jangra, A.; Asahara, H.; Li, Z.; Zipse, C.; Ofial, A.; Mayr, H. J, Am. Chem. Soc. 2017, 139, 13318. DOI: 10.1021/jacs.7b05106
  2. (a)Corey, E. J.; Noe, M.; Xu, F. Tetrahedron Lett. 1998, 39, 5347. DOI: 1016/S0040-4039(98)01067-3 (b)Saito, S.; Tsubogo, T.; Kobayashi, S. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 5364. DOI: 10.1021/ja0709730 (c) Kang, J.; Carter, R. Org. Lett. 2012, 14, 3178. DOI: 10.1021/ol301272r
  3. Canales, E.; Corey, E. J. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 12686. DOI: 10.1021/ja0765262
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 1,3-ジエン類のcine置換型ヘテロアリールホウ素化反応
  2. 化学者のためのエレクトロニクス入門⑥ ~エレクトロニクス産業の今…
  3. 有機合成化学協会誌2020年8月号:E2212製法・ヘリセン・炭…
  4. 脱水素型クロスカップリング重合法の開発
  5. 生体組織を人工ラベル化する「AGOX Chemistry」
  6. 自宅で抽出実験も?自宅で使える理化学ガラス「リカシツ」
  7. 発想の逆転で糖鎖合成
  8. ちょっとキレイにサンプル撮影

注目情報

ピックアップ記事

  1. 高分子鎖デザインがもたらすポリマーサイエンスの再創造 進化する高分子材料 表面・界面制御アドバンスト コース
  2. 「弱い相互作用」でC–H結合活性化を加速
  3. ノーベル化学賞受賞者が講演 3月1日、徳島文理大学
  4. ルーブ・ゴールドバーグ反応 その2
  5. オキサリプラチン /oxaliplatin
  6. tert-ブトキシカルボニル保護基 Boc Protecting Group
  7. 高分子材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  8. 元素手帳 2018
  9. 振動結合:新しい化学結合
  10. ペルフルオロデカリン (perfluorodecalin)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年1月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー