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化学者のつぶやき

超原子結晶!TCNE!インターカレーション!!!

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真面目に研究されている方々には大変失礼ながら、タイトルからはなんだか中二感満載のワードです。かくいう私も万年中二病を患っており、超〇〇!とか〇〇ーション!といった必殺技的響き、大好きです。耳慣れない方もいらっしゃるかと思いますが、超原子インターカレーション、実はとっても歴史の長い化学分野なのです。

図1. 塩素イオンとAl13の軌道配置図。共に最外殻軌道が3つあり、閉殻構造になっている。(図は論文[3]より引用)

超原子とは数個の原子が集合したクラスターのことを指します。その結果、数個の原子の集合(クラスター)が、まるで一つの原子のように振る舞うことが知られているのです。例えばアルミニウムが13コ集積したクラスターは、塩素原子と類似した性質を示します。(図1)

図2. インターカレーションの例: グラファイトにアルカリ金属であるカリウムがインターカレーションした図 (カリウムグラファイト(KC8))(左); DNAにエチジウムがインターカレーションした図(右)。(画像はwikipediaから引用)

インターカレーションとは、分子と分子(または原子と原子)の隙間に、別の分子(または原子)が挿入する可逆反応のこと。例としては、DNA塩基のスタッキング構造に芳香族(例えばエチジウムブロミド)が挿入する現象(これを特にDNAインターカレーションと呼称する)、グラフェンシート間にリチウムイオンが挿入する現象、なんかが有名です。(図2)  後者は、リチウムイオン電池の電極にも応用されている現象ですね。ただし、このような層状構造に入り込むこと以外に、結晶格子の隙間に入り込む現象などもインターカレーションと呼称します。

前置きが長くなりましたが、今回は超原子の結晶とインターカレーションに関連した論文のお話。以下、文献情報です。

Single-crystal-to-single-crystal intercalation of a low-bandgap superatomic crystal

O’Brien, E. S.; Trinh, M. T.; Kann, R. L.; Chen, J.; Elbaz, G. A.; Masurkar, A.; Atallah, T. L.; Paley, M. V.; Patel, N.; Paley, D. W.; Kymissis, I.; Crowther, A. C.; Millis, A. J.; Reichman, D. R.; Zhu, X.-Y.; Roy, X.*, Nature Chem. 2017, DOI:10.1038/nchem.2844

最近、コロンビア大学Roy教授らはCo6Te8(PnPr3)6(コバルト-テルルクラスター)とフラーレン(C60, カーボンクラスターともみなせる)の超原子結晶を盛んに研究しており、この結晶が層状構造をつくることを見出しました。[1] この超原子結晶は、熱伝導性が低く、電気伝導性が高いという熱電変換材料に適した性質をもつとのことです。[2]

本論文は、その超原子結晶の固体物性をインターカレーションによって制御する方法を見出したという論文になります。(アイキャッチの結晶画像はRoy研究室HPから引用)

何を報告した論文か。

図1. 超原子結晶[Co6Te8(PnPr3)6][C60]3とTCNEのインターカレーション(図は文献より引用)

  • Co6Te8(PnPr3)6とC60の共結晶[Co6Te8(PnPr3)6][C60]3が、互い違いに層状構造をつくることを見出した。(図1)  [1]
  • その結晶をテトラシアノエチレン(TCNE)溶液に浸漬させると、層状構造の隙間にTCNEが入り込む(インターカレーションを起こす)ことを見出した(図1, 2)。その結果、[Co6Te8(PnPr3)6][C60]3[TCNE]2が生成した。この現象は、超原子構造を損なわず、かつ層状構造も損なわない。
  • 浸漬させる前後では、結晶形が異なり、その変化は肉眼でも観察できる。また、TCNEがインターカレーションを起こす度合いによって、結晶の導電性を制御できることを見出した。
  • 本研究の成果によって、超原子結晶の物性(例えば導電性、磁性、光学物性など)はインターカレーション現象によって容易に制御できる可能性を示した。

図2. 超原子結晶[Co6Te8(PnPr3)6][C60]3の結晶構造(A, B)と[Co6Te8(PnPr3)6][C60]3[TCNE]2 の結晶構造(C, D) (図は文献より引用)

問題設定と解決した点

単純な原子結晶と異なり、超原子の結晶は原子配列が高度にプログラミングされたものとなりえる。[3], [4] その結果、電気伝導性の向上、磁気配向性の向上、コヒーレント熱伝導性の発現などが期待できる。一方で、その物性をチューニングする方法として、インターカレーションを利用することが提唱されているが、以下の点が問題となる。すなわち、挿入する原子または分子によって超原子結晶の配列が崩壊すること、それに伴って超原子結晶としての固体物性が著しく損なわれることである。

著者らは、超原子の層状構造をつくることで、層状構造が崩壊しないインターカレーションを見出した。その結果、超原子結晶の配列が損なわれること無く、超原子結晶の固体物性のチューニングが可能になった。

本論文の肝となる技術的要素は何か

  • 超原子を層状構造に集積させたこと
  • 層状構造の隙間に対してインターカレーションを起こしたこと(図2)

TCNEのインターカレーションが起こる駆動力は、TCNEとCo-Teクラスター層間に起こる電荷移動相互作用である。電荷を書き下すと[Co6Te8(PnPr3)62+][C60]3[TCNE]2となる。このことは、単結晶X線構造解析、紫外可視吸収スペクトル、赤外吸収スペクトル、ラマンスペクトルならびに量子化学計算によって明らかにした。要点は以下の通りである:(a) [Co6Te8(PnPr3)6][C60]3[TCNE]2のCo-Co間およびCo-P間の距離を比較すると、既報の文献から[Co6Te8(PnPr3)6]2+のものに近い;(b)  紫外可視吸収スペクトルも[Co6Te8(PnPr3)6]2+のものに近い;(c) ラマンスペクトルでフラーレンの A2g振動(1,469 cm−1)が通常のフラーレンと比較してほとんど変化なし;(d) IRでTCNEの還元に起因するバンド観測(vCN: 2,259, 2,218 cm−1);(e) 実測とDFT +U 計算 [5]から、各成分のレドックスポテンシャルを比較すると、Co-TeクラスターからTCNEへの2電子移動を起こす可能性を示唆。

有効性の検証はどうか

図3. [Co6Te8(PnPr3)6][C60]3[TCNE]x (ただし、x = 0, 1.0, 1.3, 1.8または2.0とする)の導電性に関する測定: (a) 室温での電気伝導率(σ /S·m-1)とIV曲線、(b) コンダクタンス(G /S)とアレニウスプロット (図は文献より引用)

  • TCNEがインターカレーションする量は、任意に調節([Co6Te8(PnPr3)6][C60]3[TCNE]x (ただし、x = 0, 1.0, 1.3, 1.8または2.0とする))できる。これは元素分析によって定量可能である。
  • それぞれの比率での導電性を測定している。その結果、比率(x)の増加によって、室温での電気伝導性(σ/S·m-1)を下げられることがわかった。また、熱伝導性の活性化エネルギー(G /S)も変化した。(図3)
  • プルーフオブコンセプトな位置づけの論文であるため、その他の超原子結晶やTCNE以外の化合物のインターカレーション現象は、検証されていない。すなわち、一般性の検証は不十分であり、この点は今後の検討課題の一つである。

先行研究と比較して,どこが良いか.

先行研究で超原子結晶のインターカレーション現象は、不均一かつ配列構造を損なうものが多かった。本研究では、均一なインターカレーションが起こり、かつ面方向の配列は保持されている。単結晶X構造解析レベルでの観測できるため、インターカレーションが高度な秩序をもって起こることを示している。

議論の余地はあるか

  • 一般性の検証は不十分である。すなわち、様々な超原子結晶での検討が必要。また、インターカレーションさせる分子もTCNE以外のものを検討する必要がある。
  • 層状構造をつくる超原子のデザインが必要になると考えられる。
  • 本コンセプトを用いることで、どんなアウトプットができるのかを、より具体的に考える必要がある。著者らは、導電性の制御を達成している。また、導電性制御の他に、磁性制御や光学特性制御も可能であると述べている。今後の具体的なアウトプットに期待したい。

関連する参考文献はなにか(特に次に読むべきもの)

  • Roy研究室の超原子結晶に関する論文。2017年になり、8報投稿している。特に、フラーレンとの共結晶に関する研究が盛ん。[1]
  • 超原子クラスターに関する総説。[3]
  • 日本では、超原子に関連したERATO山元アトムハイブリッドプロジェクトが立ち上がっている。デンドリマーを利用した選択的なサブナノクラスターの合成、およびそのライブラリの構築、機能発現などを目的に研究が進んでいる。このプロジェクトから出される論文は一見の価値あり。(詳細はリンクより)

参考

  1. Ong, W.-L.; O’Brien, E. S.; Dougherty, P. S. M.; Paley, D. W.; Higgs III, C. F.; McGaughey, A. J. H.; Malen, J. A.; Roy, X. Nat. Mater. 2017, 16, 83–88, DOI:10.1038/nmat4739
  2. 熱電変換材料の性能値(ZT値)は熱伝導率kに反比例する。すなわち、kが小さいほど(熱が伝わりにくいほど)熱電変換材料の性能が高い。(wikipedia参照
  3. クラスターケミストリーに関する総説: (a) Tomalia, D. A.; Khanna, S. N. Chem. Rev. 2016, 116, 2705–2774, DOI:10.1021/acs.chemrev.5b00367, (b) Claridge, S.A.;  Castleman, Jr., A. W.; Khanna, S. N.; Murray, C. B.; Sen, A.; Weiss, P. S. ACS Nano 2009, 3, 244–255, DOI:10.1021/nn800820e
  4. 例えば、結晶格子の特定の位置に特定の原子が多くなるような結晶格子を作り出せる。原子結晶の場合は、空隙以外の場所ではほぼ一様である。
  5. Density functional theory with on-site Coulomb interaction (DFT + U) calculations: Anisimov, V. I.; Zaanen, J.; Andersen, O. K. Phys. Rev. B 44, 943-954, DOI:10.1103/PhysRevB.44.943

関連リンク

Roy Group HP: http://www.columbia.edu/cu/chemistry/groups/roy/research.html

ERATO山元アトムハイブリットプロジェクト: http://www.jst.go.jp/erato/yamamoto/index.html

関連書籍

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博士(工学)。九州でポスドク中。専門は有機金属化学、超分子合成、反応開発。趣味は散策。興味は散漫。つれづれなるままにつらつらと書いていきます。よろしくお願いします。

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