塩基配列解読技術の進歩により、個々の細胞の性質を詳細に描き出せるようになった。単一細胞(シングルセル)解析の手法を次々と開発し、同一と思われていた細胞種に「個性」を見いだしたAviv Regev は、人体の全細胞のマッピングという壮大な計画を立ち上げた。
タイトルおよび説明はシュプリンガー・ネイチャーの出版している日本語の科学まとめ雑誌である「Natureダイジェスト」11月号から(画像クレジット:JASIEK KRZYSZTOFIAK/NATURE)。最新サイエンスを日本語で読める本雑誌から個人的に興味を持った記事をピックアップして紹介しています。過去の記事は「Nature ダイジェストまとめ」を御覧ください。
細胞に魅せられた科学者
インタビュー記事以外で科学者個人をここまでフォーカスして紹介している記事は珍しいです。今回紹介されているのはイスラエル出身の計算生物学者Aviv Regev教授(MITブロード研究所)。Regev教授らが立ち上げた「人類細胞マッピング」という壮大な計画についても取り上げています。
Regev教授らは2016年国際的な共同研究企画「ヒト細胞アトラス」の立ち上げに参加しました。
人体の推定37兆個の細胞全てのマッピングを目指すという、ヒトゲノムプロジェクトと同等以上に壮大な範囲のプロジェクトだといいます。この運営に携わりながら、最近では、自身で開発した単細胞RNA塩基配列解読法「Perturb-seq」を用いて、多数の細胞転写因子や他の調節遺伝子をオフ状態にし、遺伝子オフの影響を観察する[1]という独自なハイレベルな研究を続けています。
記事では、Regev教授の経歴を紹介しながら、このヒト細胞アトラスの現状と問題点などについて述べています。実は今回記事を読んでこの研究者をはじめて知ったのですが、かなりスマートでありながらハードワーカーであることが記事から読み取れます。
- Dixit, A. et al. Cell 167, 1853–1866.e17 (2016).
カタールの経済封鎖でヘリウム供給に暗雲
中東諸国による経済封鎖が続くカタールでヘリウム製造プラントが操業停止に追い込まれ、ヘリウムの供給不足が懸念されている。
研究者がとっても気になるであろうニュース。ケムステでもこの原文を読んだスタッフが過去にケムステニュースで報告しています(記事:ヘリウム不足再び?)。記事によると、研究室が使うヘリウムの量はヘリウム市場全体のわずか6%に過ぎず、ほとんどのヘリウムはエレクトロ産業、病院のMRI装置、飛行船、風船に使われていということ。よく考えてみれば、至極真当な量ですが、もうちょっと使ってると思ってました。
というわけで、科学者は大口の顧客ではないので、ヘリウム不足の際は後回しにされがち。安定供給と価格高騰を防ぐために、2016年に米国物理学会と米国化学会が「液体ヘリウム購入プログラム(LHeP2)」を立ち上げたそうです。参加研究所や大学は以下の通り。うまく働いているようなので日本でもこういうネットワークがあるといいですね。
その他の記事
日本人著者によるインタビューは、大阪大学免疫学フロンティア研究センター(iFReC)特任教授である、坂口志文先生。今年のノーベル生理学・医学賞は「概日リズムを制御する分子メカニズムの解明」に与えられましたが、今年の同賞の有力候補者としても挙げられていた研究者です。
専門は、実験免疫学で、抑制する働きの1つを担う制御性T 細胞の存在を提唱し、それを証明することに成功しています。研究に進まれたきっかけから、制御性T細胞の発見とその歴史、研究内容と、具体的な応用事例まで詳しくインタビュー形式で述べています。
また、今月号の無料公開記事は1つ。「真の青色」のキクが誕生!というタイトルで、最近ようやく実現した「青色のキク」の開発について述べています。青色のバラはすでに市販されていますが、キクは今回がはじめて、さらに他の花にも応用できるような技術であるということです。
紹介して2年になります
はじめてこのNatureダイジェストを紹介したのが、2015年10月号(臓器を体外で作る:2015年10月号)でしたので、紹介記事を書き始めて丸2年が経過したこととなります。2年購読してみて改めてですが、他分野の知識の補充にかなり役に立っています。私の場合は、特に記事を書くために結構真剣に読んでいることが功を奏しているのかもしれません。
最近、読者の声として、Natureダイジェストウェブに寄稿させていただいたので、お読みいただければと思います(読者の声|Nature Research)。ぜひ、ケムステで紹介した過去の記事も併せて御覧頂いて、購読を検討されてはいかがでしょうか。
過去記事はまとめを御覧ください
外部リンク
- Nature ダイジェスト | Nature Publishing Group
- Natureダイジェスト、編集部 (@NatureDigest) | Twitter