関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。
今年で本記事紹介も3年目に突入しました。関東化学のホームページもリニューアルされたようなのでこの機会にご覧いただければと思います。
さて、新年1回のケミカルタイムズは「分析技術」に関する特集。分析技術の向上が最新科学研究を支えていることは自明です。本号ではHPLC分析に必須な逆相カラムの開発、水分測定カールフィッシャーの最新測定法について、そして、ICP-MSを使った僅少量サンプル測定についての記事があります。
また、今月号からトピックスとして特集とは異なる最新科学を紹介。カーボンナノチューブの化学修飾法についての記事が紹介されています。
記事はそれぞれのタイトルをクリックしていただければ全文無料で閲覧可能です。PDFファイル)。1冊すべてご覧になる場合はこちら。
究極のHPLC用C18カラムの開発を目指して
化学物質評価機構(CERI)のクロマト技術部技術課長である内田丈晴氏による記事。
反応の分析や化合物の純度測定など多方面で用いられる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)。化合物を分離する肝であるのは、搭載されているカラムであることはおわかりであるでしょう。もっとも用いられているのは、逆相系で用いられるODSカラム。オクタドデシル基がついたシリカゲルで、試料との疎水性相互作用により分離するものです。このぐらいはかなりの方が知っているとは思います。
ODSカラムはきれいにすべてオクタドデシル基で置換されているわけではなく、シラノール部分が残っています。その残存シラノールとの試料や金属不純物との二次的相互作用によって分離能が悪くなったりするらしいです。塩基性の化合物を用いた場合のテーリングなどもそれが原因です(耐アルカリ性が低い)。その残存シラノールを、効率よくエンドキャッピング(保護)してあげることによってそれをなくせば、上記の問題点がなくなります(下図)。
そのような処理を施した、L-column2 ODSはかなり分離能があがるらしいです。記事ではこのカラムの開発に加えて、メタルフリーカラム(ステンレス製のカラム管などを用いないことによって、それらとの相互作用を防ぐ)について、さらにはより化学耐久性(耐アルカリ性)をあげたL-colomun3 ODSの開発とその性能評価について述べています。ブラックボックス的にHPLC分析を行っていたひとが多いと思うので、ためになる記事です。
ちなみに関東化学からこれらのカラムは「L-columnシリーズ」として発売されている模様です。
現代ニーズに対応したカールフィッシャー水分測定法
代表的な水分測定法であるカールフィッシャー法。国産初のカールフィッシャー測定装置を開発した平沼産業の主任北中宏史らによる記事です。
ちなみにカールフィッシャー法は、1935年にドイツの化学者カールフィッシャーが発表したカールフィッシャー試薬(KF試薬)を用いた水分測定法(カールフィッシャーばっかり。。。)。
主にKF試薬はヨウ素・二酸化硫黄・塩基・アルコールを主成分として含んでおり、KF試薬中のヨウ素分子と水分子が当量で反応する化学反応を利用しています。
一般的なKF測定装置の概念図は以下の通り。容量滴定法(a)と電菱滴定法(b)があるそうです。
記事では一般的なKF試薬と2つの測定法の問題点を挙げ、それらを解決したカールフィッシャー試薬・測定装置を紹介しています。これもカラムと同様、とりあえず水分測定はカールフィッシャー!ぐらいしかしらなかったユーザーに大変オススメです。
最終的に関東化学の超脱水溶媒の残留水分測定にも使われてるんですね。KF試薬もいくつか発売されています。
トリプル四重極ICP-MSを用いた39K、40Caの0.1pptレベル分析における干渉除去機構の解析
分析機器大手アジレント・テクノロジーのICP-MS技術部シニアリーダーである山田憲幸氏らによる記事。
ICP-MS(Inductively-coupled plasma mass spectrometer)は、汎用の元素分析装置の中では、最も検出限界が低く、多元素同時分析ができる装置。
簡単にいえば、高感度でどのような元素が含まれているかわかる装置ですが、特にどこでで大活躍しているかといえば、半導体分野。
半導体製造プロセスによる金属汚染は半導体の性能に多大な悪影響を及ぼすからです。ICP-MSを用いてそのような不純物がないかチェックしなければなりません。
そのチェックも年々厳しくなっているようで、現在検出下限はsub pptレベル。つまり、超高感度なICP-MSが必要となるわけです。それにはいくつかの問題点を克服しなければなりません。
記事ではその課題と克服した機器による性能評価について述べています。
1つは従来のICP-MSがシングル四重極(1つの四重極MSフィルタをもつ。四重極は質量分離法の1つ)であったのに対して、トリプル四重極にしたこと(2012年に製品化)。ICP-QQQ(MS/MS)といい、図のように、シングル四重極MSではセル前段に四重極がないが、ICP-QQQ(MS/MS)では四重極がある。これによってイオンによるスペクトル干渉を除去できるということ。
詳細は記事にて、開発した機器に関しては、アジレントホームページを御覧いただきたい。
光るナノカーボン :化学修飾によるカーボンナノチューブの近赤外蛍光特性の制御
最後の記事は上記3つと異なる記事。東京学芸大学の前田優准教授による、カーボンナノチューブ修飾に関するものです。カーボンナノチューブの化学修飾の意義や、官能基化による近赤外蛍光特性について述べていますが、門外漢の研究者としては、どのように評価しているかが気になるところ。
記事では単層カーボンナノチューブ(SWNTs)の評価法について二段階の還元的アルキル化反応を例にして説明しています。t-BuLiでSWNTを求核的にアルキル化したのち、求電子剤としてハロゲン化アルキルをいれて二種類のアルキル基を導入しています。評価法は簡単にまとめると、
(a) 吸収スペクトル:特性吸収の減少→化学修飾によってπ電子系が減少した
(b) ラマン分光法: 高端数領域のD/G比の増大→化学修飾率が高い、
Dバンド(1300cm-1)付近にみられるsp2炭素格子の欠損 とGバンド(1590cm-1)sp2炭素格子の振動
(c) 低端数領域のラジアルブリージングモード(RBM)の観測→SWNTsの直径を推測
となります(一部省略、詳細は記事参照のこと)。あとは熱重量分析から付加基とSWNTsの重量比を推定することができるとのこと。うーん勉強になった。
というわけで、前回のケミカルタイムズ(特集「イオン液体」)に続いて、化学関係者にとっても読みやすい記事です。過去記事も含めましてぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
過去のケミカルタイムズ解説記事
- イオン液体(2017年 No.4)
- 電子デバイス製造技術(2017年 No.3)
- 食品衛生関係 ーChemical Times特集より (2017年 No.2)
- 免疫/アレルギー(2017年No.1)
- 標準物質(2016年No.4)
- 再生医療(2016年No.3)
- クロスカップリング反応 (2016年No.2)
- 薬物耐性菌を学ぶ (2016年No.1)
外部リンク
本記事は関東化学「Chemical Times」の記事を関東化学の許可を得て一部引用して作成しています。