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イオン液体ーChemical Times特集より

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関東化学が発行する化学情報誌「ケミカルタイムズ」。年4回発行のこの無料雑誌の紹介をしています。

しばらく化学から離れた話題が多かったのですが、今回は化学の記事ですね。特集として「イオン液体」にスポットをあてています。イオン液体は、一時期単純な有機合成の溶媒の代替としてビッグブームがありましたが、多数の検討がなされた後、最近ではあまりみられなくなりました。しかし、多様な分野に広がり現在でも大活躍している化合物です。その物性や活躍の場を概説した4つの記事について紹介したいと思います(記事はそれぞれのタイトルをクリックしていただければ全文無料で閲覧可能です。PDFファイル)。

外部刺激に応じて相溶/相分離挙動を示すイオン液体/水混合系

著者は東京農工大学の大野弘幸学長。イオン液体の合成や物性の解析、応用研究として著名な研究者です。

イオン性液体に積極的に水を入れたらどうなるか?過去には安定した物性が測りづらくなると嫌煙されていた、「イオン液体+水」ですが、著者らが開発したアミノ酸イオン液体に水を加えると、非常に狭い温度差で相溶/相分離することがわかりました。

着色したイオン液体を水と25℃で混合すると相分離するが、22℃まで冷却すると完全に相溶する。これは温度に依存し可逆反応である(出典:ケミカルタイムズ)

 

本記事ではそれをきっかけに様々なイオン液体の相転移の制御、親疎水性評価を行った結果を述べています。また、水溶性タンパク質の分離や、ケミカルポンプ(水を吸い上げ地上で暖められると水を放出するようなポンプ)への応用研究についても解説しています。

バイオプロセスにおけるイオン液体

鳥取大学の伊藤敏幸教授による寄稿。記事によると、イオン液体が化学の表舞台に現れたのは1999年。そして現在までに約79000報の報告があるそうです。そのなかで、本記事の主題となるバイオプロセスにイオン液体を用いているものも多く報告があります。たとえば、enzymeをキーワードにすると約2000報、celluloseをキーワードにすると3500報あるらしいです。

本稿では、バイオプロセス(酵素反応・バイオマス変換)で利用されるイオン液体についてを解説し、今後の展開についても述べています。

ここで、酵素反応のイオン液体の利用例について少し述べると、酵素反応と言えば、リパーゼによる不斉アシル化反応が代表的な反応ですが、2001年にその酵素反応に利用したのが先駆的な例。反応後有機溶媒で洗うだけで、生成物が得られ、リパーゼはイオン液体層に残るため、実質的に酵素を「固定化」させることができます。

イオン液体による不斉アシル化(出典:ケミカルタイムズ)

その後のイオン液体の利用例も詳細に述べているので、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

イオン液体を用いた真空材料プロセス

イオン性液体、化学的・熱的に安定で、室温において蒸気圧が大変低いといった利点があります。その特徴を活かし、真空材料プロセスにイオン液体を利用した研究が知られています。

はじめに利用されたのは2006年。イオン液体に直接金をスパッタすることで、高分散した金ナノ粒子がイオン液体中に生成しました。

その後もイオン液体を用いた様々な真空材料プロセスが報告されました。そのひとつとして、イオン液体を介した赤外レーザー蒸着手法があります。本法は、真空蒸着、あるいは大気中で滴下することによりイオン液体を基盤上に準備させたのち、原料をイオン性液体状に赤外レーザーを用いた蒸着により気相供給させます。気相から原子・分子状態でイオン液体に到達した原料は、イオン液体表面もしくはイオン液体中で、凝集・結晶化・化学反応を起こします。

イオン液体を介した真空蒸着法(出典:ケミカルタイムズ)

本稿の著者らは、東北大学の松本祐司教授ら。上述した蒸着法以外にも彼らが開発してきた、イオン液体を用いた真空材料プロセスについて、イオン液体そのものの蒸着から無機/有機結晶作成、ポリマー合成までいくつかの例をあげて概説しています。

イオン液体の凝縮性ガス吸収特性とその応用

産総研の金久保光央研究グループ長(化学プロセス研究部門)らによる寄稿論文。同部門では、イオン性液体をもちいたガス吸収分離および関連技術の開発に取り組んでいます。イオン液体の分子構造を最適化することで、特定のガスに対する吸収性能を向上できるため、幅広いガスを対象としてその吸収特性を調査しています。

本稿では、イオン液体の蒸気吸収特性を分子構造と関連付けて説明しています。

さらに水蒸気を可逆的に吸放出する材料は、ヒートポンプや除湿・脱水技術などで利用可能です。従来の吸収式ヒートポンプではLiBr水溶液が主に用いられており、一般に再生器でにおける吸収液の濃縮に100℃の高奥羽が必要となります。一方で、イオン液体を吸収液とすると、温和な条件で水蒸気を放出可能であり、他にもいくつかの利点があるそうです。

吸収式ヒートポンプシステム(出典:ケミカルタイムズ)

 

過去のケミカルタイムズ解説記事

外部リンク

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本記事は関東化学「Chemical Times」の記事を関東化学の許可を得て一部引用して作成しています。

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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