細胞から細く長く伸びるワイヤー状の管。サイトネームやトンネルナノチューブと呼ばれるこの管は、離れた細胞に物資を輸送する連絡路であることが分かってきた。当初は存在自体が疑われたが、がん細胞や細菌もこれを利用して拡散している可能性が示されたことで、注目が集まっている。
タイトルおよび説明はシュプリンガー・ネイチャーの出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」12月号から(画像クレジット:KARINE GOUSSET/CHIARA ZURZOLO/PASTEUR INSTITUTE)。最新サイエンスを日本語で読める本雑誌から個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。
細胞をつなぐナノチューブ
12月号の特集記事より。本記事の登場人物のひとりは、ミシガン大学の発生生物学者である山下由紀子教授。ショウジョウバエで精子の供給を維持する仕組みをしらべていたときに発見した”ナノチューブ”から話は始まります。”ナノチューブ”といっても材料科学分野で活躍している「カーボンナノチューブ」ではありません。山下教授らの精巣細胞同士の正確なコミュニケーションを助けるナノチューブ(微小管依存性ナノチューブ)の発見は画期的なものでしたが、「生体内のナノチューブ」が市民権を得たのはごく最近であり、いまだに懐疑的な意見があります。本記事では現在注目が集まっている生体内のナノチューブ(パイプライン)研究のはじまりから最新の結果までを述べています。現在最も重要なのは、ナノチューブ過程の直接的な可視化法だそうで、化学とのコラボレーションで解決の糸口を見つけることができそうだと感じさせる記事でした。
TOOLBOX: 科学者のためのメッセージングアプリ活用法
人気のビジネス用メッセージングアプリ「Slack」は研究室でどのように活用できるだろう。
前回はトップで紹介しましたが、科学者に使えるソフトやアプリなどを紹介するこのコーナー、かなり好きです。今回も無料公開されているのでぜひ読んでみてください。さて今回は、タイトルにあるように、科学者に使えるメッセージングアプリ「Slack」の紹介。ほとんど名前をきいたことのあるひとはいないでしょう。私もその一人でした。このアプリは2013年8月に公開され、なんと先月17日に正式に日本語版の提供が始まったのですから、知らなくても仕方がない。
記事では、ブロード研究所の遺伝学者Daniel MacArthurが自身の研究室でいかにしてこのアプリを使っているか、詳細に紹介しています。
私も研究室内では皆が使いやすい、LINEを使って情報・研究アイデアの共有や連絡などをしていますが、どこにいったかわからなくなるし、専用のものがほしいと考えているところです。一方で、この業界は群雄割拠であるため、使い始めた、お気に入りのアプリが淘汰されるのではないかとなかなか始めることができません。記事をみてなかなか使えそうなのでちょっとこのアプリを試してみたいと思いました(すでに登録済み)。基本的な作業はすべて無料でできるので、みなさんも一度試してみてはいかがでしょうか。
ノーベル賞関連記事
本号では、今年のノーベル賞3賞(物理学賞・医学生理学賞・化学賞)を受賞した研究者と研究について紹介しています。
物理学賞は重力波検出(記事:ノーベル物理学賞は重力波を検出した3氏に)。重力波観測装置LIGOにより重力波の検出を成功させたレイナー・ワイス、バリー・バリッシュ、キップ・ソーンの3氏とその研究について述べています。
医学生理学賞は概日時計の機構解明(記事:概日時計の機構解明にノーベル医学・生理学賞 )。細胞の概日リズムを生み出す分子機構を解明したマイケル・ロスバッシュ、ジェフリー・ホール、マイケル・ヤングの3氏についてです。ケムステでも速報記事を掲載しました(記事;:【速報】2017年のノーベル生理学・医学賞は「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」に!)
最後は化学賞(記事:ノーベル化学賞は分子イメージングの先駆者に)。クライオEM法を開発したジャック・デュボシェ、ヨアヒム・フランク、リチャード・ヘンダーソン氏らの研究の概要について記載されています。もちろん化学賞はケムステでも速報として紹介させていただきました(記事:【速報】2017年ノーベル化学賞は「クライオ電子顕微鏡の開発」に!)。
いずれの記事も1ページ半から2ページの短いものですが、端的に科学者の業績と関連研究について述べられていて、今年のノーベル賞を理解するには十分な内容でした。
その他の記事
今月の無料公開記事は、上述した「TOOLBOX: 科学者のためのメッセージングアプリ活用法」を含めて3本。記事「ヒト胚を用いたゲノム編集研究の倫理性確保」では、CRISPR–Cas9法を用いたヒト生殖細胞系列のゲノム編集研究の進展により、ヒト胚の研究に対して緊急に必要とされるいくつかの倫理的配慮に関して述べています。ありえない速度で進展を続けているゲノム編集研究に対して早急な倫理のコンセンサスをとっていく必要があると思います。
もう1つは「FANTOM5データを誰でも活用できる形に」というタイトル。毎号の日本の科学者に焦点をあてた「Japanese Author」シリーズから、理化学研究所主宰の哺乳類ゲノムの国際研究コンソーシアム、FANTOMに関連する研究者4名にインタビューを行っています。3本とも無料ですのでぜひ読んでみてください。
1年を振り返って
あと今年も半月ほどとなりましたが、Natureダイジェストホームページでは、今年に発行された各号の中から特に印象深かった記事を「1年を振り返って」という形で紹介しています。記事を読むためには購読が必要ですが、今年の最新科学が端的にまとめられているのでご覧になってはいかがでしょうか。
過去記事はまとめを御覧ください
外部リンク
- Nature ダイジェスト | Nature Publishing Group
- Natureダイジェスト、編集部 (@NatureDigest) | Twitter