芸術の秋、スポーツの秋、旅行の秋。みなさまはどのような秋をお過ごしでしょうか。
私はもっぱら食欲の秋です。でも読書の秋にしたいとも思っています。
有機化学合成協会が発行する有機合成化学協会誌の、今月10月号が本日10月7日にオンライン公開になりました。
10月号も有機合成化学に関連する、興味深い話題が紹介されています。今月号のキーワードは、
「不飽和脂肪酸代謝産物・フタロシアニン・トリアジン・アルカロイド・有機結晶」
です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。それではご覧ください!
抗炎症活性を有する不飽和脂肪酸代謝産物の合成
明治大学理工学部応用化学 小川熟人先生
東京工業大学生命理工学院 小林雄一先生:
ω-3脂肪酸に属する不飽和脂肪酸代謝物であるレゾルビン類は、強い炎症抑制作用を示すことが知られており、抗炎症剤開発のリード化合物としても注目されています。本総説では、最近世界の幾つかのグループにより行われた、レゾルビン類の立体選択的な全合成例が紹介されています。
フタロシアニンの構造変換に基づく新規機能性分子の創出
九州大学大学院工学研究院 清水宗治先生:
2016年有機合成化学協会奨励賞受賞論文です。筆者らが近年精力的に研究している、フタロシアニンやその類縁体およびaza-BODIPYの合成とその物性についてまとめた論文です。色素である表題分子の光学的特性を対称性の変化や置換基の導入によって巧みに設計し、その詳細をMCDなどの様々な分光法を用いて明らかにしています。フタロシアニンやポルフィリンなどの色素に詳しくない人にも興味深い内容になっていますので、ぜひご覧ください。
トリアジンの特性を活用した新規アルキル化剤
金沢大学医薬保健研究域薬学系 国嶋崇隆先生:
トリアジン類の高い電子不足特性を活用した、酸性条件でのアルキル化剤の開発に関する総合論文です。塩基性条件下で問題となる不斉中心のラセミ化が回避できるほか、系によっては弱酸でも反応が可能なため、従来の酸性条件でのアルキル化では達成できない変換が可能です。このような優れた特性を持つ次世代型反応剤の開発経緯、およびその応用例が詳細に記載されています。
リコポジウムアルカロイドの合成研究
名古屋大学大学院創薬科学研究科 横島 聡先生:
ヒカゲノカズラ植物には多くのアルカロイドが含まれています。その中で、リコポジウムアルカロイドに属する、構造の異なるhuperzine Q, lycoposerramine-S, lycopalhine Aについて、それぞれを全く異なる独自の方法論で全合成を行っています。
動的水素結合を活用した新しい電子機能性有機結晶の開発
分子性固体においてプロトンの位置は重要で、固体の誘電率などの物性支配の要因となります。本論文では、筆者らが最近開発したカテコール縮環型テトラチアフルバレン(H2Cat-TTF)分子を用いた、対アニオンを持たない純粋な有機結晶の作成とその機能開拓について述べられています。結晶中の小さな水素原子の「動き」が結晶性材料の電子物性(伝導性や磁性)の制御に関与することを示した画期的な内容です。
Rebut de Debut: パラジウムによるアミナールのC–N結合切断とアルケン類からの触媒的アミン合成の応用
今月号もオープンアクセスのRebut de Debutのコーナー。10月号の著者は、東京工業大学大学院理学院化学系 岩澤・鷹谷研究室の高橋講平助教です。
高橋助教は、東京大学野崎研究室で博士を取得後、岩澤・鷹谷研究室で博士研究員をされたのち、2016年4月より岩澤・鷹谷研究室で助教をされています。
本総説では、「パラジウムによるアミナールのC–N結合切断とアルケン類からの触媒的アミン合成の応用」について詳細に解説されています。アミノアルキルパラジウム種を鍵中間体とする反応について、近年の報告例がまとめられていますのでぜひご一読ください。
巻頭言:有機合成化学の芸術性
こちらも絶好調オープンアクセス。今月号は九州大学先導物質化学研究所の友岡克彦教授による巻頭言です。
友岡教授は、面不斉中員環分子やキラルケイ素をもつ分子の合成で大変著名な先生です。(ケムステの友岡教授紹介ページはこちら。)
今回の巻頭言では、「有機合成化学の芸術性」という壮大なタイトルで、「何をつくるか」「どうやってつくるか」といった有機合成化学における本質的疑問について深く語ってくださっています。
今月号も盛り盛りですね!ぜひ有機合成化学協会誌で読書の秋を!