この連載は、米国の大学院で Ph.D. を取得することを目指す学生が日記感覚で近況を記録するためのものです。9月の中旬ごろに、希望研究室の教授と面談するために、ラボ訪問に行ってきましたので報告します。(前回記事で、「奨学金申請について書く」と宣言しましたが、書類審査の結果が出てからの方が良いと思い直して予定変更しました。)
ラボ見学は行くべき?
ある噂によると、一部の大学院では、留学生の受け入れに関しては、希望研究室の教授に気に入ってもらえれば、大学院への合格の口約束が交わされることがあるらしいです。実際に、そのようなラボでポスドクをされていた方からいただいた情報です。というわけで、「ラボ訪問で自分をアピールして、この裏口入学を利用してやるぞ!! 」という意気込みを持って、ラボ訪問に行ってきました。今回はその際に実践したノウハウを混じえながら、その様子を報告します。
先にネタばらしすると、好感触ではあったものの、合格を約束するような言葉をもらうことはできませんでした。ラボ見学に行こうかなと考えている人は、「ふーん」と思いながら気軽に読んでいただきたいです。(基本的には私個人の経験に基づくものなので、鵜呑みにするのは厳禁です。)
計画を立てる
まずは、訪問したい研究室の先生とアポイントメントをとって、計画を立てます。私が研究室訪問したのは 9月中旬ごろです。折角、高い交通費と貴重な研究時間を削って海を越えるわけですから、1つの大学だけでなく、思い切って数都市を周遊しながら複数の大学を回りました。となると、1週間から2週間程度、日本を離れることになるので、研究室訪問を行いたい場合は、前もって現在の研究室の指導教官に相談しておくことが必要です。
渡米するおおよその時期を決めれば、実際にアポイントメントを取って行きました。飛び入り訪問はせずに、メールでコンタクトが取れている研究室のみアポ取りを試みました。「あなたと直接お話しし、研究室の様子を見学したいのですが、よろしいですか。もしよろしければ、いついつの時期で、都合の良い日程を教えていただけませんか」と言った内容のメールを送りました。忙しい教授であれば、本当に候補日が少ない場合もあります。なので第一希望の研究室を優先しつつ、地理的にどのような順番でその他の大学を訪れるべきかを考慮して、日程を組みました (当たり前ですが、東から西へ西へ行くか、西から東へ東へ行くようなイメージです)。
候補日を教えていただければ、午前か午後という大まかな時間指定でなく、「何時に行きます」と時間もきっちり伝えた方が良いでしょう。私は、絶対に会いに行きたい研究室3つほどの日程が決まれば、その時点でさっさと飛行機のチケットを取りました。そして希望度の低い研究室は、先生と話ができなくてもいいや、と割り切って航空券を取った後に、ぼちぼちとアポをとりました。どうしても先生に会えなかった場合は、学生にラボ案内を頼みました。
ラボの様子を見るだけでも無駄足ではないと思っていましたが、この作戦は個人的には失敗したと思っています。結局、後からアポを取ろうとしたほとんどの教授とはスケジュールが合いませんでした。できるだけ多くの教授と直接会えるようにスケジュールを組めばよかったと後悔しています。
準備しておくこと
教授とアポイントメントを取れた場合には、1対1の面談をさせてもらえます。威勢良く面談のアポを取ったものの、直前になってから、「あれ、研究室訪問って何するんだ?」と気づいた私は、急に現れた不安な気持ちをかき消すために、飛行機の移動中や空港での待ち時間を利用して、思いつく限りの対策をとりました。具体的には、次のことを準備しておきました。特に重要だと思ったものから順に並べています。
- 研究室のなかで、どのプロジェクトに、なぜ興味があるのか
- 現在の研究テーマのプレゼン (10分程度)
- なぜその研究室に入りたいのか
- 論文を調査して質問考える
- 研究に対するアイデア (思いつけば)
- 研究テーマ以外についての質問
いざ、渡米!
さて、上述の準備は役に立ったのでしょうか?はい、役立ちました。しかし、硬く考え過ぎた感じはありました。つまり、面談と言っても、面接ではないので、雰囲気はゆるかったです。私は3人と先生とお話しすることができたので、その様子をお伝えします (本当は5人の先生とアポを取れていたのですが、不運にもハリケーンに遭遇してしまって、ある大学の2人の先生とは会えませんでした)。
ご挨拶
会って最初は、「日本からわざわざ来てくれてありがとう。旅は楽しんでる?他の研究室や大学にも行くの?」といった一般的なお話をしました。素直に見学予定の大学と見学済みの大学を答えました。
研究経験について
ほどほどに挨拶を済ませると、「今はどんな研究をやってるの?」と聞かれました。なので、「〇〇化学系です。そのなかでも、特に〇〇を扱っています。」といった感じで手短に紹介した後で、「10分程度のプレゼンを用意したのですが、詳しく説明しましょうか」と切り出しました。断られることはなかったので、スライドショーを開いた状態でスリープにしておいた PC をリュックから取り出して発表しました。お忙しいなか時間を割いて頂いているので、できるだけ面談がスムーズに運ぶように工夫しました。発表している最中には質問が飛んできたので、頑張って受け答えしました。
ちなみにですが、3 回の面談のうち 1 回は、現在の研究について触れることなく、「興味のある研究」の話になりました。話を止めてでも、現在の研究内容をぶち込めばよかった、と今になって少し後悔しています。アメリカでは学部生から研究を真剣にやっている場合は少ないそうなので、学部生にはプレゼンすることを期待されていなかったのかもしれません。逆に言えば、上手に発表できると、強いアピールになると思います。
興味のある研究について
自分の研究を一通りお話しすると、「じゃあこの研究室では、どのプロジェクトに興味があるの」と聞かれました。「しめしめ、予想通り」と思いながら、あらかじめ考えておいたことを話しました。その際に、なぜその分野に興味があるか、そして他にも同じ分野の研究を行っている研究室があるなかで、なぜその研究室なのかについても、一言添えるようにしました。その一言は重要だったようで、「確かに君の興味はうちとマッチしてるね」と納得して、研究プロジェクトについて丁寧に説明してくださいました。
研究プロジェクトについて説明を受けると、質問はある?と聞かれたので、素直に質問したり、こういうアイデアは可能ですか、とぶつけました。あらかじめノートやケムドローに図を作っておいたので、スムーズにディスカッションが進みました。英語がやや不安であれば、ケムドロー作戦はなおさらお勧めします。構造式があれば、英語が完璧でなくとも伝わります。むしろ英語が完璧でも、構造式なしには伝わらないこともあるでしょう。
こんなしょうもないアイデアで大丈夫だろうか、と恥ずかしがって出し惜しみをするのは勿体無いと思います。話だけ聞きにきた優等生風な学生よりも、未熟だが自主的に考えている学生の方が印象はよいと思い、積極的に何か話しかけて、質問しました。メールでは伝えきれないような、研究への姿勢を存分にアピールしたつもりです。
その他の質問
最後に、研究以外でも聞きたいことがあればどうぞ、と聞かれたので、思いつく限り聞きました。例えば卒業生はどういった進路を取る場合が多いか、卒業までに平均的に何年くらいかかるか、などなど。そんなこんなで1時間から1時間30分ほどお話しすることができました。予想では30分くらいしか時間をもらえないと思っていましたが、想像以上にたくさんのお話を聞くことができました。
学生との交流
面談の後は、学生さんにラボを案内してもらい、その学生が実際に担当している研究についてお話を聞いたり、学生生活についての質問をしました。学生の性格によって対応は様々でした。特殊な例ではラボ見学の後にカフェに繰り出してリラックスした雰囲気で話をしてくれたケースもありました。学生さんも忙しくて、慌しく研究設備を見て回ることもありましたが、日本人留学生が来ることは珍しく、歓迎ムードだったので、緊張する必要はありませんでした。
グループミーティングにお邪魔する
アポイントメントを取る際に、「何曜日であればグループミーティングがあるから、様子を見たかったら来てもいいよ」と提案していただける場合もありました。グループミーティングでは研究室の色がよく見えたので、提案をいただければできるだけお邪魔させてもらうと良いと思います (ある場合は、おこがましく、いつグループミーティングが開催されるかを聞き出しました)。ボスが夜型だというんで夜の8時からミーティングが始まったり、ミーティング中にスナック菓子を食べていたり、先生が学生を質問攻めにしたり、逆に学生が質問に積極的だったり、研究とはぜーんぜん関係のない話 (トライアスロンに参加した話) を自慢げに発表する時間があったり…。
ちなみに私は、質問できれば質問するぞ、と意気込んでいましたが、結局議論に参加することはなく、ただ話を聞いていただけでした。来年になったらこの人たちと対等な立場で議論できるのだろうかと不安になりつつ、世界的にトップを走る研究室のグループミーティングに参加できることなんて普通はありえない経験なので、興奮しながら時間を過ごしていました。
まとめ
ラボ訪問と教授との面談は、想像していたよりも和やかな雰囲気でした。アドミッションの合否に有利に働くかはさておき、こんな風に色々な研究室にズカズカとお邪魔できるできるのは、学生の特権だと思います。もし時間とお金が許すなら、ラボ訪問は行くべきだと感じました。日本からわざわざ来る人は少ないようですし、行くだけで熱意をアピールできます。自分の研究発表や留学の後の研究アイデアを持ち込めるなら、効果は抜群だと思います。
さて、気になるのは、このラボ訪問で合格を約束してもらえたのか、ということですが…。
「君のアプリケーションを見るのを楽しみにしている」や、「君のアプリケーションは、アドミッションコミッティーに頼んで見せてもらうから 。」と2人の先生から言っていただきました。また、「〇〇大学に合格できれば、ぜひ一緒に研究しましょう」というパターンもありました。否定的ではないものの、なんだか濁されている感じです。メールでコンタクトを取っていたときにいただいた、「出願することをお勧めする」という言葉よりは、一歩前進してる? うーん、合格確実とは言い難いです。とりあえず、名前を覚えてもらえることができたと言う意味では、他の志願者よりリードしているはずです。アメリカの大学院受験では、何百の出願者が出願してくるため、それらの出願書類を全て丁寧に読んでもらえるとは限らないからです。
というわけで、今回のラボ訪問をポジティブに捉えて、これからできる限りの準備をしようと思います。次回は奨学金申請についてお話しします。書類審査で全滅していれば、あまり有益な記事にはなりませんが、そのときは反面教師な記録を残しておきます。
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