読者の方々の所属する研究室・会社では実験ノートはどのように保管、データ化されていますでしょうか?
- 電子ノート
- 紙ベースの実験ノート
に二分化されると思います。それぞれの利点・欠点について簡単にまとめてみます。
電子ノート
まず、電子ノートについてです。
最初に注意書きとなりますが、私自身は電子ノートを使用しているわけではありません。
そこで電子ノートの利点について実際に使ってらっしゃるスタッフの方にお聞きしましたところ様々教えて頂きましたので、転載させて頂きます(教えて頂きましたゼオライトさんありがとうござきました)。その他の欠点・課題に関しては、情報管理ジャーナルに「電子実験ノートを用いた知的財産保護の最前線」というタイトルで紹介されていましたので、そちらからご紹介させて頂きます。
利点
- 以前の実験の検索性が高い。自分の実験データを整理するときはもちろん、自分が加わる前の実験データまで見ることができるので、特定の反応条件の官能基許容性など、Scifinderなどで探しにくい情報が検索できる(こともある)。
- 以前の実験のコンディションをそのままコピーしてテンプレートとして使える。
- TLCは写真で取り込めるので、劣化がない。染色の色、UVなどでどのスポットを単離したかなど一目瞭然になる。
- 当量計算が不要。CAS No.と当量を入力したら必要量を自動で計算してくれる。
- 複雑な構造式でもChemDrawまたはネットに落ちているMol fileからコピーし貼り付けられため、楽。
- 試薬にsafety data sheetがタグ付けされるので、安全管理がしやすい。
- 電子ノートによっては、試薬の管理システムを兼ねているものもある。試薬のリアルタイム管理が可能となり、誰が試薬を最近使ったかが分かるので、試薬の純度が十分かどうかの確認できる。ラボの誰が最近その試薬を借りたかなどを明確にすることができ、試薬が無くて探し回ることが少なくなる。
- referenceをノートに貼り付けるのも容易。
欠点・課題
- サーバーがダウンした時に使えなくなる。(この点スタンダードな電子ノートより、パワポの方が使えるかと)
- 誰によって書かれた実験ノートであるかを将来にわたって確認するための作成者認証の担保がしづらい
(企業単位で認証システムを用いている場合は別ですが、認証システムを導入すると研究室単位ではその分使いづらさが伴う) - 紙ならではのぺらぺらめくってみる速い感覚が(まだ)ない?
- メモ書きなどをその場ですぐにすることができないため実験室と居室との距離がある場合に後でメモ書きを電子データにおこす必要がある。
- データ長期保存に対してどれほど対応できるかは導入された企業などのこれからの結果によってわかるため、確実性のある紙ベースとの比較は難しい
- (米国)特許制度の先発明主義から先願主義への変更に対する対応
電子ノートに関してのケムステの記事「電子実験ノートもクラウドの時代? Accelrys Notebook」もございますのでそちらもご覧ください。
またどの電子ノートシステムを用いるかによって以上の利点・欠点も変わりますし、コストもそれに伴い変わってくるかと思います。
紙ベース
次に紙ベースでの利点・欠点を書き記します。
利点
- 紙に書いた方が速い(異論もあるかもしれません)。
- メモ書きなども気軽にできる。ノート記述者の思考・考察メモが新たなテーマを呼ぶこともある。
- データ長期保存はノートをとっておきさえすれば劣化を除き基本的にずっと残る。
- 検索せずとも実験ノートのページがわかるものに関してはめくる方が速い。
- 作成者認証の担保が楽であるため、特許申請に際して利点となる場合もある(大学研究の場合ですので企業の方はわかりません)。
- 各実験プロシージャーのところに安全のための禁止事項や注意点、コツなどをメモしやすい。
欠点・課題
- 検索機能がついていない。
- 字が汚い場合読めない。
- TLCを手書き、もしくは貼っても劣化を伴う。
- 有機溶媒などによってデータの損失可能性がある。
- 場所をとるため置く場所に困る。
- 実験の写真などの紐付けがしにくい。
実験ノートに関しては書き方如何によって情報の伝わり方が変わってくると思います。(日記のようなことを書いている人もいたりして?笑)
書き方についての本は皆さんご存じで、かつケムステでも取り上げられました本がございます。
「誰も教えてくれなかった実験ノートの書き方(研究を成功させるための秘訣)」の記事をご参照ください。
以上、現時点で筆者が思いついたことをそれぞれ列挙致しました。まだまだたくさんあるかと思います。
AIなど電子化だけでなくネットワークやその他様々な発展に伴い電子ノートの欠点が減っているのは事実であります。
将来的には全て電子ノートに取って代わることもあるかもしれません。
筆者の所属する研究室では紙のノートを用いております。それは教授が以上に述べたことやそれ以外の利点・欠点を現時点において総合的に判断した結果だと思います。
紙ノートシステムそのものを変えることはできない、しかし紙ノートシステムの欠点をもっと減らせないかと考え考案した方法がありますが、そろそろ長くなりすぎたので導入経緯については次回にしたいと思います。