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化学者のつぶやき

アルデヒドのC-Hクロスカップリングによるケトン合成

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プリンストン大学・David W. C. MacMillanらは、可視光レドックス触媒、ニッケル触媒、水素原子移動(HAT)触媒の3つを組み合わせることで、アルデヒドと臭化物から直截的にケトンを合成する手法を開発した。

“Direct Aldehyde C-H Arylation and Alkylation via the Combination of Nickel, Hydrogen Atom Transfer, and Photoredox Catalysis”
Zhang, X.; MacMillan, D. W. C.* J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 11353–11356. DOI: 10.1021/jacs.7b07078

問題設定

ケトンは生物活性天然物や医薬品、有機機能性材料などに広く見られる重要な官能基である。ビルディングブロックとしても用いられ、その誘導体化法は多岐に渡るものが知られている。そのため、ケトンの合成法は古くから研究されてきた。

一般的なケトン合成法は、以下の4つである。

  1. 有機金属試薬のワインレブアミドへの求核付加
  2. フリーデル・クラフツ アシル化反応
  3. 酸塩化物とのクロスカップリング反応
  4. 2級アルコールの酸化

しかしながら、1・3では試薬の前調製が必要であり、2では基質の電子的性質に大きく依存するため、基質一般性が狭い。また、4では量論量以上の酸化剤を必要とする。

従来のケトン合成法とその問題点

このような背景の下、より直截的なケトン合成法の開発が行われてきた。なかでもアルデヒドから直截的にケトンを合成する方法は、ステップエコノミー・アトムエコノミーの観点から有用である。そのような方法論は、アミン―パラジウム協働系を用いるエナミン経由型Heck反応[1]、アリールメタル種に対するアルデヒドへの配位挿入を経る方法[2,3]、結合解離エネルギー(BDE)の小さいアルデヒドC-H結合を切断してホルミルラジカルを生じさせ、パラジウム触媒によってカップリングする方法[4]などが知られている。しかしながら、これらの方法にも基質制限や高い反応温度などに改善の余地が残されていた。

技術や手法の肝

筆者らは、アルデヒドからの新たなケトン合成法を確立すべく、可視光レドックス触媒・ニッケル触媒・HAT触媒の3つを組み合わせる戦略[5]でアプローチを試みた。
すなわち、下記触媒サイクルを想定し、アルデヒドC-H結合のBDEが比較的小さいこと(89 kcal/mol)に注目し、系中生成するHAT触媒活性種がアルデヒドC-H結合を切断してホルミルラジカルを生じさせ、ニッケル触媒共存下にハロゲン化物とのクロスカップリングを試みた。

冒頭論文より引用

 

主張の有効性検証

①反応条件の最適化

4-ホルミル-N-Boc-ピペリジンを原料に最適化を行っている。
成功のカギは、溶媒にdioxaneを用いた点にある。著者らはこれまでに同様の反応を、DMSOやMeCNなど高い誘電率を持つ溶媒中で行っていたが、本反応ではこれらを使うと窒素α位でのC-H変換が競合してしまう結果が得られた。また、HAT触媒種であるキヌクリジニウムラジカルの安定性に、溶媒の誘電率が関与していると考察している。
最終的に下記条件を最適条件としている。

②基質一般線の検証

臭化物側:臭化アリールは電子求引・供与どちらでも許容。オルト位置換も許容。ケトン合成で一般的に難しいとされる、ヘテロアリールケトン合成も可能。臭化アルケニル・臭化アルキルを用いても、中程度の収率ながらケトンが合成可能。
アルデヒド側:脂肪族アルデヒドを用いると、70%以上の収率で生成物を与える。α位が4置換のアルデヒドはNG。芳香族アルデヒドも用いることができるが、過剰量(10 eq)の基質が必要。

③ 反応機構に関する示唆

Ir(dFCF3ppy)2(dtbpy)PF6 の酸化還元電位(Ir(III)*/Ir(II) = + 1.21 V in MeCN vs SCE) とキヌクリジンの酸化還元電位(N+・/N = +1.1 V in MeCN vs SCE))を比較すると、励起Ir種がキヌクリジンを酸化し、HAT触媒活性種が生じていると考えるのが合理的。また、光触媒、HAT触媒、Ni触媒、塩基、光それぞれを欠くと反応は進行しない。

議論すべき点

  • アルデヒドとハロゲン化物からケトンを合成する反応形式において、現在最も基質制限が少ない条件である。
  • 課題としては、芳香族アルデヒドを用いると反応性が悪い点、かなりの希釈条件下で反応を行っているためラージスケールに向かない点、photoredox条件の必然として酸化・還元敏感な官能基が使えない点などであろうか。

参考文献

  1. Ruan, J.; Saidi, O.; Iggo, J. A.; Xiao, J. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130 10510. DOI: 10.1021/ja804351z
  2. Huang, Y.-C.; Majumdar, K. K.; Cheng, C.-H. J. Org. Chem. 2002, 67, 1682. DOI: 10.1021/jo010289i
  3. Pucheault, M.; Darses, S.; Genet, J.-P. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 15356. DOI: 10.1021/ja044749b
  4. Suchand, B.; Satyanarayana, G. J. Org. Chem. 2016, 81, 6409. DOI: 10.1021/acs.joc.6b01064
  5. Shaw, M. H.; Shurtleff, V. W.; Terrett, J. A.; Cuthbertson, J. D.; MacMillan, D. W. C. Science 2016, 352, 1304. DOI: 10.1126/science.aaf6635
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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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