Tshozoです。最近ちょっと面倒なことがあり、自分の頭ン中の整理も含めてごく基本的なことを書いてまいります。お付き合いください。
面倒ごと
プラスチック系のゴミを捨てようとした際の話の「これは燃やすゴミか? 再生プラスチックか?」 「不燃ゴミか? 埋めるのか?」 という疑問。要は「プラスチックゴミの分別がわからん」のです。どうせリサイクルしたところでマイクロプラスチックが山のように増えるため「全部、高性能な燃焼炉で完全に燃やして電気として取り出してしまえ」が実はマイクロプラスチックなども生みにくく埋め立ても発生しにくく一番環境負荷的にも熱力学愛好者的にも最適である、という筆者の感情を十分に認識頂いたうえで、たとえば下の4品の透明な品物。見て触れて、正しく分別できますか?
いずれも(実験室の)身の回りにあるものばかり
それぞれ 科学品商社大手 アズワン殿(×2)、TGK殿、三商殿HPから写真を引用
左から「ポリスチレン(PS)」、「ポリカーボネート(PC)」、「ポリプロピレン(PP)」、「テフロン(ポリテトラフルオロエチレン・PTFE)」でした。・・・PTFEくらいなら触れてわかるでしょうが、他のもんはにわかには判断しがたい。IRやNMRとかIPC、TGとかで構造や元素、融点を見ればいいと思うでしょうが、一般家庭にはそんなもんはありません。ということで残念ながら化学に疎い大多数の方々はどれがどんなプラスチックで出来てるのか、全くわかってません。その結果、家庭や化学に親しくない職場で起きてしまうことは(実例)、
●ポリエチレン →燃やすゴミへ投入 (△ 燃やせるがだいたい再生できる ただし架橋ポリエチは再生困難な場合多数)
●ポリスチレン →再生プラスチックへ投入 (△ 再生できないことはないがポリエチとは相溶性がイマイチ)
●ポリプロピレン →再生プラスチックへ投入 (△ 自治体によっては再生できず燃やすか埋立て行き)
●塩ビ →燃やすゴミへ投入 (△ 自治体によってはOKだが場合により埋立て行き)
●テフロン →再生プラスチックへ投入 (× 特定の業者でしか処理できない 燃やす温度によってはフッ素系有毒ガスが発生)
●ゴム →再生プラスチックへ投入 (× 基本的にプラと混ざらない 燃やした方がよいケース多数)
という事態が発生します。加えて玩具のような複合物だともっとわからんケース多数。というか最近の身近なものは複合物がほとんどでしょう。
非常に分かり辛い物品の例 こうした子供用の玩具とかはかなり難儀
これ一つとってもABS、ナイロン、塩化ビニル、ポリスチレン、ゴムなど色々
あと軸受部とかの金属も交じってる
一応米国SPI(The Society of Plastic Industries)が包装物に関して決めたマークがあるが、
国内で細かくまじめに分けてる自治体はあるのか・・・ 文献6から引用
(EPSはexpanded polystyrene:発泡スチロールのこと)
なお製品には上記のようにどの素材かを示したケースが多いですがよく読まないとわからんですし、PS(ポリスチレン)とPET(ポリエチレンテレフタレート)、PP(ポリプロピレン)とか一般の人には違いがわかんねぇです。あと致命的なのが、プラスチックはパッと見てもわからないし磁石とかでも分けられない。で、本日も大体の方は「プラスチックっぽいもの」を全部同じゴミ袋に放り込むことになる。で、その結果不燃ゴミになったプラはだいたいが破砕されて埋め立てられ環境負荷を増加させ、間違って焼却されると焼却炉を痛め、全く以て困った結果となるわけです。
なんでこんなことになってしまうのか。第一には色々材料が溢れすぎてるからなんでしょうけど、この「黒魔術」全盛の時代にプラを使うなと言っても現実問題として難しい話ですし、1種類のプラではどうしても出来ることに限界がある。ですので使うことを前提に考えると、
☆再生可能プラスチックは廉価なコストで使い回せるようにしたい
★再生不可能プラスチックは出来るだけ環境負荷を低く、かつ安く(燃やして/変換して)処理したい
というのが本来のリサイクルの姿であるはず。埋立は特に一番やっちゃいけない気がしておりまして、少しでもそうした負荷の削減の一助となるよう、ごく基本的な事項を書いていくようにしますのでどうかお付き合いください。
再生できるプラスチックと、再生できないプラスチック
ものすごく大雑把に分けますが、
☆熱で「溶かせる」プラスチック:再生できる(例外あり)・・・線状ポリマー
★熱で「溶けない」プラスチック:再生できない(例外あり)・・・架橋型ポリマー
です、基本的に。ムチャな処理を行えば★の方も部分的には再生できますが、そっちの方が環境負荷が高くなるのでアレです。
ということで再生可能な方から。
分子構造の違いイメージ・あくまでもイメージ
熱で溶けるか溶けないかがこの構造で決まる
この方面で産業系のプラスチックリサイクルに特化して活動している企業として注目を集めているのが滋賀県大津市を本拠地とする「パンテック」殿です(リンク)。同社の活躍は筆者がお付き合いする関係先でも話を聞いたことがあり、その企業活動に関心を寄せていました。特に同社のホームページは非常に見やすく、この再生可能プラスチックの分類についてとてもわかりやすく書かれています(再生できないプラスチックについても書かれている(リンク)(リンク))。そのデザインレイアウトを参考にさせていただき、分けてみることにします。写真類は全てフリー素材集(リンク)及びWikipedia(US, DE)からお借りしました。
▼▼▼以下、融点がだいたい100~250℃▼▼▼
いわゆる「汎用プラスチック」で、身のまわりにあるのは8割方がこの部類
・・・以上は家庭やDIY素材でよく使用される素材ですが、工業製品などになるとまたややこしい「エンジニアリングプラスチック」、つまり概して強度が強く、融点がさらに高い材料は下記のようになります。ただここらへんからは一般に各市町村などの自治体が回収できないものが増えてきます。
▼▼▼以下、融点がだいたい200~300℃▼▼▼
少し特殊な用途が増え、工業製品に見られるような部類
更にもっと、芳香族(ベンゼン環)が分子構造に含まれるようになるとこりゃ「スーパーエンジニアリングプラスチック」となり、もっと苛酷な環境、つまり自動車関係や高速機械等の特殊用途に用いられる部類です。ここらへんになるともう専門装置を持った業者各位の中でも限定されたところしか対応出来なくなります。
▼▼▼以下、融点がだいたい300℃以上▼▼▼
かなり特殊な用途が多い お値段も高く、使われている例は多岐にわたるが
上記と同じく一般にはあまり目にしない
で、溶かして再生できると言ってもその溶ける温度(融点)がある程度揃ってないとアカンのですがその理由は下記に。また再生できると記述していますがあくまで「技術的に出来ないことはない」という意味です(可塑剤や添加物によっても大きく温度が変わるので、一概に無理とも言えないケースもあります)。特に自治体によってはポリエチレンしか回収していないとかポリプロピレンは回収出来るがポリスチレンはダメ、など色々制限がかかっていますので必ず各自治体の分別ガイドを確認のうえ廃棄願います。
なお特記事項として塩ビに関しては焼却できる設備を持った処理場が以前よりだいぶ増えており(こちら)、ダイオキシンとかの問題は正しく運用されていさえすればほとんど問題にはならなくなっているもようですね。
再生できるプラスチックはどうやってリサイクルするのか
一般的に集められた再生可能プラスチック類は「まとめて」「分別して」「壊して」「分別して」「溶かして」「再ペレット化」するのが普通です(簡易フローは下図・一部繰り返しあり)。こうして再ペレット化されたものは、グレードごとに分けられますがだいたいがポリ袋や緩衝材などの再生用プラスチックの用途、つまりあんまり細かく品質が問われない用途に回されます(例外はあります)。
ここで問題は「溶かしてペレット化」のところです。プラスチックを溶かして再生ペレット化するとき、上図の一番下のような装置を使います。一般に「押出成型機」と言われ、スクリューで溶かした樹脂を混練しながら先端部から半連続に押し出し切断していくものです。
そこで融点が違ってて溶けなかったり、非常に粘度が高かったりするプラスチックが混じっていたらどうなるか。スクリューが欠けたり、モータが逝かれたり、最悪スクリューが折れたりしてしまいます。つまり溶けない/溶けにくいものが来たら機械へ過荷重がかかってしまうということ。柔らかいケーキの中に魚の骨が入っていたりしたら口の中を怪我するのと同じ理屈ですね。上記のうち、たとえばPEしか溶かせない設備にPAとかPEIが混入したらどうなるかは火を見るより明らかでしょう(注:密度がかなり違うので選別のときに大体はじけますが)。
加えてプラスチックの中にも色々混ぜ元をしているケースがあり(いわゆる「フィラー」と呼ばれる無機材で、耐衝撃性を高めたり強度を高めたりするのに用いる)、これが入っていると溶かしたときの流動性が変わったりしてしまって品質に影響する恐れが出てくるのでリサイクルもクソもなくなる場合があるのですぞ。石炭などを燃やすだけで手に入るケースもあることから非常にコストも安く、デカ物の樹脂品を製造するようなメーカでは実に重量で半分以上がフィラーというケースもあり、このため基本的にはこうした添加物類も考慮して分別せねばならなくなります。
代表的なフィラー外観(アルミナ粉末、ガラス粉末など)
上記のとおり組成次第でプラスチックの特性が大きく変わる
四国化成殿(こちら)などが有名
メカ分別のところで精度よく分別すりゃいいじゃないかとお考えの方、その通りで最新鋭のノルウェーマシーンや(TOMRA社)国内だとモリタ社(こちら)や安西製作所(こちら)などの装置では近赤外線(NIR)や色や形状で高速分別できるなど、昔より格段に選別効率は上がっていて実際に現場に投入されてるようなのですが混合物に対してはなんでもかんでも再生できるわけでもなく、混じると特性が変わったりして不良品になったりで結局活躍する場が限定され、入り口の人海選別は未だに省けないのが現状のもようです。
ただ自動車のバンパーのように材料と用途と回収ルートがはっきり決まっている場合ではマツダ社をはじめとして積極的な再生システムを作り上げています。コストを成立させつつ元通りの品質を実現させることはかなり難しいと推測されますが、使う量が極めて多いだけにこうした取り組みは是非とも現状のようなシステムにおいてメーカ主導で継続的かつ包括的に行って頂きたいところです。
再生できないプラスチックはどうなるのか
以上は「熱で溶ける」プラスチックのみに当てはまるお話。では溶けずに燃えにくい樹脂(フェノール硬化樹脂とか)はどうなるのか。
「溶けない」ブラスチックの分子構造代表例 あくまで一例
分子が架橋していてだいたい極めて硬く燃えにくい
(構造的にはゴムもこの「架橋している」部類に入る・ただし
ゴムは一応「燃やせる」ので今回は割愛)
こんなもんこのままじゃ再生できない。ぶっ壊そうと思っても現状の技術じゃ相当な労力をかけないと壊せないのは前回炭素繊維の話で少し書いた通りです。こんな分解も焼却もめんどくさいもんを出口技術も成立しないまま大量に作ってどうすんだ、世界中に埋め立てる気かっていう言葉がつい出てしまうくらい、環境負荷がデカいものだということはもうおおよそ気づかれてるかと思います。
で、これらの「熱硬化性樹脂」の大半は無理矢理燃やすか細かく壊して埋めることになります。ただ燃えにくいし壊しにくいし黒煙を発するケースもあるため、下記のように高温が出せる特殊炉へ燃料とともに放り込んで高温燃焼させ、出てきたガスはスクラバや活性炭でキャッチする、という一連の処理が必要になります。その際に出力が安定していれば電力も発生するので売電も可能というかなり優れた設備で燃焼させることもできますが、こうした設備にも結構お金がかかるのと処理量のキャパがあるので「採算上」処理できない大半のものは埋立て、という結末を迎えることに。しかしそうした網をすり抜けて国外とかに流れる廃棄物もあるわけで、その大半はこういう形で無関係な人たちのもとに戻ってくることになります↓。
http://gpn.greenpeace.de/wp-content/uploads/2017/07/GP0STQS0D-1200×800.jpg
グリーンピースのHPより引用(こちら)
こうして以前紹介したマイクロプラスチックなどが世界中にまけ出ていくことになる
ともかく、こうした塩ビすらも含めた「高強度」プラスチックは様々な機能性材料として非常に多岐にわたり活躍していて、実質的に使用量をゼロにするのはかなり困難。ということでますます埋立のために土地を潰していくわけで。こりゃ化学(科学)という黒魔術を人類全体で使ってる呪いみたいなもんじゃないかという気がしており、その呪いを解く研究にこそ注力しないとアカンと皆さん思ってるんでしょうけど全体としてアカン方に行くのはもうこりゃ人の世の常なのかもしれんとも思う複雑な気持ちで毎日開発に携わっている微妙な立場の筆者であります。鉄はその点非常にラクですね。火とコークスがあれば甦りますし、最悪錆びてなくなってくれるのですから。このトータルとしての「鉄の優秀性」というのはもう一度基本的なところを見直した方がいい気もしています。
おわりに:本トピックのきっかけ
日本になじみの深い芸術家・デザイナーであるヨーガン・レール氏の遺作とも言える作品群が現在金沢21世紀美術館で公開されていますが、その「文明の終わり」という展示を見に行ったのがきっかけです。見に行ったのが先月なのですけど、沖縄で創作活動をされていた同氏の非常に悲しそうな文章が印象に残りました。
見に行った当日撮ったポスターより 見切れてるのは写真の腕が悪いということ
全部、同氏が住んでいた石垣島に流れ着いたプラスチックで出来ている
詳しくは実際に見に行って頂きたいのですが、大量に海岸に流れ着くプラスチックやマイクロプラスチックの写真が多数動画で流れており、そうした様子を見ていると自らの薄汚いところを見ているようで不快な何とも言えん気分になるのは私だけではない気がします。
こうしたプラスチック類が出来るだけリサイクル又は完全燃焼(ガス化含む)を通した、環境に暴露しないクローズドサイクルで回すことが出来る方向に産業側もユーザ側も進化していかんのは間違いないでしょう、今までのようなポーズに留まることなく。何より、これらの樹脂を一番最初に発明した研究者の方々の墓を叩いて「こんなに世界中に広めたかったのか」と尋ねたら、きっと墓の中で首を横に振ることでしょうし。
なおユーザ側にプラスチックの分別・回収を完璧にしてもらおうったっムリな話です。一応ご家庭に置けるかもしれない「簡便プラスチック判別機」ってのは存在して(例:こちらやこちらなど)います。しかしさすがにまだ大きすぎて高すぎる気がしますから、同じ機能をi-phoneなどの携帯機能に織り込めたらそれこそ分別効率も上がるんでしょうけどねぇ。誰か開発しませんかねぇry
それでは今回はこんなところで。
【参考文献】
1. アズワン株式会社 リンク
2. 東京硝子器械 リンク
3. 株式会社三商 リンク
4. フロン工業株式会社 リンク
6. ”THE NEW PLASTICS ECONOMY RETHINKING THE FUTURE OF PLASTICS” こちら
長距離航海士であったエレン・マッカーサーにより設立された極めて重要な報告書
メッセージ・デザイン・コンテンツ共に全て素晴らしい中身で、死ぬまでにこういうレベルのレポートを作ってみたいと思わせるレベル
7. 塩ビ工業・環境協会 ”リサイクルビジョン” こちら
これも取組みがわかりやすく非常に素晴らしい資料
8. 金沢21世紀美術館 こちら
色々話題を呼んでいる美術館 1人でも楽しいのでお勧め
9. パンテック株式会社 こちら